【Cheat Ability No.14】強制事象書き換えペン(バグ・デリーター)
「ああ、もう! 喋り方が可愛くなっても、拳が飛んでくるなら意味ないじゃない!」
私の目の前では、さっきまで「愛してるわ!」と叫んでいた女神様たちが、ドレスの裾を捲り上げてワゴンを蹴り倒そうとしています。言語置換装置の影響で、彼女たちの顔は満面の笑みですが、その目は血走っており、手には天界公認の破壊槌が握られていました。
「ふふふ! あなたを物理的に消去して差し上げるわ、この愛しいクソアマ!」
笑顔で放たれる殺意。これぞ厄災日の醍醐味です。
私はワゴンの引き出しから、インクが滴る一本の羽ペンを取り出しました。これは商品を売るための道具ではありません。世界の理を一時的に「書き換える」ための、勇者専用の防衛兵器です。
私は空中に向かって、素早く一文を書きつけました。
「この広場において、破壊行為はすべて『盛大な紙吹雪』へと変換される」
直後、女神様が振り下ろした巨大な槌がワゴンの屋根に直撃しました。
ドゴォォン! という爆音の代わりに響いたのは、パァン! という軽快なクラッカーの音。ワゴンの屋根が砕ける代わりに、色とりどりの紙吹雪が空から舞い落ち、広場を華やかに彩ります。
「あら? まあ! なんて素敵な演出かしら!」
女神様は笑顔で、何度も何度も槌を振り下ろします。そのたびに広場には紙吹雪が降り積もり、デモ隊の怒号は(変換されて)合唱へと変わり、見た目だけは天界最大のフェスティバルのようになりました。
しかし、カオスはそれだけでは終わりません。
広場の隅で、以前「透明人間になる代わりに周囲が全裸に見える」チートを買わされた哀れな転生者が、精神の限界を迎えて「もう何も見たくない!」と叫びながら暴走し始めたのです。
彼は目隠しをしたまま魔力を暴発させ、周囲の「重力」をバラバラに書き換えてしまいました。
広場にいた女神も、勇者も、デモ隊も、そして私のワゴンまでもが、プカプカと空中に浮き始めます。
「ちょっと! フェアカ、助けて! 浮いてる! 私、今すっごくエモい感じで浮いてるわよ!」
結界の中から様子を伺っていたルミナリエ様までが、浮き上がった拍子に結界を突き破り、回転しながら空の彼方へ流されていくのが見えました。
「……あーあ、もう。これだから13日は嫌いなんです」
私は浮遊するワゴンにしがみつきながら、次の一手を考えます。
重力が反転し、言葉は愛に変わり、暴力は紙吹雪になる。
この支離滅裂な状況を収束させるには、もっと「バカげた」解決策が必要です。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。空中散歩、強制平和、全自動カオス、なんでもござれ」
私は逆さまに浮きながら、腰のベルトに差していた「ある特殊なベル」に手をかけました。
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
厄災日のカオスは、空中でさらに加速します。




