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穏やかに繰り返される呼吸のリズムが、彼の深い眠りを匂わせる。
ああ、そうか。こんなことになったのは、エイナリ様のせいだったんだ。
「急用が出来てしまったから、会いに行けないということをカイに伝えてきて貰えるかしら」
「かしこまりました」
私は王妃様に急用が入ったことをカイ王子に伝えるためエイナリ様を探していた。しかし見つけることができないまま、仕方なしにカイ王子の執務室へ向かった。
執務室にいたのは、扉の近くで控えるエイナリ様と、机に突っ伏したカイ王子。
「さっきは他人行儀に話しちゃったけど、改めて。久しぶりだね、アイリちゃん」
カイ王子は寝ているのだろうか。エイナリ様の声は小さく、近くにいる私にだけ聞こえるであろう声で話していた。
「お久しぶりです、エイナリ様。お元気そうで何よりです。カイ王子に王妃様は急用でいらっしゃれないということをお伝え願います」
「分かったよ。ねえ、いきなりで何だけど、頼みがあるんだ。いいかな?」
「頼み、ですか。構いませんが」
「今日だけでいいから、アレ…じゃなかった、王子の世話をしてあげてくれないかな。王妃様には僕から話を通しておくからさ」
「王子付きの侍女がいるのでは?」
「そこは気にしないで。ね、だめかな」
「…分かりました」
肯定の言葉を聞くと、エイナリ様は優しく微笑んだ。細められた目の上の、銀色の睫毛に夕日の赤が映る様は、只々美しかった。
「ありがとう。アイリちゃん」
カイ王子の自室。
「お仕えさせていただきますアイリです。よろしくお願いします」
「ああ」
お仕えするといっても、カイ王子はすぐにお休みになられるとのことで私に出来ることは少ない。
寝間着に着替えるのをお手伝いし、ベッドに入られたのを確認して下がることにした。
「お部屋の外におりますのでご用がありましたら鈴をお鳴らしくださいませ…王子?」
しかし、それは阻まれてしまう。
先程と同じように、カイ王子に手首を掴まれることによって。
「カイ王子…?」
手首を掴んだまま黙り込んでしまった王子。ベッドに座っているためだけでなく、俯いてしまっているために表情は伺えない。
「…う、わっ」
自宅の城の自室にあるベット以上に滑らかな肌触りが、背中ごしに伝わる。
私は押し倒されていた。
回想はあと1話で終わる予定です。あくまでも、予定ですが…。
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