中編
ブルーワース伯爵家のルカを知らない貴族はよほどの世間知らずか社交界のモグリだ、とは誰が言い出した噂なのだろう。気が付けば私はすっかり社交界の有名人になっていた。
17歳になった今でも男の子に負けないほどの高身長に、それについた手足は棒のように細くてしなやかに長い。肉付きの悪い体質らしく、幼馴染のマリアンナやほかのご令嬢たちのようなメリハリのある女性らしい体つきとは程遠い身体。下着でちょこっと胸や腰を補正すればすっかり男に紛れてしまえる。父親によく似た切れ長の瞳と薄い唇は女の子としてはいささか華やかさに欠ける顔立ちで、これまた少しメイクで整えれば若い頃の父親そっくりの青年が鏡の中に現れる。自前のやや低くてハスキーな声を合わせればとても年頃の令嬢とは思えない、どこからどう見ても若い男の子の完成だ。それこそが私、マルカ・ブルーワース。男装の変わり者令嬢。
病を患い寝たきりになった父親の代わりに、そして幼い弟が成人するまでの名代として異性装で社交界に飛び込んでから、もう3年と少しが過ぎていた。今ではドレス姿よりもスラックス姿が板につき、学園にも男子生徒の制服で通うようになっていた。本名の「マルカ」と呼ばれるよりも、愛称となった「ルカ」と呼ばれる方が耳になじむほど。
そんな姿が定着するにつれ同じ世代の恋に恋する令嬢たちの疑似恋愛対象として恰好の的となり、ルカ様ルカ様と同性から大モテにモテるようになってしまっていた。令息たちの少しの嫉妬が混ざった生暖かい視線を浴びながら女の子たちをエスコートしてはダンスを踊ることも数知れず。おかげでダンスは女性パートよりも男性パートの方が上達した。
異性装を始めた当初はそんな姿を好奇の目で見られることや、馬鹿な娘の悪ふざけと厳しい目で見られることも少なくなかったが、そこは父親の代理として、そして弟が成人するまでの代わりとしてブルーワース家を支えるという使命の元、当主代行をしっかりとこなすよう努力した。申し訳ないと泣いていた父も私が本気だということが伝わってからは病床からできる限りの手助けをしてくれて、そして幼馴染たちの立派な実家がたくさんサポートをしてくれたおかげもあって、地道な努力が実を結び3年が経った今では例の噂が浸透しているようにこの姿はすっかり社交界に浸透しきっていた。
ごくたまに田舎の領地に引きこもっているような方や、異国からの来賓の中には私を本当の男だと思い込んでしまう方もいるのだが、特別否定も肯定もせずにやり過ごすのが常だった。最初は丁寧に説明をしていたのだが、時々馬鹿にされていると思って怒らせてしまうことがあったのだ。自分で否定するより周囲の人から言われる方が腑に落ちやすいらしく、その場で説明せずとも大抵は親族や近くにいる人から真実を聞かされるので誤解されたまま、という事態にはこの3年間で一度もならなかった。
それがまさか、こんなことになるなんて。
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今年から学園に編入してきたエレノア・ピンカー男爵令嬢が男子生徒を虜にして女子生徒から顰蹙を買っているという話が出始めるのに時間はかからなかった。隣でぷりぷり怒りながらティーカップを持ち上げるマリアンナもピンカーさんにいい感情を抱いているとは言えない。
「ザックは必要以上にあの方を構いすぎですわ! ルカもそう思うでしょ?」
先ほど、もう1人の幼馴染であるアイザックにお茶を一緒にどうかと誘い、なぜか一緒にいたピンカーさんから断られたことでマリアンナのご機嫌は斜めになりっぱなしだ。
「生徒会長として見捨てられないんだろうね」
苦笑を浮かべて返事をすれば、マリアンナの斜めのご機嫌は私の方に刺さるよう舵を切られてしまった。
「そもそも怒ってるのがわたくしというのがおかしな話ですわ! ルカが婚約者として抗議すべきですのよ!?」
「うーん、そうは言ってもね……。わぁ、アンナ! この茶葉すごくいいね、後味爽やかで私好きだな」
「あら、ルカもそう思う? わたくしも気に入って……そうではなくて! はぐらかさないで!」
ぷりぷりと怒るマリアンナに私は微笑みを返すことしかできない。
「私は何も言わないよ。アイザックが私の男装に何も言わないでいてくれるように、私もアイザックのすることには口を出さないと決めているんだ」
そうは言いつつ先ほど見たアイザックに張り付くようにしていたピンカーさんの姿を思い出すと心に影がかかってしまうのは止められない。もやもやとした嫉妬心を押し込むように紅茶を流し込んだ。
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母親同士が学生時代の親友だったという縁で物心ついた時から一緒に過ごしてきたアイザックと婚約を結んだのは去年、16歳の時。その頃にはすっかり男装が周知されていて、『知らぬ人はいない』という噂も浸透していた時期で。
女の子に人気が出始めて同年代の男の子からはライバルとすら見られていたから、これじゃあ弟に立場を譲ってもすぐには結婚は望めないなと思い始めていた時だった。
「マルカの背を抜いたら申し込もうと決めていたんだ」
知らぬ間にすこし見上げるほど大きくなっていたアイザックがはにかみながらそう伝えてくれた日のことは今でもはっきりと覚えている。幼い頃はずっと私の方が背が高くて、アイザックはいつも少し悔しそうな顔をしていた。それが、いつの間に逆転されていたのだろう。
アイザックのことは小さい頃から好ましく思っていた。誰より近くにいる男の子だったからだ。でもアイザックは公爵家の嫡男だし学園の成績も優秀で、身分も高く顔もかっこよくて運動もできれば頭もいいとくれば同年代の令嬢は誰もが一度はアイザックに憧れた。アイザックに興味がないと言うのはマリアンナくらいのものである。
幼馴染とはいえ男装して駆けまわっている自分が女の子たちから人気のあるアイザックと結ばれる未来があるなんて考えたこともなくて、せめて幼馴染として側にいられればいいとだけ考えていたから、婚約が決まった時は本当に嬉しかった。
婚約者の間柄になってからアイザックは私をマリーと呼び出した。“ルカ”になる前からそんな風に呼ばれたことがなかった私は、呼ばれるたびに恥ずかしくて真っ赤になってしまう。そもそも世間では変わり者扱いの私にそんな可愛らしい愛称なんて似合わないと何度言ってもやめてくれなかった。
「愛しいマルカを男の名前で呼ぶなんて私は絶対に嫌だ。他の人が呼ぶのも本当は気に入らないんだよ。でも君がそう呼ばせるは君の意志だから、それを無理に止めることはしなくない。ならせめて婚約者だけに許された呼び名があってもいいだろ? マリーが嫌ならハニーでもいいけど」
「ハニーだけはやめて!!」
真っ赤になってそういえばからからと笑われた。何度呼ばれても慣れることなく顔を赤くしてしまうのだが、私をマリー、と呼ぶときのアイザックの優しい笑顔が大好きでつい絆されてしまい、結局学園では呼ばないことを条件に許してしまった。大好きで大切なアイザックのお願いを私が断れたことはほとんどない。マリアンナから私は甘すぎるとしかられたことは一度や二度ではない。
なんだかんだと言いつつアイザックとは婚約者として1年、幼馴染としてはもう10年以上を過ごしてきた。マリアンナと3人でいつも仲良く過ごしていたアイザックとの関係が変わったのはピンカーさんが編入してからだ。
5年生から編入してきたエレノア・ピンカーさん。街で暮らしていたピンカー男爵の娘さんだという彼女は私とは全く違う意味で令嬢らしくない女の子だった。
貴族としてではなく一般市民として市井で暮らしていた彼女はお淑やかな令嬢たちとは違い、表情豊かに笑う姿や男子生徒にも気軽に触れたり話したりして私たちを驚かせた。
小柄でふわふわした優しい色合いの髪に桃色の瞳は本当に可愛らしくて、あどけない無邪気な姿にに惹かれる男子生徒が続出した。それに反感を抱いたのは女子生徒たちだった。
はじめのうちは慣れない彼女に親切にしていたのだが、男子生徒とばかり親しくして女の子たちにはそっけない態度のピンカーさんは次第に女の子たちから浮いていった。かくいう私も、彼女のことを好意的に見れていたわけではない。もちろんその理由はアイザックだ。
5年生から生徒会長を務めるようになったアイザックはピンカーさんの世話役も先生方から頼まれたのだという。そのことは新学期が始まる前にアイザックから直接聞いていて、新学期から少しの間はそちらを優先すると言われていた。生徒会の仕事の邪魔をしたくなかった私はもちろん了承したし、前例のない編入生なんてアイザックはもちろん本人も大変だろうと心配もしていた。何よりせいぜい数週間、長くてもひと月程度だと思っていたからだ、それが、こんなことになるなんて思っていなかった。
アイザックにすっかり心を許したピンカーさんは新学期が始まってしばらくしてもアイザックの側を離れることはしなかった。生徒会室にも入り浸りアイザックと一緒にいるのだという。クラスの違うアイザックを見かける度に隣にはピンカーさんがいた。隣り合って笑う姿を見ると胸がきゅっと痛くなる。
「ルカがザックをしからないならわたくしがビシっと言ってやりますわ」
「アンナってば……」
マリアンナがいてくれてよかった。そう思うのは新学期が始まってからもう何度目だろう。自分の名誉を守ってくれる存在がいることがどれだけ励みになるだろう。だからと言って、マリアンナに頼り切りになってはいけない。
「気持ちは嬉しいよ、ありがとう。でも私は大丈夫だよ」
「ルカ……」
「マリアンナお嬢様、マルカ様。アイザック様がお見えです」
そう決意を新たにしたところで、侍女から思いがけない声がかかった。ピンカーさんと街に行ったはずのアイザックがレッドフォード家を訪ねてきたのだ。
「ああ、やっぱりまだいた。間に合ってよかった」
「あら何しにいらしたのかしら、この浮気者は」
まだご機嫌が直らないマリアンナはツンと顔を背けたままだ。手厳しいな、と苦笑いを浮かべたアイザックは私の隣に座るとごめんと素直に頭を下げた。
「あそこで押し問答してもピンカー嬢が引くと思えなくて、悪かったよ。こうして撒いて……いや、早めに切り上げて急いで来たんだ。そんなわけで喉が渇いているんだが、私にもお茶を恵んでくれないか?」
「……ルカ、どうする?」
頭を下げた格好で上目遣いに見つめてくるアイザックと、そんな彼を呆れたように見るマリアンナ。もう何年も繰り返してきたいつもの光景に、私は嬉しくて笑みがこぼれた。
「来てくれて嬉しいよ」
「マリー!!」
「ああもう! 本当にルカはザックに甘いのだから!」
大げさにため息をついたマリアンナはさっと侍女に指示を出してアイザックの分のお茶を用意させる。なんだかんだと言って、マリアンナとアイザックも仲が良いのだ。
「それにしてもよくこんなに早く解散できましたわね」
「あぁ、なんか露店を見てから様子が変で。体調悪そうだからって帰したんだ」
「そうなんだ……それはちょっと心配だね」
「まぁ、それは別にいいんだ。それよりこれ。すぐに渡したくて」
そう言ってアイザックは鞄から綺麗に包まれた何かを手渡してきた。愛しのマリーへ、と書かれたメッセージカードにどきっとする。
「何?」
「プレゼント。開けてみて」
どきどきしながら丁寧に包みを開けてみると、中には綺麗なブローチが入っていた。小さな黄色い石がいくつもついていて、複雑な意匠はよく見ると獅子をかたどっているとわかる。その繊細な造りにも感動したが、何よりもそれを意味するものに、私の鼓動は高まっていった。
「金色の、獅子?」
「そう。今日街の露店で見かけてさ……。金の獅子はゴールディング家の紋章と同じだろ? 最近あまり一緒にいられないから私の代わりにマリーを守ってくれますようにって。自分用にはこれ」
アイザックが差した制服の襟には、青い石が付いた燕の衣装のブローチが付いていた。青い鳥は我がブルーワース家の紋章と同じ意匠だ。
「マリー本人と一緒に過ごせるのが一番いいけど、私も生徒会が忙しくてなかなかそうはいかないし……マリーはマリーで当主代理で忙しいだろ? お互いのお守りとして。受け取ってくれる?」
「嬉しい……」
綺麗なブローチはもちろん、アイザックの気持ちが嬉しかった。
金獅子のモチーフは貴族であれば誰もがゴールディング家を思い起こさせる。家系の意匠とはそれくらい重い意味を持つのだ。お互いの家の意匠をイメージしたものを持つのは婚約者時代にしかできない装いで、社交界では昔から好まれている風習なのだ。人が入り乱れる社交場ですでに相手がいると示す意味合いもある。学生のうちから婚約する人が少なくなってきた最近ではその風習を知らない若い人も多いと聞く。私は以前母親からその話を聞いてずっとひそかに憧れを抱いていたのだ。
「アンナにはこれ、マダム・ポッポのスミレの砂糖漬け。さすがに君にブローチは贈れないからね」
「あらわたくしにも? お詫びの品ってわけですわね、仕方ない人…。でも嬉しいわ、ありがとう。ねぇルカ、そのブローチつけてみたらいかが? きっと似合うわ」
「もったいなくてつけられないよ……」
少しだけ三人でお茶を楽しんで、すっかり機嫌の直ったマリアンナに見送られてその日は帰路についた。帰り道の間、家まで送ってくれたアイザックの襟の青い燕と自分の手の中の黄色い獅子をちらちら見比べては顔が緩むのが止められなかった。
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その後ピンカーさんはますますアイザックにべったりなままだった。むしろ悪化したと言ってもいい。声をかけようという素振りを見せるとあれこれ言ってアイザックを連れて行ってしまうのだ。特にマリアンナが声をかけようとすると、ひどく睨みつけてくるらしく偶然見かけた時は本当に驚いてしまった。
しかも最近は休日にゴールディング公爵家に前触れもなく押しかけてくることがあるらしい。アイザックのお父様である公爵閣下はそれは礼儀に厳しい方で、うっかり見つかりでもしたらアイザックが罰を受けると慌てて外に連れ出したと聞いた。
そのうえ、最近二人がつけているブローチはお揃いなんじゃないかという噂がにわかに学園をにぎわしている。アイザックがつけているブローチは例の青い燕なのだが、いつからかピンカーさんも似たようなピンク色の石がついた鳥のブローチをつけ始めたのだ。デザインこそ違うものの、同じ鳥の意匠のブローチをつけているとあって、普段の様子からピンカーさんと良い仲になっているのではないか、なんていう噂が流れだしたのだ。
これにはさすがの私も傷ついてアイザックに正面から抗議した。
「どういうこと?」
「こっちが聞きたいくらいだよ!」
ピンカーさんの隙をついて捕まえたアイザックに詰め寄ると、本人も噂の出どころを探しているとため息をついた。同じ露店を見に行ったがその時彼女は何も買わなかったという。後からわざわざ買いに行って、アイザックと同じ鳥のモチーフを買ったのだとしたら、質の悪い確信犯と言える。
「学園生活に慣れてないからっていうのは、仕方ないと思ってたけど……これは……!」
「ごめん、まさかこんなことをするとは思ってなかったんだ。抗議したけど偶然だって言い張っていて、そう言われるとそれ以上は……。噂になってるのを知ってすぐに私のブローチは外したよ、せめてもの抵抗だけど」
申し訳なさそうに謝ってくるアイザックの制服の襟からは青い燕が姿を消していた。それを目にした瞬間、どうしてこちらが折れなくてはいけないのだろうという思いが湧いて出てくる。せっかく、アイザックが私を想ってつけてくれているのに。
「ブローチはそのまま、つけててほしい。ザックは私の婚約者だっていう証って言ってくれたでしょう。……私もつけるよ。大事にしたくて家にしまってたけど……ザックの婚約者は私だっていう証だから。本当の“匂わせ”は私たちだって思えば平気」
「マリー」
「ピンカーさんのことも、ザックは生徒会長として適切な対応しかしていないってわかってるよ。信じてるから、私は大丈夫」
アイザックの想いを確かめることができたからか、私の気持ちは落ち着いていた。これくらいで気持ちを乱すようでは、大人に混じって当主の代理なんてできない。しなやかに躱して時流を見るのも大事なことだ。
でも正義感が強く、真っすぐなマリアンナはそれがどうにも我慢ならないのだと言った。私は大丈夫だと言っても自分の気持ちが収まらないからとピンカーさんへの抗議を今まで以上に強くするようになった。
マリアンナの強くまぶしいその姿勢は私を慰めてくれたが、それと同時に危うさにこちらが心配になってくる。マリアンナとピンカーさんはとにかく相性が悪いのだ。今日なんてほんの一瞬私が側を離れた時に酷くもめてしまい、マリアンナはかなり動揺してしまった。
「どうして……! あの方にあんな風に言われなくてはいけないの! ルカのことを何も知らないくせに!!」
「アンナ……」
「……もう、もう! 耐えられませんわ……!」
「アンナ、マリアンナ……。落ち着こう、大丈夫だから」
優しい友人がこんなにも心を砕いてくれている。私の代わりに怒ってくれている。ザックの生徒会長という立場を考えて態度を急に変えるようなことはしなくていいと伝えていたが、いい加減どうにかしないといけない。
そう思っていた矢先のことだった。
カフェテリアでマリアンナとランチを取っていると、アイザックを始めとした生徒会の面々がやってきた。当然のようにピンカーさんもいて、どうしてかひどく怖がっている風だった。そんな口から発せられたのはマリアンナに虐められているというとんでもない嘘で……。この人はどれほど、どれほど人の想いを無碍にするのだろう。
思わず立ち上がって私も抗議の声を上げたのだが、話が進むにつれなんだか様子がおかしいことに気が付いた。
マリアンナと私がいつも一緒にいることがおかしい? どうして?
アイザックの婚約者が、マリアンナ??
ざわざわと動揺が広がる中、何かに気づいたらしいアイザックが改めてピンカーさんと向き合って口を開いた。
「エレノア・ピンカー嬢。今一度問おう。これは君の訴えに間違いがないかを正確に確かめるための質問だ。君を虐めたというのは、誰だ?」
「アイザック様の婚約者である、マリー様です!」
「えっ」
いじめなんてしてないです。
ここでようやく真相が明らかになった。つい半年前まで市井で暮らしていて、女の子の友達はおらず、いつもアイザックの気を引くことばかりのピンカーさんは、私を男だと思い、マリアンナがアイザックの婚約者だと思っていたのだ。
「彼女は君に虐められたと言っているが、真意はどうなんだ、マリー。……いや、我が婚約者殿、マルカ・ブルーワース嬢」
「……ピンカーさんが訴えるようなことを、口にした覚えは一度もありません」
「ええぇぇえ!?」
そう思えば色々と合点がいく。マリアンナにあれだけ敵意を向けていたのは婚約者だと思っていたからだったのだ。そうなるとマリアンナには私が本来受けるべきだった悪意を受けさせていたという事になる。本当に申し訳ない。ここからの引導は、しっかり私が渡さないと。




