婚約破棄したのはあなたです。恋人に捨てられたから復縁? やっと忘れた私を怒らせないでください
「婚約破棄しよーか?」
婚約者だったリチャード・ベルクライン王子が、朝の挨拶と同じノリで言ってきた。
時間はまさに朝で、政務を行う宮廷の一画の入り口は、見知った顔も見知らぬ顔も、自分の仕事部屋へと向かって歩いているところだった。
そこに王子の発言は異質で、みんなの注目を集めるには十分だった。
『子爵令嬢のレティシア・クロフォードが、第二王子に婚約破棄された!!!』
このニュースは瞬く間に宮廷を駆け巡り、私がリチャードの政務補佐の仕事部屋に着くと、席に着く前に同僚から聞かれた。
「リチャード王子と婚約破棄したんだって!?」
ニッコリ笑うのは侯爵令嬢のヴィヴィアン・クレストだ。
「身分違いだったもの、仕方ないわよ」
慰めてくているように見えるのは伯爵令嬢のイザベル・モンフォール。
言葉とは裏腹に笑みが隠せていない。
二人が、自分より身分の低い子爵令嬢の私が第二王子と婚約した事が気に入らなかったのは知っている。
陰で嫌がらせを散々されて、表立っても嫌味を言われていた。
だから、『婚約破棄しよーか?』とリチャードから聞かれただけで、私は婚約破棄に同意していないから、まだリチャード王子の婚約者なんだけど……言ったところで、もうみんなに知れ渡っているから無駄ね……。
「次の夜会では、リチャード王子は新しい婚約者を探すわよね」
「そうね。今度は王子に相応しい方に気づいて欲しいわね」
私の意思なんてお構いなしに婚約破棄は既成事実になってる。
しかも、リチャードが『婚約破棄しよーか?』なんて私に同意を求める形で言ってきたから、話し合って婚約破棄したかのように思われていた。
「リチャード王子の何処が気に入らなかったの?」
第一王子のフレデリックの政務補佐をしている侯爵令嬢のローラ・エインズワースに聞かれた。
「……」
私は何も言えない。
リチャードの気に入らないところなんて沢山ある。
第二王子のリチャードの政務補佐になってから、あまりのいい加減さに泣きたくなった。
それでも、一生懸命に頑張っていたら、私みたいな冴えない子爵令嬢でも認めてくれて……婚約を申し込んでくれてた!
それだけで嬉しかった……!
だから、リチャードの良いところばかりにしか目がいかなくなって……好きになっていたのに……。
まさか、こんな逃げ場のない形で婚約破棄されるなんて……。
ローラが第一王子のために資料を取りに行ってる。
私の持ってきた第二王子リチャードからの依頼書を見る時に必要な物だ。
私は誰もいない第一王子の政務補佐の仕事部屋に残された。
リチャードと違って第一王子のフレデリックの女性の政務補佐はローラだけだ。
リチャードに言わせれば、「あれじゃ仕事にならない」だけど、あなたの政務補佐の私は、ヴィヴィアンとイザベルが邪魔で仕事にならない時があるのよね。
ローラ自身は超優秀だけど、一人だからこそもっと効率よく働けていると思う。
「ローラ……」
待っていると、第一王子のフレデリックがやって来た。
「あ、ローラは、私が持って来たリチャード様の依頼書を理解するために必要な書類を取りに資料室へ行っています……!」
私はフレデリック様に伝えた。
第二王子の政務補佐の私は、第一王子のフレデリック様ともよく顔を合わせる。
「レ、レティシア!?」
フレデリック様は必要以上に私がいることに驚いている。
「…………っ!」
落ち着くまでに間があった。
優秀なフレデリック様には珍しい。
「弟と婚約破棄したんだって?」
ああ、弟に婚約破棄された女と、婚約破棄さえされてから一時間も経たずに会うのは気まずいかもしれな……いや、フレデリック様も『婚約破棄したんだって?』って私がしたみたいな言い方をしてる。
「……あの、私はリチャードに婚約破棄されたんです……! 私は、婚約破棄なんてしたくありませんでした……」
「え……?」
フレデリック様は、また驚いている。
言ってしまって自分でも驚いた。
婚約破棄したくなかったなんて、誰も信じてくれそうにない状況だから言えないと思っていたのに、よりによって第一王子に言ってしまうなんて……。
『リチャードは、あなたの弟でしょう?』
そう、責める気持ちがあったんだ。
「す、すみません……! フレデリック様に言っても仕方ない事なのに……!」
「いや、リチャードは昔から勝手な奴だったから、君の気持ちを無視する事もあるだろう……」
なんとなく気まずい雰囲気になっていたところにローラが戻って来た。
リチャードからの依頼書はローラの取って来た資料と合わせたら、すぐに返事が貰えると思っていた。
だから待つつもりだったけど、時間がかかると言うことで、一旦預けて戻る事にした。
フレデリック様が気まずい空気から、私を一旦避難させようと気を遣ってくれたような気もする。
「別れられて良かったな」
「ああ、鬱陶しい政務補佐の令嬢たちから逃げるための婚約だったのに、本当に結婚させられたら困るからな」
「しかし、よく思いついたな、一方的に婚約破棄したくせに、相手も同意していたように見せかけるなんて方法」
「僕の本物の恋人は誰よりも有能なんだよ」
自分の仕事部屋に戻る途中で話声が聞こえた。
話していたのは、公爵子息とリチャードだった。
“本物の恋人”
“本当に結婚させられたら困る”
“鬱陶しい政務補佐の令嬢たちから逃げるための婚約だった”
ああ、そういう事か。
『私みたいな冴えない子爵令嬢でも認めてくれて——』
そんな事はなかったのね……。
◆◇◆
私はリチャードの政務補佐の仕事を今日限りで辞めることにした。
「円満に婚約破棄したんだから、辞める事はない。君がいないと困る事も多いんだ、続けてくれないか?」
リチャードの男性の政務補佐のクラウスに言われる。
やっぱり、円満な婚約破棄だと勘違いされてる。
「辞めなくて良いのよ、レティシア」
「私たちは気にしないから」
同じ部屋で聞いていたヴィヴィアンとイザベルが言って、クラウスが苦笑いしている。
私がいなくて困るのは令嬢二人なのに……。
でも、私がいなければ、その二人の後始末をクラウスがしないといけなくなる……。
クラウスの為にも辞めるわけにはいかないか……。
第一王子のフレデリックに渡した依頼書も気になる。
……実は依頼書はリチャードに渡されてから、少しだけ手直しした。
元のままだと問題が起こるからこっそり手直しする事はよくあった。
私がいなくなった後に戻された書類を見て、リチャードが、手直しした箇所を元に戻したら大変だ。
すぐに辞められない理由が見つかってしまった。
「レティシア、君には辞めて欲しくなかったから、仕事を続けてくれて嬉しいよ」
後でリチャードからも言われた。
私が婚約破棄に同意したと誤解されてるから、辞められない事も『本物の恋人』と考えた事なのかもしれない。
その後からすぐに、リチャードは『本物の恋人』カミラ・ブリストル公爵令嬢の事を、仕事場でも惚気はじめた。
「昨日の夜会で、僕が贈ったドレスを着たカミラは本当に美しかった。またあの仕立て屋に頼みたいから、手配してくれ、ヴィヴィアン」
「カミラが僕に早く会いたいと言うから、今日の予定は別の日に移してくれ、頼むよ、イザベル」
ヴィヴィアンとイザベルが唖然とそれを聞いていた。
「何よ、あれ、絶対にレティシアの方がいい子だったと思うわ。会いたいくらいで王子の予定を変えさせるなんて……!」
「公爵令嬢なんて……身分を鼻にかけた嫌な女にしか会った事がないわ。リチャードさまも見る目がないわね、こんなに素晴らしい婚約者がいたって言うのに!」
急に二人とも私の味方になってくれた。
「なんで私がこんな女のために、仕立て屋の手配しなきゃいけないの?」
「予定の手配だって、私がやらなくていいわよね?」
「「レティシア、お願い!」」
仕事をやらないのは相変わらずだったけど。
「はぁ……」
私はため息を吐きながら、押し付けられた仕事を片付ける。
令嬢二人は調子だけはよくて、いい加減で自己中だけど、今だけはいてくれて良かったわ……。
無神経なリチャードの新しい恋人との惚気話を直接聞かされなくて済むもの。
リチャードと婚約していた時に、一度だけドレスを贈って貰った。
子爵令嬢には絶対に手が出ない高級なドレスに、お姫様になった気分だった……。
そんなドレスを何着も贈られるリチャードの本当の恋人のカミラは公爵令嬢で、自分でだって買えるんだから、私よりは喜んでないはずなのに……似合って美しい方がいいんだ……。
うるさい令嬢二人がいなくなって、仕事が落ち着くと、つまらないことを考えてしまう。
最初から利用されてただけなんだから、傷つくところが違う。
騙されて利用されてたんだから、もっとリチャードに怒るべきなのに……好きになってもらえていなかったことの方がずっと悲しい……。
リチャードの姿を見るだけで辛くなるから目を伏せて、でも、声は聞こえて来るから、目頭が熱くなって涙がこぼれそうになる。
どんな理由があってもリチャードの政務補佐の仕事は辞めるべきだった。
そう後悔しても、今更遅くて——。
時間が経って、やっと何も感じなくなった。
「やっと忘れられた。やっと乗り越えられた」
前よりも強くなれた自分に胸をはれる。
リチャードの事なんて、もうどうでもいいです。
私は、あなたの政務の補佐が仕事なだけ。
◆◇◆
第一王子のフレデリック様の政務補佐のローラのところに来る。
王子同士だからリチャードとは……いや、リチャード様ね、もう婚約者でもないし、呼び捨てにする程親しみも感じてないわ。
王子同士でのやり取りは多いからローラの所にはよく来るけど、気まずい一件以来、フレデリック様とは顔を合わせていない。
今日は、前回と同じくローラが資料を取りに行っている間にフレデリック様がやって来て、私と二人きりになった。
「……レティシ……」
「すみません、フレデリック様!」
フレデリック様の言葉を遮って、私がすぐに頭を下げたから、フレデリック様は驚いている。
実はずっと謝ろうと機会をうかがっていた。
「リチャード様に婚約破棄された事を、この間はフレデリック様に八つ当たりするような形で伝えてしまって申し訳ありませんでした。あの時は婚約破棄された直後で私も混乱していたのです。今はもうリチャード様のことはなんとも思っていませんので、あのことは忘れて下さい!」
一気に言って頭を下げた。
「……無理はしなくていい。実は君に対しての慰謝料について国王と話していて……」
「い、慰謝料!?」
驚きすぎて、またもや、フレデリック様の言葉を遮ってしまう。
私こそ、慰謝料を払う必要があるかもしれない。
「俺と第二王子のリチャードは、まだどちらが王位を継ぐのか決まっていなかったから、君には王妃になる為の教育を受けて貰っていただろう」
「あ、はい……たくさん、勉強させて頂きました」
私の答えにフレデリック様が笑う。
「普通の女性は王妃にはなりたがるが、王妃教育なんて面倒なものは嫌がるものなんだよ」
「それは、ろくな女性と付き合ってませんね」
なんとなく同僚のヴィヴィアンとイザベルが思い浮かんで口をついて出てしまう。
フレデリック様がまたしても驚いている。
ああ、慰謝料を本格的に用意しないと……。
「あ、フレデリック様の政務補佐のローラ様だったら、きっと喜んで受けて頂けると思います」
「……そうだな、ローラなら楽しんでやってくれそうだが、もう婚約者がいるからね」
ローラは、私と一緒にリチャード様の政務補佐をしているクラウスと最近婚約した。
二人とも優秀で、私が話していても似た雰囲気を感じるから、とってもお似合いで相性抜群だと思う。
「君は本当にリチャードを好きだったなら、お金で許せるとは思わないが……」
「好きじゃありません! リチャード様のことなんて好きだった事はありません!」
あ、三回目だ。
フレデリック様の話をまた遮ってしまった。
「レティシア、君はリチャードと婚約破棄したくなかったと言っただろう」
「……あの時は、リチャード様が私を認めてくれたと思ったから、好きになろうと思ったんです。それを、本当に好きだと勘違いしていただけで、元々リチャード様のことは嫌いだったから……」
「は、ははは!」
フレデリック様の笑いが、今度は私の言葉を遮った。
「き、君は……ははは、リチャードが……嫌いだったのか……あはは!」
フレデリック様が心底楽しそうに、でも、笑いすぎて苦しそうに笑っている。
いや、よく考えたら、第二王子を第一王子の前で嫌いって言うなんて、ダメだったんじゃない!? つい勢いで何も考えずに言ってしまったけど!
「ははは!」
……これだけ笑っておられるって事は、第一王子のフレデリック様もリチャード様が嫌いで……い、命拾いしたわ……!
「あの、でも、それは私がリチャード様のそばで働いているからで……何も知らずに出会って婚約していたら、ちゃんと好きになれていたと思います!」
フレデリック様の笑いが一層大きくなった。
「し、知っているから、ははは……嫌いなのか……ははっ」
な、何故!?
ひとしきり笑った後で、フレデリック様が私に真面目に向き直る。
「ぷ」
また、笑ってしまう。
よほど面白かったのだろう。
まあ、途中から私も釣られて笑ってしまっていたけど……。
「リチャードの世話をしてくれたんだ。慰謝料じゃなく、正当な労働の対価だと思って受け取ってくれ」
それなら悪くないと思ったけど、
「仕事で勉強できるなら、せっかくだから王妃教育を最後まで受けてから婚約者をクビになれば良かったわ……」
って、また余計な事を言ってしまったわ。
やっぱり、フレデリック様が驚いたように目を見開いている。
一緒に笑い合ったりしたから親しみを感じてしまったけど、フレデリック様は第一王子で、リチャードと比べたら失礼なくらい立派な方なのに。
ちょうど、ローラが資料をとって戻って来た。
また、返事は後日もらえる事になったから、急いで私は戻って行った。
謝罪して、更に謝る事を増やしてしまった気がするけど、もっと話したらもっと失礼な事を増やしそうだわ。
フレデリック様とは出来るだけ関わらないようにしよう。
◆◇◆
いつものように仕事部屋に着くとリチャード様が私を待っていた。
「レティシア、君が受けていた王妃教育はそんなに難しくなかったんだろう?」
……はい? 今頃その話?
私と婚約してた時には興味なんてなさそうだったのに。
「難しくはありませんでした。勉強にはなりましたけど」
「やはり子爵令嬢には簡単なことしかやらせていないのか……」
私の答えを聞いて、独り言のように呟いてリチャードは出て行った。
何……?
なんだか身分で馬鹿にされた気がしたけど、いつものことよね。
ただ、王妃教育は身分の低い方が厳しくなると思うんだけど。
我が国の王妃は子爵家出身だから礼儀作法がなってないなんて言い訳は出来ないんだから。
「リチャード様の婚約者の公爵令嬢のカミラが、王妃教育が嫌だとゴネているらしいわよ」
「公爵令嬢ともなれば、甘えが許されていいわよね」
ヴィヴィアンとイザベルは公爵令嬢でもないのに甘えてると思うけど……。
まあ、私は今まで通りでいるだけだわ。
更に数日後に、同僚の令嬢二人が噂話をしていた。
「リチャード様は王太子になれなかったらしいわね。第一王子のフレデリック様が王太子に決まったらしいわよ。婚約者のカミラの言いなりだったもの、国は任せられないわよね」
「そのカミラは王太子教育をやらされたのにって怒ってるらしいわね。全然教育が進まなくて、彼女のせいでリチャード様は王太子になれなかったんじゃないかって噂されてるのに、よく言えるわよね」
本当の恋人は有能だとリチャードが言っていたと思ったけど……。
まあ関係ないわ。
どうでもいい……のに……フレデリック様が王太子に!?
どう考えてもリチャード様よりフレデリック様の方が王太子に相応しいけど……王妃様は誰になるんだろう。
リチャード様より、もっともっと関係ないのに、フレデリック様の事が気になる……。
「やっぱり僕の婚約者は君しかいない、レティシア! 復縁しよう」
「……はい?」
時間は朝で、政務を行う宮廷の一画の入り口。
以前、リチャード様に婚約破棄された場所で、リチャード様が、朝の挨拶どころか、寝ぼけた事を言う。
リチャード様は何を言ってるの?
今朝も、見知った顔も見知らぬ顔も、自分の仕事部屋へと向かって歩いているところだった。
そして、以前と同じ異質なセリフにみんなが興味深々だった。
そこに私は言葉を放った。
「リチャード様、私を怒らせないでください」
にこりと言う私。
リチャード様が狙った、以前と同じ展開にはならなかった。
以前は、王子と子爵令嬢なら、王子に婚約破棄を言い渡されたら身分差から当然、破棄されるものとみんなが思うから成立した事。
今の、王太子になれず、婚約者だった公爵令嬢に愛想を尽かされたあなたと復縁するなんて、余程のもの好きだけ。
当然、周囲は私が断るものと思って見てるの。
「レティシア、君がカミラより劣っている事を気にしてるなら、僕が良いと言ってるんだから気にするな」
……どこまで自分勝手なんだろう。
何も分かっていないから、そんな事が言える。
「リチャード様、私はあなたの顔も見たくないのに政務補佐は続けてあげているんですよ。復縁なんてするわけないでしょう? つまらない事を言って、もう二度と、私を怒らせないでください」
私の立場をもて遊んで、気持ちを掻き回して、簡単に捨てたのはあなたです。
あなたを好きだと思っていた気持ちが勘違いだったとしても、ぐちゃぐちゃになった気持ちを整えて、乗り越えるまで苦しんだ時間は、ちゃんと私の中に残っている。
忘れたように振る舞っても、全部なかったことになったわけじゃない
服縁なんて舐めたこと言われたら、当然、怒りますよ。
私はにこりとした表情を崩さずリチャードを見た。
「ぷ」
誰かが吹き出した。
——この声って……。
リチャードはカッと怒りを露わにした。
私に鋭い視線を送るけど、やっと周囲から自分に向けられている目に気づいたようだ。
度重なる身勝手な行動で、自分自身の価値を下げていた。
カミラに振られて、私に復縁などと言わなければ、まだ、同情してくれる人もいただろう。
周囲の呆れた視線に対抗するように、私に鋭い視線を送って、無言でリチャード様は去って行った。
最後の一瞬だけ、深い後悔と悲しみが瞳をよぎった。
リチャード様がいなくなった後、ザワザワと朝の喧騒が戻ってくる。
人々は私に好奇の視線を送るけれど、自分の仕事場へと向かって行く。
私も、自分の仕事場に行くつもりだ。
またリチャード様に会うだろうけど、仕事をするだけ。
「待ってくれ、レティシア!」
呼ばれて振り返るとフレデリック様がいた。
王太子になられたと言う噂だけど、さっき吹き出したのって……。
「俺にも勝手な事をする事を君に許して欲しい、レティシア」
「……勝手な事って? 私にフレデリック様の行動を制限する事なんてできませんけど……」
周囲の人々はまたもや、フレデリック様と話す私に注目している。
「許しが出たので……」
許しって……今のは違うと思うけど。
フレデリック様は私に近づくと、跪く。
「はい……?」
何故、フレデリック様が私の目の前で跪いているの?
「レティシア、俺と結婚して欲しい。俺を王太子にしてくれるのは、王妃になれる君だけだ!」
……はい?
「王妃になれる? 私がフレデリック様を王太子するなんて、順番が逆ですよ……?」
「逆じゃないんだ。王妃教育を進められた令嬢が君しかいないんだ。だから、俺とリチャード、君に選ばれた方が王太子になる事になったんだよ」
フレデリック様が言うけど、嘘でしょう!?
「す、好きな方に、ちゃんとプロポーズしてお願いすれば、きっと王妃教育を受けてくださいますよ」
「俺の好きな人は、俺がプロポーズする前に王妃教育を受けてしまったんだ。君のことだけどね、レティシア」
「え!? わ、私……!? そんな、リチャード様の婚約者になる前には、話したこともありませんでしたけど!?」
リチャード様の依頼を届けて、挨拶くらいはしたけど……。
「君の持ってきたリチャードの依頼は必ず修正されていて、的確なものだった。君が控えめで優秀な事は話さなくても分かったよ。好きになるには、十分だろう……」
好きになるにはって……。
私も、リチャード様のいい加減さをずっと見ていたから、フレデリック様の政務補佐のローラ対する対応だけでも、有能さや人柄が分かって……好きになっていた……。
でも、絶対に王子様になんて私を好きになってもらえないから、あきらめていた。
そこに、第二王子のリチャード様のから婚約を申し込まれて……王子様にも好きになってもらえると思って舞い上がってしまって、それが、リチャード様への気持ちだと勘違いしていった……。
かぁっと顔が真っ赤になる。
リチャード様との婚約破棄で本当に私が乗り越えた恋心はフレデリック様へのもので……。
しかも、全然乗り越えられてなくて、まだ、大好きで……。
ふと、周囲の視線が気になった。
彼らはこの状況をどう見ているんだろう?
フレデリック様は非の打ち所がない完璧な王子様だから、プロポーズは受けて当然なのに……みんなが私の返事を気にしている。
リチャード様にさんざん振り回されたから、王子様はもうこりごりだと思ってそうと思われてる?
選ぶのは私なのに、こんな注目されてる場所でフレデリック様を振るなんて出来ないし、逃げ場がないわ。
「ずるいです、フレデリック様……」
「嫌なら断ってくれ。弟のリチャードが公開で君に失礼な事をし続けたんだ。俺をみんなに前で振ったら少しは埋め合わせになるだろう」
……!
そんな事まで考えてくださってるの!?
「……本当にずるいです……フレデリック様は、こんな時にももっと好きにさせてしまうなんて……」
私はフレデリック様を見ずに言う。
「レティシア! 俺と結婚してくれるんだね?」
フレデリック様の顔が綻ぶ。
「はい……」
フレデリック様に抱くあげられた。
みんなの前でお姫様抱っこされてる。
恥ずかしい。
周りのみんなは祝福して、大盛り上がりだった。
ただ、私だけは気持ちが沈んでいた。
「レティシア? 本当は嫌だったのか?」
私は首を振った。
「嬉しすぎてフレデリック様に抱きついてしまいそうだから我慢してるんです」
フレデリック様にキスされた。
「……!!?」
「レティシアが可愛いいから、思わずキスしてしまったよ」
周囲もキスに歓声が沸いた。
フレデリック様に可愛いって言って貰えて、キスまでされるのは嬉しいけど……。
「リチャード様の仕事場に戻ったら政務補佐の同僚の令嬢に嫌味を言われてしまうから嫌なんです」
「なんだ、もうリチャードの所になんて返すつもりがないよ。王妃教育の仕上げと、王太子妃としてやってもらわないといけない事がたくさんある」
「え? 今からですか!? でも、まだ仕事がたくさん残っているから、私がいないとローラの婚約者のクラウスが大変になります」
「責任感も大事だが、それだけじゃいつまでも辞められなくなる。クラウスなら困っても乗り越えられるから大丈夫だ。それにリチャードはもう王太子候補ではないから、仕事は半分以下になる。クラウス一人で十分だ」
フレデリック様は最初から令嬢二人は当てにしてないみたい……。
「……じゃあ、完全にリチャード様と関わらなくていいの?」
「王太子妃として、義姉としては関わってもらう必要があるが……」
私はお姫様抱っこされながらフレデリック様の首に抱きついた。
「最高のハッピーエンドだわ!」
そうして、二人でキスをして——。
婚約破棄された場所で、最高のプロポーズをされて、最高の幸せを手に入れました。




