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聖母達の路  作者:
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1-1.



 元宮香世子もとみや かよこは、裕福でも貧乏でもない日本という国の普通の中流家庭で生まれ育った。香世子が此方側にきたのは、彼女が23歳の友人の披露宴に招待された日であった。


 鏡の前で彼女は成人式以来着ていない振袖を身にまとい、鏡の前に立ち20歳の時は違う自分の着物姿に満足していた。年を取る哀愁と、年を取る楽しみを肌で感じながら。


日本の女性の人生で着物を着るのは特別な習い事などをしていない限り、やはり数回のみであろう。

香世子は母親に結婚式くらいワンピースで良いと言ったら、是が非でも振袖を進められ初めはお金もかかるので難色していたが、あまりにも母親が進めるので母親の意向に添い、今回振袖を着ることになった。



(最初はお金もかかるし、疲れるし嫌だったけどやっぱいいもんね着物って。

どうせ結婚したら着れなくなるし…あとで母さんにお礼をいっておこうかな…。)




 そんな事を思いながら鏡を見つめていた時だった。なにか鏡に違和感をおぼえた。



「…なに?」



思わず呟いてしまったその時、ポツンっとまるで静かな水溜りに一滴の雫が落ちたように鏡の表面が波をうった。彼女は何かに惹きつけられるように鏡に手を延ばした。


そして突然鏡の中より強い力によって引っ張られた。



「なっ!!!や、やだ何これ!」



異変に気づき手を引き抜こうとしたが、さらに強く引っ張られどんどん鏡の中に吸い込まれていく。

鏡の中に人が吸い込まれる異常もそうだが、吸い込まれた後何が起こるか分からない恐怖に彼女は力一杯抵抗した。



「やだ!誰か!母さん!助けて!…っ!!!」



同じ家にいるであろう母親に助けを叫んだが、抵抗も空しく鏡の中に彼女は吸い込まれてしまった。



「香世子、何?大きな声で…あら?入ないじゃない。」



娘の声が聞こえ探しにきた母親の目の前には、娘のいない静かな部屋がだけであった。







/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////




1-2.





 ブレン大陸はこの世界で2番目に大きな大陸であったが、一部緑が残るものの、その殆どが砂漠化しており生命を拒む不毛な大陸であった。


その大陸にある死の砂漠と人々から恐れられる砂漠も、かつては緑豊かであったという。そして古代栄華を極め突然歴史の闇の中に消え今では誰もその名を知らぬた国があったといわれる。


 人という欲を尽きる事の無い生き物は時としてそのような不毛な地に価値を見出した。

今では死の砂漠ではあるが古代栄えた古の都の遺跡が点在しており、貴重な魔道具など今では入手が困難な様々な物が多数発見されたのである。


それらを求めた人々はこの不毛な大陸にある者は冒険を、ある者は富をそれぞれ夢を見て、多くの者が移り住んだ。


 砂漠には遺跡と同数とは言わないが、いくつかオアシスも点在していた。人々は砂漠の入り口と言われる町カイロックよりまずそのオアシスを目指した。そして大きな遺跡近くのオアシスは段々と人が増加し、一つの大きな町が出来上がっていった。



 ここそんな町の一つであるオアシスの町デズエ。砂漠の点在する遺跡を巡る拠点にしている冒険者や、その冒険者へ必要な物を提供する商人や宿、時には冒険者よりいち早く珍しい物を買い付ける目的の行商人など様々な人々が行き交う賑やかな町であった。





++++++






  今は昼時。定食屋にとっては、一番稼ぎ時である。店内はほぼ万席状態だ。店員は慣れた手つきで客を捌いていったが、客足は止まらず皆忙しそうに走り回っていた。



「カヨっ!そっちの皿洗いが終ったらこっちを手伝っておくれ!」



「はいっ!」



 カヨは慣れた手つきで素早く目の前の皿を洗い終わると、先ほど忙しそうに声をあら上げたこの定食屋の女将のマーサの元へと走っていった。マーサはお客の注文してくる料理に追われいたが、料理間に合っておりカウンターの上に多数乗っていた。どうやら最近入った新人のトイサの客への接客と、料理の運搬が間に合っていないようである。



「女将さん、この料理、運びますね」



「あぁ助かるよ。あんたこっちの言葉が苦手なのに悪いね」



「いいえ、大丈夫、です。」



 短い会話を終えるとカヨは料理を客の元へと運んでいった。カヨはここで働いて2年にはなるが、言葉が苦手な為、接客ではなく主にホール内での仕事が担当であった。しかし数年勤めていた接客担当の者が突然止めてしまった為、引継ぎ無しで新しいトイサに変ってしまったのである。



(暫くはトイサの補助もしないとな…)



内心仕方ないと思いつつも溜息がでる毎日が続いていた。


 



++++++




「フゥー…今日も忙しかったねぇ。あんた達、ここの片付けが終ったら今日はもぉ上がっていいよ。」



「「「はいっ!」」」



「…はい」


 客足が途絶えたのは、もぉ夕方近くになってからであった。マーサの上がって良いという言葉に他の店員達はあんなに忙しく、疲れているはずなのに嬉しそうに返事をした。それもそのはずだ。今日はお祭の日。きっと思い、思いに好きなものと過ごすのであろう。



(私には関係ない。早く部屋に帰って休もう…)



と家に向かおうとした時、マーサに声をかけられた。



「ちょっと、カヨ!今日は祭なんだ。もっと楽しみな!」



「はい、色々見て、回ります。」



「私の若い頃には劣るけど、あんたも見た目はいい方なんだから!早くいい相手を見つけな!」



カヨはさも言葉が分からない振りをして首を傾げた。それを見たマーサは苦笑しクシャクシャとカヨの頭を撫でまわした。



「あんたはまず言葉からだね、まぁ今日は楽しむんだよ?いいね?」



「…はい、大丈夫です。…お疲れ、様です」



マーサによってボサボサになった髪を整えながら、カヨは挨拶をすると家路へと向かった。



「はぁー…。大丈夫に見えないから心配なんだよね、あの子…」



そんなマーサの呟きはカヨには届いて入なかった。








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