【Cheat Ability No.39】深層同期型・因果置換鏡(ディープ・シンクロ・ミラー)
ワゴンの隅に追いやられていたはずの「羨望鏡」が、いつの間にか売れていました。買ったのは、万年レベル1で「勇者に向いていない」と周囲に馬鹿にされていた青年です。
「……フェアカさん、あの鏡、売れちゃいましたけど大丈夫ですか?」
日和が心配そうに尋ねると、フェアカさんはカウンターを拭きながら、遠くの空を見上げました。
「無理ね。あの鏡は『対象の全て』を羨む心に反応するわ。今頃、彼は魔王の城で、念願の最強の力を手に入れているでしょうけど」
その頃、魔王城では異変が起きていました。鏡を使った勇者は、一瞬にして魔王の圧倒的な魔力と強靭な肉体を手に入れました。逆に魔王は、ひ弱な勇者の体へと入れ替わります。
「ははは! ついにやったぞ! 俺が最強だ!」
勇者は歓喜の声を上げましたが、その直後、凄まじい「精神的重圧」に襲われました。鏡が入れ替えたのは、強さという結果だけではなく、その強さに付随する「深層の因果」……つまり、魔王が抱えていた深刻な悩みまでもが含まれていたのです。
「……う、頭が割れるようだ。魔族三万人の給与計算、隣接する冥界との領土問題、反抗期をむかえた側近たちの不祥事、さらに最近は抜け毛が止まらないストレス……!」
勇者は最強の力を持ちながら、あまりの心労にその場に膝をつきました。一方、勇者の体に入った元魔王は、あまりの体の軽さと、責任から解放された「弱さ」に感動していました。
「……何だこの体は。何も背負わなくていい、誰からも期待されない。これこそが真の自由ではないか……」
数日後。日和のネットスーパーに、魔王の姿をした勇者から「超強力な胃薬」と「育毛剤」の大量注文が入りました。
「フェアカさん、やっぱり副作用が……。勇者さん、最強になったのに全然幸せそうじゃないです」
「当たり前よ。他人の良いところだけを切り取って自分のものにしようなんて、世界に対する冒涜だわ。……日和、その胃薬はいつもの十倍の価格で売りなさい」
フェアカさんは、苦しむ勇者の姿を思い浮かべることもなく、淡々と帳簿を付け続けました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。最強ゆえの心労、弱者ゆえの自由、等価交換の皮肉、なんでもござれ」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
嫉妬の末に手に入れた「最強」が、実は「苦労の塊」だったという皮肉な結末になりました。




