【Cheat Ability No.36】絶対不可侵・魂の旋律(ヴォーカル・エイド)
「エモさこそが天界の真理よ! ベルゼ、貴女の洗脳ソングなんて、私の『天界歌合戦』で浄化してあげるわ!」
ルミナリエ様の宣言により、突如として始まった歌の祭典。日和は「公平な第三者(のフリをした苦労人)」として、無理やり審査員席に座らされました。
「……日和、私があれに出ると思ってる?」
フェアカさんはワゴンの影で耳栓を弄っていましたが、ルミナリエ様の「優勝賞品は神格経験値百億ポイントよ!」という叫びに、ピクリと眉を動かしました。
ベルゼは魔力を乗せた激しいロックで聴衆を圧倒し、ルミナリエ様は神々しい合唱で空を染め上げます。しかし、どちらも「自分をよく見せたい」という欲望が透けて見え、審査員席の日和の心には響きません。
「……騒々しいわね。少し静かにして」
ステージに上がったのは、誰もが予想しなかったフェアカさんでした。彼女はチート能力も、演出用の光も一切使いません。ただ、胸元にある古びた銀のペンダントをそっと握りしめました。
彼女が歌い始めたのは、かつての故郷で愛されていた古い子守唄。
しかしその声が響いた瞬間、広場の空気が一変しました。あらゆる魔力的な干渉を拒絶し、聴く者の魂に直接語りかけるような、圧倒的な「純粋さ」。
ベルゼの洗脳も、ルミナリエ様の光も、その歌声の前に霧散していきます。
この歌声こそが、ペンダントの元の持ち主——かつてフェアカと共に旅をし、声を枯らして世界を癒やし続けた『伝説の聖女』の固有能力『絶対不可侵・魂の旋律』の残滓だったのです。
「……優勝。文句なしで、フェアカさんです」
日和が涙を拭いながら告げると、広場は地鳴りのような拍手に包まれました。
フェアカさんは無表情のまま、優勝賞品の『神格経験値』を、無造作にそのペンダントへと吸収させました。
「フェアカさん、すごかったです! ……でも、その神格経験値を集めて、一体何をしようとしているんですか?」
日和の問いに、フェアカさんは夕日に目を細めました。
神格経験値。それを人間である彼女が、故人の遺物であるペンダントに注ぎ込み続けている理由。
「企み? ……そうね。私はただ、このペンダントに『重み』を取り戻したいだけよ。彼女が遺したこの旋律を、いつか本物の魂として再構築するためにね」
フェアカさんはそれ以上語らず、微かに温かくなったペンダントを服の中に仕舞い込むと、再びいつもの気だるげな店主に戻りました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。借り物の聖歌、神格の貯金、語られない再会、なんでもござれ」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
ペンダントに宿る「亡き友人の能力」と、それを復活させようとするフェアカの孤独な目的が示唆される、非常に重厚な回になりました。




