彼女の始り
1.
女の目の前には、砂の海が広がっていた。周りには、植物はおろか生物の気配さえない。
何もないはただの黄色い砂の世界が広がっていた。
そんな世界にただ1人ポツンと不釣合いな鮮やかな青を基調とした着物を纏い、女は戦っていた。自然と言う名の驚異と、孤独と言うな名の自分自身と。
天からは太陽の容赦のない熱射を注がれ、それに呼応するように砂達が己に熱を蓄えそれを女に容赦なく注ぎ込んで行く。
女はただひたすらに何かを求め歩んでいた。しかし女の体力は限界の底を尽きようとしていた。だが、歩みを止める訳にはいかなかった。
女の周りには生物はおろか、岩陰ひとつとして存在していなかった。そんな状態で、射てつく太陽からも砂達からも身を守る事は出来なかった。
せめてこの熱射を遮断し休める場所、願うなら水、そして人の存在を求め女はただ1人歩んでいた。
しかし、不釣合いな着物に草履。砂漠を歩くなど到底無理である。砂達が女の足を掴むように、邪魔をし女は何度も、何度も砂に足を取られ転んだ。だが彼女は諦めなかった。
何度も何度も転び、立ち上がった。顔の化粧は落ち、着飾った髪はほつれ体中が痛みに悲鳴をあげていた。それでも女は諦めなかった。諦める事ができなかった。
----まだ死にたくない
女はただ一心にそれを願った。
別に守りたい者が入るわけでもなかった。どうしてもやりたい事があるわけではなかった。もしかしたら全ての生命が本能のどこかにある、生への執着だったのかもしれない。
しかし何度目の転倒だろうか、女は遂に立ち上がる事が出来なかった。砂の上に転がり朦朧とする中女は前を見ていた。手を延ばしそこにあるかもしれない何かを求めた。
そして女は意識を無くした。
――――――ただ風達が女を嘲笑うかのように、砂に自らの軌跡をつけていった。