【Cheat Ability No.22】過剰対価型・勇者遺物目録(デッド・エンド・カタログ)
「フェアカさん、ワゴンの奥にまだ引き出しがあったんですね。これ、何が入ってるんですか?」
好奇心旺盛な日和が、普段は厚い鎖で巻かれている一番下の引き出しを指差しました。フェアカは整理の手を止め、少しだけ遠い目をします。
「それは、私が勇者だった頃に拾い集めた、売るに売れないゴミの山よ。……興味があるなら、少しだけ見せてあげる。ただし、絶対に触らないこと」
フェアカが指先で鎖を解くと、そこにはこれまで売ってきた欠陥チートとは一線を画す、禍々しい輝きを放つ品々が並んでいました。
「まず、これ。女神様流に言えば絶対勝利の聖剣。私から言わせれば、存在抹消の代筆者。一振りで魔王をも消し去るけれど、勝った瞬間に世界中の人々の記憶から勇者という概念が消える。勝利と引き換えに、誰一人として君を知る者がいない世界で一人きりになる。……究極の孤独を買いたいなら、お勧めよ」
日和は思わず息を呑みました。隣に並んでいる、美しく透き通った砂時計に視線を移します。
「それはやり直しの砂時計。時間を巻き戻せるけれど、砂の一粒一粒が、君がこれまでに愛した人たちの寿命でできているわ。一秒戻すたびに、誰かの最期が早まる。救いたい誰かのために、他の誰かを殺し続ける……そんな救済を望む転生者がいたら、売ってあげてもいいわね」
棚の奥には、さらに奇妙なものがありました。ただの真っ白な仮面です。
「それは全知全能の仮面。被れば神と同じ知識が得られるけれど、代わりに自分の感情をすべて神に奉納することになる。悲しみも喜びも、空腹すら感じない、ただの真理を喋る肉の塊になりたい人向けね」
フェアカは淡々と、しかしどこか自嘲気味に解説を続けます。これらの裏メニューは、どれもかつての彼女が戦場で直面し、そして選ばなかった、あるいは選ばざるを得なかった力の断片でした。
「フェアカさん……どうしてこんなに怖いものを、ずっと持っているんですか?」
「……捨てるには、少しだけ高価すぎたのよ。私の人生を削って手に入れたものだから。それにね、日和。時々いるのよ。すべてを失ってでも、何かが欲しいと願う、救いようのない馬鹿が」
フェアカは引き出しを閉め、再び重い鎖を巻き直しました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。戻れない時間、孤独な勝利、心のない全知、なんでもござれ。……日和、あなたには、表ののど飴だけを売っていてほしいわ」
ワゴンを閉めるフェアカの背中は、いつもの気だるげなものに戻っていましたが、日和にはその肩が少しだけ震えているように見えました。
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
フェアカが抱える「本当の闇」と、ワゴンの裏側に潜む恐ろしい商品のラインナップが明らかになりました。




