【Cheat Ability No.17】異世界労働環境改善指輪(ワーク・ライフ・リング)
私の名前は「日和」。つい昨日まで、受験勉強に追われる普通の女子高生でした。横断歩道でトラックに……という定番の展開で、気がついたらこの「転生前広場」にいたんです。
目の前に広がる景色は、私が想像していた「天国」とは少し違いました。
どこまでも続く白い石畳の広場には、多種多様なワゴンがずらりと並んでいます。剣や盾を売るお店、怪しい魔法の薬を煮込んでいる屋台、さらには「前世の記憶を消去するサービス」なんていう物騒な看板まで。
そこでは、羽の生えた天使や、角のある魔族、そしてこれから異世界へ旅立とうとする転生者たちが、ガヤガヤと騒がしく取引をしていました。
そんなカオスな場所で、私は今、フェアカさんのワゴンの売り子として働いています。
「はい、のど飴どうぞ。舐めている間は、とっても綺麗な声になれるんですよ」
私の仕事は、指輪の力で精製した「メロディ・ドロップ」を販売することと、フェアカさんの雑用のお手伝いです。
店主のフェアカさんは、いつも眠たそうで、少しだけ口が悪い人。でも、右も左も分からない私に「路頭に迷うくらいなら、うちで働きなさい」と言ってくれた、実は優しい(?)人なんです。
それともうひとつ、右も左も分からない私に、店主のフェアカさんが貸してくれたのが、この「異世界労働環境改善指輪」でした。
「日和、この広場はブラック職場よりタチが悪いの。それをつけていないと、客の殺気にあてられて精神が持たないわよ」
フェアカさんに言われるまま指輪をはめると、不思議な感覚が私を包みました。
目の前の広場では、多種多様なワゴンがひしめき合い、怪しい呪文や怒号が飛び交っています。本来なら恐怖で足がすくむような光景ですが、この指輪の効果で、私の周囲だけが「快適なオフィス」のような静寂と適温に保たれているんです。
どれだけ客が怒鳴り込んできても、指輪がその負のエネルギーを「爽やかなそよ風」に変換してくれます。おかげで私は、殺気立った戦士や不機嫌な女神様を相手にしても、ニコニコと笑顔で「のど飴」を売ることができました。
「日和、飴の在庫が切れたわ。指輪の第二機能を使って」
フェアカさんの指示で指輪に念じると、指輪から「事務処理用の光る触手」のようなものが伸び、ワゴンの棚卸しや清掃、代金の計算を全自動で済ませてくれました。これぞ究極の労働環境改善チートです。
そして何より楽しみなのが、お仕事の後に帰るフェアカさんの家での生活です。
「日和様、本日は立ち仕事でお疲れでしょう。足湯の準備が整っております」
エリュシオン・ヒルズの邸宅で迎えてくれるメイドさんは、本当に女神様以上の慈愛に満ちていて、仕事の疲れも指輪の副作用(少しだけ眠くなること)も、すべて癒やしてくれます。
「……ふふ、日和。その指輪、実は『装着者のやる気を少しずつ吸い取って、代わりに快適さを与える』っていう欠陥品なんだけど、今のところ幸せそうね」
ソファでくつろぐフェアカさんの呟きは、メイドさんが淹れてくれたハーブティーの湯気に消えて、私の耳には届きませんでした。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。フェアカさん、私、ここでずっと働きたいくらいです!」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
日和という新しい視点が加わり、フェアカの生活の豊かさと、広場の賑やかさがより鮮明になりました。




