【Cheat Ability No.23】自己存在定義・再構築記憶(マスター・アーカイブ)
エリュシオン・ヒルズの邸宅。フェアカさんが眠りについた後、私はテラスでハーブティーを淹れてくれたメイドさんに、ずっと気になっていたことを切り出しました。
「あの……メイドさん。フェアカさんの、本当の過去について教えてもらえませんか? あの引き出しにあった、怖いチートたちのこと……」
メイドさんはティーポットを置くと、夜風に揺れる私の髪を優しく整え、悲しげな微笑みを浮かべました。
「日和様。知るということは、時にフェアカ様の傷口を指でなぞるのと同じことなのです。あの方は、世界を救うために自分という物語を切り売りしてきました。今のあの方は、いわば『読み終えて、ぼろぼろになった本の表紙』のようなもの。中身を覗き見れば、あの方の痛みまで引き受けることになりますよ?」
メイドさんの言葉は重く、私は自分の好奇心が少し恥ずかしくなりました。フェアカさんがいつも眠そうなのは、失った記憶の穴を埋めるためなのかもしれない。そう思った瞬間です。
「ねえ! フェアカ! 起きてる!? あの裏メニューの『全知全能の仮面』、ちょっと貸して!」
空気を読まない大声と共に、ルミナリエ様がベランダの柵を乗り越えて乱入してきました。
「ル、ルミナリエ様!? こんな夜中に、一体何を……」
「あの仮面、被れば全知の知識が手に入るんでしょ? 最近お肌の角質が気になっちゃって。あの仮面をエステのパック代わりに使えば、全知の力で最適な美肌成分を細胞レベルで再構築してくれるんじゃないかと思って!」
最悪のタイミング、かつ最悪の用途です。呆気にとられる私を余所に、寝巻き姿のフェアカさんが寝室からふらふらと現れました。
「……ルミナリエ様。あれは感情を捧げて真理を得るための道具。パックに使ったら、一生お肌のことしか考えられない『美容の化身』になりますよ。というか、神殿に帰りなさい」
「いいじゃない、エモい美肌になれるなら! ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから被らせてぇ!」
感動的なメイドさんの話も、私の決意も、すべては女神様のパック欲にかき消されていきました。フェアカさんは溜め息をつきながら、ルミナリエ様の顔に普通のシートマスクを叩きつけて追い払いました。
「……日和。さっきの話だけど。私の過去なんて、今のルミナリエ様と同じくらい中身のないものよ。だから、気にしなくていいわ」
フェアカさんはそう言って私の頭を一度だけ撫でると、また眠そうに部屋へと戻っていきました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。って、あーもう!癖で出ちゃう!フェアカさん、今のはさすがにルミナリエ様がひどすぎます!」
私は、なんだか少しだけ心が軽くなったような、それでいて余計にフェアカさんのことが放っておけなくなったような、複雑な気持ちで夜空を見上げました。
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
シリアスな核心に触れつつも、ルミナリエ様のおかげで「今はまだ、深く踏み込まなくていい」という猶予が生まれた回になりました。




