【Cheat Ability No.15】集団意識強制調和型・即興祝祭演武(フラッシュ・モブ・ミュージカル)
空中を漂うワゴン。空飛ぶ女神たち。紙吹雪の雨。
どこからどう見てもお祭り騒ぎですが、当事者たちは必死です。特に、回転しながら流星のように遠ざかっていくルミナリエ様は、もはや光の点になりかけています。
「フェアカあぁぁ! 助けてぇ! どこまでもエモい角度で飛んでいっちゃうわぁぁ!」
私はため息をつき、先ほど取り出した羽ペンを力強く振りました。空中にさらさらと、新しい「バグ」を書き加えます。
「この広場の重力は、私の鳴らすベルの音にのみ従う」
そして、腰に下げた特殊な銀のベルを鳴らしました。
チリン、という涼やかな音が響いた瞬間、バラバラだった重力の向きが一斉に「真下」へと再固定されました。
「うわっ!」
「きゃあぁぁ!」
広場にいた全員が、文字通り「叩きつけられる」ように地面へ落下しました。
ドサドサと音が響き、紙吹雪がその上に降り積もります。唯一、私のワゴンだけは羽ペンの記述でゆっくりと着地させましたが。
「……いたたた。フェアカ、乱暴すぎるわよ!」
腰をさすりながら立ち上がるルミナリエ様。デモ隊も転生者たちも、あまりの衝撃に目を回しています。しかし、カオスは終わりません。この混乱に乗じて、ワゴンの裏側に忍び寄る影がありました。
「……見つけたぞ。これさえあれば、あんな女神の言いなりにならなくて済む」
以前、「努力が100倍の成果になるが、100倍の空腹に襲われる」チートを売りつけられた元農家の勇者です。彼は混乱に乗じて、ワゴンの奥に隠していた「非売品」の試作オーブを盗み出そうとしていました。
「あ、お客様。それ、まだテスト中ですよ」
私の警告も聞かず、彼はそのオーブを握りしめました。
瞬間、彼の体が眩い光に包まれ、広場全体に奇妙なメロディが流れ出しました。
「な、なんだこれは!? 体が勝手に……!?」
彼が盗んだのは、多人数参加型・強制ミュージカル化オーブ。正式名称『集団意識強制調和型・即興祝祭演武』です。
周囲にいる人間すべてを巻き込み、問答無用で歌って踊らせることで、戦意を物理的に奪うという「平和すぎて使い物にならない」失敗作です。
「♪ああ、どうして~、俺は泥棒なんて~♪」
「♪いけないことだと、分かっていたのに~!♪」
元農家の勇者が、完璧なステップを踏みながら美声で懺悔を始めました。
それに釣られて、怒り狂っていたデモ隊も、腰を痛めていたルミナリエ様も、一斉に列を組んでラインダンスを踊りだします。
「♪不満はあるけど~、踊ればハッピー♪」
「♪リコールなんて~、明日でいいじゃない~!♪」
広場全体が、壮大なグランドフィナーレのような熱気に包まれました。先ほどまでの殺伐とした空気はどこへやら、全員が笑顔(強制)で歌い、踊り、互いの肩を組んでいます。
「……はぁ。やっぱり、13日はこうなるのね」
私はミュージカルのバックダンサーのような動きでワゴンを整頓しながら、冷めた目でその光景を眺めました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。強制合唱、無断ダンス、記憶の混濁、なんでもござれ〜」
厄災日の終わりは、全員が踊り疲れて泥のように眠るまで、あと数時間はかかりそうです。
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
重力操作、紙吹雪、そして強制ミュージカルという、これ以上ないカオスな着地を迎えました。




