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聖母達の路  作者:
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1-3.



 本日も晴天なり。今日はこの街のはじまりを祝う日。家族と祝うもの、恋人と祝うもの、それに乗じて商いするもの、人々は互いにに違いがあれど思い思いに今日という日を楽しみにしていた。

 砂漠の真ん中にポツンとできたオアシスによって出来た町である。さすがに昼間に騒ぐ事が出来ないので、夕方から深夜にかけて賑わって行った。


 かよが働く定食屋も今日は稼ぎ時であるが、マーサが「こんな日くらいは商売よりも、他にやる事があるじゃないか!」と今日は通常より早めに店しめた。従業員達は皆浮き足立った足でそれぞれの場所へ帰っていた。カヨを除いて…。


カヨは身寄りもなく、大して親しい恋人も、友人もがなかったため1人まっすぐ家路とあゆんでいた。



(はぁ…マーサは、私に気を使いすぎだよ。楽しむって言われても、一緒に楽しむ相手もいないし。1人でお祭にいってもしょうがないし…マーサには悪いけど家で本を読んだほうが今の私の為なんだよね…)


(それに素直にまだ、こういう状況を楽しむ余裕が私にはないし…。私には私の今やらなくちゃ行けない事があるんだから…。)



 マーサは初めてこの世界の人で信じる事が出来た人だった。そんなマーサにこれ以上気を使わせてはいけない。心配させてはいけない。そんな事は分かっている。

 カヨは自分自身に余裕がなく、それをマーサが心配して生き抜きをしろと意味で伝えた事は分かっていた。分かっているのから、マーサを心配させずに余裕を持ちたいと逆に焦ってしまい、また余裕がなくなる。


そんな日々を最近は永遠と続けていた。





////////





 身寄りのない私はお金が必要で働き口を探していた。けれどガリガリのボロボロの私を雇ってくれる所なんてなかった。諦めかけた私はやけくそに突然働かせてほしいとマーサの店へ押しかけ土下座をした。


 マーサは突然押しかけた乞食姿の私の突発的な行動に最初は呆然としていた。しかしそのあと、気に入った、雇ってやるよと言いマーサは大笑いをしたあと、お風呂に連れて行かれ、新しい服、部屋全てを整えてくれた。数日間何も食べて入ないといったら、消化の良い暖かいスープを作ってご馳走してくれた。

 

 今思えば、お客の余った食材で、簡単につくった質素な物であったかもしれない。それでも今でも私の中ではこの世界で食べた一番美味しい物だった。泣きながら食べる私の頭をぐしゃぐしゃにして「うまいかい?」と優しく微笑んでくれた。


私は救われたのだ。


人を疑う事も、世界を憎む事にも疲れきっていた。


(もしこの人が裏切ったら…?)


その時は優しい気持ちを持ったまま死のう。


この暖かい心もったまま、眠りにつこう。


きっと笑って死ねるから。


でも、きっとあの人には怒られてしまうかな…?


 そんな思いを抱きなから久しぶりにおなか一杯に食べて、ふかふかの布団で眠りついた。

翌朝、叩き起こされた。働かざる者食うべからず。マーサは初日から容赦がなかったが私に合う仕事を選んでくれた。けれど私は本当に何も出来なかった。

じゃがいもなんて手のひらサイズが、気づいたら一口サイズになっていた。怒られると思った私をマーサは「どうやったらそんなに小さくなるんだい」、とそれをみて大笑いをした。



「慣れればいいさ。明日は二口サイズを目指そうじゃないか!でも勿体無いからあんたが責任もって食べるんだよ。」



 怒られると思った私に、マーサがそんな言葉をかけてくれた。またもや私は号泣をしてしまった。

マーサは「あんたは泣き虫だねー」と困ったように笑い、私の頭を撫でてくれた。


 私は自分を恥じた。何も出来ない自分。元の世界では与えられるものを当たり前とし、それに甘えていた自分。全てを誰かのせいにしていた自分。この世界に来てから酷い事ばかりだった。全てをこの世界と、この世界に生きる人々のせいにしていた。


騙されて、たくさん殴られた。人としての扱いをされなかった。

この世界の全ての人間が怖くて、憎かった。でも元の世界にも最低な人間がたくさんいた。でも素敵な人間もいた。私は自分の中のものさしだけで、この世界を見ていたのだ。



 私はこの世界も変らず人間が存在して、最低な人間もいれば、素敵な人もいる。私が見ていたこの世界はほんの一部でしかなかった事を初めて知ったのだ。




「ワシのようになっては行けない。お前は愛しなさい。」




 あの人の最後の言葉が私の頭の中に響いた。あの人は憎む事で、この世界を生きぬいた。けれど、私もこの世界が憎かった。愛する事なんて出来やしない。そう思っていた。


 愛するというのが、私にはまだ良く分からない。けれどマーサと出会い、マーサの優しさに触れる事で私の中でなにか変った気がした。


 そんな風に思ったら、自然と涙が溢れた。泣く事でなにか嫌な物も流れていく気がした。

そしてマーサへ小さな声で「ありがとう」と私は呟いた。




//////




あの人に出会って無ければきっといまでも世界を憎んでいた。


あの人に出会って無ければマーサに出会えなかった。


私は恵まれていた。あの人に出会い救ってもらった。そしてマーサに出会う事ができた。


私は負けない。


こんな世界になんて負けない。


自分に負けない。


あの人の分まで生きると誓うのだから。


あの人の分まで笑って、泣いて、怒って、一生懸命生きると誓うのだから。


胸の真珠のネックレスを強く握る。


そしたらあの人のムカツク笑い声が聞こえてくる。


私は1人ではないと、感じれるんだ。


知らない世界。厳しい砂漠。


それでも私は生きて行きます。



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