【Cheat Ability No.13】多次元同時言語置換装置(カスタマー・サプレッサー)
「エリュシオン・ヒルズ」の静寂が嘘のような、爆発音と怒号で私の朝は始まりました。
定休日明けの出勤。転生前広場に足を踏み入れた瞬間、私はワゴンを引く手を止め、回れ右をして帰りたくなりました。
「責任者を呼べ! あのチートのせいで、うちの勇者は今、一生語尾が『ピヨ』になっちゃってるんだぞ!」
「不買運動だ! 欠陥品を売りつける詐欺ワゴンを追放せよ!」
広場を埋め尽くしているのは、以前チートを購入した転生者たち、その家族、さらには「部下の失態で査定が下がった」と憤る中堅女神たちのデモ隊でした。シュプレヒコールが響き渡り、空からは抗議のビラが雪のように降ってきます。
さらに悪いことに、ルミナリエ様までもが自分の神殿に引きこもり、「私は関与してませーん!」と書かれた結界を張ってボイコットを決め込んでいました。
「……はぁ。やっぱり、13日はこうなるのね」
私は溜め息をつき、ワゴンの奥底、普段は絶対に触れない「緊急対応用」の黒いケースを開けました。取り出したのは、蓄音機のホーンのような形をした銀色の道具。
「静かにしてください。営業妨害ですよ」
私がスイッチを入れると、ホーンから目に見えるほどの音波が放たれました。能力名は、多次元同時言語置換装置。通称、カスタマー・サプレッサー。
この道具の効果範囲内にいる者が発する「怒り」や「不満」を含んだ言葉は、すべて強制的に「感謝と祝福の言葉」へと置換されて出力されます。
「お前のところのチートはゴミだ!」と叫ぼうとした筋骨隆々の戦士の口からは、「あなたのワゴンは宝箱のようですわ!」という可憐な少女のような声が飛び出しました。
「金返せ、この詐欺師!」と詰め寄ろうとした女神の罵声は、「いつも素敵な商品をありがとう、愛してるわ!」という熱烈な告白に変換されます。
広場は一瞬にして、罵り合いの戦場から、互いを褒め称え合う宗教的な多幸感に満ちた空間へと変貌しました。相手の言葉が自分への賛辞として聞こえるため、デモ隊は困惑し、戦意を喪失していきます。
その隙に、私はワゴンのカウンターに「リコール受付:待ち時間300年」という立て札を立て、淡々と事務作業を始めました。
「はい、次の方。語尾がピヨ? それは仕様の範囲内ですね。こちらの『語尾をゲロに変える』修正パッチを定価の三倍で販売しておりますが、いかがなさいますか?」
怒りに震えながらも、口からは「なんて慈悲深い提案かしら、買わせてちょうだい!」と叫んでしまう転生者の背中を見送りながら、私は今日何度目か分からない溜め息をつきました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。クレーム、返品、泣き寝入り、なんでもござれ」
厄災日の太陽は、まだ昇ったばかりです。
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
地獄のようなクレーム対応を、チート能力で無理やりねじ伏せるフェアカの逞しさを描きました。




