【Cheat Ability No.34】偶像投影型・質量連鎖現象(シンクロ・グラビティ)
「フェアカさん、助けてくれ! このブロマイドを買ってから、体が石みたいに重くて歩くのも一苦労なんだ!」
「俺もだ! まるで背中に女神様が乗ってるみたいに肩が凝って……!」
ワゴンの前には、昨日販売した『ルミナリエ地蔵ブロマイド』を手にした勇者たちが、膝をガクガクさせながら列をなしていました。日和は慌ててネットスーパーのカスタマーサポート画面を開きます。
「大変ですフェアカさん! 全員同じ症状です。これ、ブロマイドに何か呪いでもかけましたか!?」
フェアカさんは、行列の勇者たちを横目に、手元のコーヒーを一口啜ってから、自分でも一枚ブロマイドを手に取りました。そこには地面にめり込みながら白目を剥く、実にエモくないルミナリエ様の姿が写っています。
「おかしいわね……」
フェアカさんは、誰に聞かせるともなく独り言を漏らしました。
「これ、ただの印画紙に現像しただけの、本当にただの写真よ。魔法的な処理も、因果の付与も、何一つしていないのに。……物理的に重くなるはずがないんだけど」
フェアカさんの瞳が、珍しく分析的にブロマイドを走査します。
彼女が「ただの写真」だと言えば、それは天界のどんな鑑定眼よりも正確な真実です。しかし、目の前の勇者たちは実際に、自重で広場の石畳をひび割れさせています。
「日和、これ……呪いじゃなくて『共感』だわ」
「共感、ですか?」
「ルミナリエ様のあの時の『重苦しさ』があまりに強烈で、エモすぎて……それを見た人たちが無意識に精神を同調させて、自分の体に『重さ』を再定義しちゃってるのよ。つまり、ただの思い込みによる物理現象ね」
「思い込みで地面が割れるんですか!?」
日和が絶叫する中、フェアカさんは溜め息をつき、ワゴンの隅から『何の変哲もないただの耳栓』を取り出しました。
「はい、新作。能力名『現実逃避の耳栓』。これを付ければ他人のエモい感情が一切聞こえなくなるから、重さも消えるわ。……代金は、そのブロマイドの返品と、お詫び料として経験値二倍ね」
結局、勇者たちは耳栓を買わされ、ようやく軽やかな足取りで(しかし耳栓のせいで人の話を聞かない無敵状態で)戦場へと戻っていきました。
「……それにしても、写真一枚で世界に重力を生むなんて。ルミナリエ様のエモさも、ある種本物の毒ね」
フェアカさんは、回収した山のようなブロマイドを無造作にゴミ箱へ捨てながら、再び気だるげに椅子に深く腰掛けました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。心が生んだ重り、無責任な共感、耳を塞いだ平和、なんでもござれ」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
呪いではなく、ルミナリエ様の「エモさ」が引き起こした集団心理現象という、少し哲学的な(?)回になりました。




