【Cheat Ability No.3】安眠依存型・因果応報結界(スリーピング・セイバー)
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……」
今日の広場は少し暇だ。私はワゴンの隅で、賞味期限の怪しい『どこでも食べられる保存食(石の味)』を齧っていた。そこへ、光り輝く雲に乗ったルミナリエ様が、優雅に、かつ猛スピードで突っ込んできた。
「フェアカ! 究極の『癒やし系勇者』を作りたいの! 最近の戦いって、血生臭くて野蛮でしょう? もっとこう、ピースフルに、エレガントに世界を救えないかしら?」
「女神様、魔王軍を説得して茶飲み友達にでもさせるつもりですか? 無理ですよ」
「そうじゃないわ! 戦わずに、ただそこに存在するだけで平和を維持する……そんな神々しいチートがいいの。ほら、見てるだけで心が洗われるような!」
私は飲み込みかけの保存食を無理やり飲み下し、台帳の「廃棄予定」のページを開いた。
「なら、これがあります。『安眠依存型・因果応報結界』。通称、スリーピング・セイバーです。本人が寝ている間だけ、世界中のあらゆる悪意を無効化する強力な結界を張ります」
「あら、素敵じゃない! 寝顔が世界を救うなんて、まさに理想的だわ!」
「……ただし、この能力には致命的な仕様があります。彼が安眠を追求すればするほど、結界の範囲は広がり、強固になります。ですが、もし彼が『幸せな夢』を見すぎると、現実世界の人間までその夢に引きずり込まれ、二度と起きられなくなります」
ルミナリエ様は一瞬だけ考えたが、すぐにパッと顔を輝かせた。
「つまり……全人類が幸せな夢の中で平和に暮らせるってこと? 究極のハッピーエンドじゃない! エモすぎるわ、採用!」
数カ月後。異世界の聖域では、史上最高の寝心地を誇るベッドで、一人の勇者が幸せそうに眠っていた。
世界は確かに平和になった。争いもなく、飢えもない。なぜなら、全人類が「勇者の夢」に同期され、全員がヨダレを垂らしながら永遠の二度寝に突入したからだ。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ〜……」
私は今日も、静まり返った世界の中心で、半分くらい起きなくなった広場に向けて呼びかける。
「あ、お客様。そちらの『伏線を100%回収する』チートは、過去の小さな嘘まで全部バレて修羅場になる仕様ですので、返品不可ですよ?」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
とある異世界の人類全員が二度寝するという、平和の定義を問うような(?)シュールな結界になりました。




