繋ぐもの
グラウンドに、笛の音と掛け声が響く。
「はい、次はリレーの練習をしまーす!リレーの選手はスタート位置について!」
体育祭まであとわずか。練習も本格化し、どのチームも真剣な表情で競技に取り組んでいた。
「コウ、足は大丈夫?」
隣に立つ千織が、心配そうにこちらを見上げる。
「……平気」
昨日の怪我はほぼ回復していた。センセイの手当てが的確だったおかげで、違和感はほとんどない。
「そっか……よかった」
そう言いながらも、千織の顔にはどこか曇りがあった。
「……どうした?」
「え? いや、別に!」
「嘘だな」
コウは淡々と言い切った。
千織は驚いたように瞬きをするが、すぐに苦笑する。
「やっぱり、コウにはバレちゃうんだね……」
「…話してみろよ」
コウの声はぶっきらぼうだったが、どこか優しさがにじんでいた。
千織は少し考えた後、小さく息を吐いた。
「実はね……私、中学最後の体育祭のリレーで、バトンを落としちゃったんだ」
「……」
「それで、私のせいでチームが負けちゃって……。あの時、みんなすごく励ましてくれたんだけど、やっぱりすごく悔しくて……」
千織は自分の手を握りしめる。
「それ以来、リレーのバトンを受け取る瞬間が怖くなっちゃったの。もしまた落としたらって……」
コウはじっと千織を見つめていた。
「……くだらないな」
「えっ」
「過去の失敗なんて、今の競技には関係ない」
「そ、それは分かってるけど……」
「なら、気にするんなよ」
コウはそう言い放つと、前を向いた。
「千織がバトンを落とそうが、走るのが遅かろうが、それでチームが負けたとしても、俺は何も思わない」
千織は驚いたように目を見開く。
「……え?」
「千織が最後まで走ったんなら、それでいい」
「……」
千織は言葉を失ったまま、コウの横顔を見つめる。
「バトンを落としたら、拾ってまた走ればいい。それだけだ」
その言葉は、あまりにも真っ直ぐで、迷いがなかった。
──ただ、前を向いて走ればいい。
そのシンプルな答えに、千織の胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……ありがとう、コウ」
「別に」
「もー……ほんとに不器用なんだから」
千織は苦笑しながらも、心の中の重荷が少し軽くなった気がした。
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「お、何の話?」
そこへ、翔とセイラがやってきた。
「千織の話」
「え? えぇっ!? ちょっと、コウ!」
千織が慌てるが、コウは気にせず続ける。
「リレーでバトンを落としたことがあって、それを気にしてるらしい」
「……ああ、それか!」
翔が納得したように頷く。
「別にいいじゃん! 俺なんて、この前のサッカーの試合でシュート外しまくったぜ!」
「翔、それは普段からじゃん!」
「ぐっ……お前、それは言わない約束だろ!」
セイラがクスクス笑いながら口を挟む。
「千織、失敗なんて誰にでもあることよ。大事なのは、その後どうするか、でしょ?」
「……うん」
千織は、セイラの言葉をかみしめるように頷く。
すると、後ろから低い声が響いた。
「お前が失敗しても、俺たちがフォローすればいい」
振り向くと、ケンが立っていた。
「リレーは一人で走る競技じゃない。チームの競技だ。誰かがミスしても、他のやつが取り返せばいい」
「……ケン先輩」
「だから、お前も気負うな。バトンを落としたら、拾って走れ」
ケンはそう言うと、コウを見る。
「……お前と同じ考えだな」
コウは黙って頷いた。
千織は、改めて周りを見渡した。
翔も、セイラも、ケンも、コウも、みんなが自分を支えてくれている。
──もう、大丈夫だ。
「よーし! じゃあ、本気で走るよ!」
千織は笑顔で拳を握る。
「おお!」
翔とセイラが声を合わせ、ケンは無言で頷いた。
そして、コウも静かに千織の隣に立つ。
「……千織なら大丈夫だ」
それは、コウなりの励ましの言葉だった。
千織は、もう一度だけ深く息を吸い込み、グラウンドへと駆け出していった。
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──その頃、遠く離れた場所で。
「……やはり、生きていたか」
闇に包まれた一室で、フードを被った男が報告を終えた。
目の前の椅子には、巨大な影が座っている。
「''メイリア''……今は夏葉瀬コウと言ったか。……まさか、この世界にまだ存在していたとは」
低く響く声が、部屋の空気を震わせる。
「貴様に命じる。コウを始末しろ」
「御意」
フードの男は跪き、静かに姿を消した。
その瞬間、空間が揺らぐ。
暗闇の中、神の如き存在が微かに笑った。
「……また、興が乗るな」
静かに、滅びの足音が近づいていた。
閲覧ありがとうございました。
誤字脱字等ありましたらすみません。
登場人物たちの口調が完璧に掴みきれてないので、少し違和感を感じるかもしれませんが大目に見てください…




