【Cheat Ability No.10】全環境適応型・発酵生物擬態術(ぷるぷる・スライム・ボディ)
「フェアカ! 時代は『ゆるキャラ』よ!」
(「うん?……天界って流行遅れてんのかな?」)
ルミナリエ様が、どこから持ってきたのか大きなぬいぐるみを持って現れた。瞳をキラキラと輝かせ、天界の流行を熱心に語り始める。
「最近の転生者って、みんな肩肘張って『最強の騎士』とか『大魔導師』とか目指しすぎだと思わない? もっとこう、存在そのものが柔らかくて、敵も味方も思わず指で突きたくなっちゃうような、究極の柔軟性を持ったチートが欲しいの!」
私はワゴンの隅っこに落ちていた、ゼリー状のぷるぷるしたオーブを拾い上げた。
「ありますよ。女神様流に言えば『全環境適応型・発酵生物擬態術』。私流に言えば……『ただの高級ゼリー化』です」
「ゼリー! 涼しげでいいわね! どんな能力なの?」
「このチートを得た勇者は、体の組織を自由自在にスライム化できます。どんなに狭い隙間も通り抜けられ、打撃を受けてもぷるんと弾き返し、さらには体から常にほんのり甘い、桃のような香りが漂います」
「素敵! 物理無効でいい香りなんて、最高に癒やし系勇者だわ! 採用!」
ルミナリエ様は、ゼリーを食べるような仕草で楽しそうに承認印を押した。私は、その書類をそっと棚にしまいながら、ボソリと付け加えた。
「ただし、スライムですからね。骨がないってことを忘れないでくださいよ」
数カ月後。異世界では、史上最も「緊張感のない戦い」が繰り広げられていた。
魔王軍の幹部が放った渾身の一撃は、勇者の体に当たった瞬間「ぷるんっ」と小気味よい音を立てて弾き返された。さらに、勇者の体から漂う桃の香りに、魔物たちが「……おい、なんかいい匂いしないか?」「あいつ、ちょっと触ってみようぜ」と、戦うのを忘れて勇者を指でツンツンし始めた。
勇者は勇者で、攻撃を避けるたびに「べちゃっ」と地面に広がったり、段差から「でろーん」と流れ落ちたりしている。
あまりの脱力感に、魔王城の士気はガタ落ち。「こんな美味しそうで柔らかい奴を倒して、一体何の意味があるんだ?」と、魔王軍はいつの間にか「勇者をいかに型崩れさせずに保護するか」という愛護団体へと変貌を遂げてしまった。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ〜。ぷるぷる、桃の香り、やる気の消失、なんでもござれ」
私は今日も、魔王軍の幹部たちに丁寧にお皿に乗せられ、運ばれていく勇者の姿を見送りながら、ワゴンを引く。
「あ、そちらのお客様。その『感情に合わせて頭の上が光る』チートは、暗い夜道では便利ですが、隠し事が一切できなくなる仕様ですので、返品不可ですよ?」
ご拝読ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
骨がないので立ち上がれず、ただ運ばれるだけの勇者……。平和を通り越して、もはや介護のような救世劇になりました。




