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蒼炎の刃  作者: 夏目
7/19

授業の合間に

○登場人物紹介

先生

・柳田学園化学教師

・年齢:?

朝の鐘が鳴り響き、柳田学園の一日が始まる。


コウは教室の窓から、ぼんやりと校庭を眺めていた。


生徒たちのざわめきが、遠い幻のように聞こえる。


──まだ、この"日常"に馴染みきれない。


だが、違和感の正体が何なのかも分からないまま、こうして日々を過ごしている。


「おーい、コウ!」


「……ん?」


千織の声で、意識が現実に引き戻された。


「次の授業、化学だよ。移動教室だから、ほら、行くよ!」


「……ああ」


この学園に来てから様々な教科の勉強をしてきたが、何気に化学の授業は今回が初めてだった。


(化学、ねぇ…)

脳裏にセンセイが浮かんだ。戦いがない時は少し綻びた白衣を来て薬やら薬品の研究をしていた。


(…………)


過去の記憶に浸っていると千織の声で現実に戻される。


「コウ!早く!このままだと、ち・こ・く だよ!」


「……あぁ、わかってる」


----------


理科室に入ると、教室の中央に長机が並べられ、実験器具が整然と配置されていた。


窓際に座ると、潮風を含んだ柔らかな風がカーテンを揺らしている。


授業開始のチャイムがなると同時に男が入って来た。


「はい、席についてください。」


低く響く声が、教室内に静寂をもたらした。


前に立っていたのは、一人の教師。


前に立つ男を見た瞬間

ドクンと心臓が跳ねた。


無造作に流された黒髪。少し綻びた白衣。どこか余裕を感じさせる雰囲気。


その容姿はコウの記憶にあるセンセイとそっくりだった。


「今日の授業は、化学変化について。だが……」


彼はは一瞬だけ、生徒たちを見渡した。


そして、コウの方へと視線を向け──


「……」


わずかに動きを止めた。


しかし、すぐに何事もなかったかのように続ける。


「せっかくだから、ちょっと実験をしよう。興味深い現象を見せてやる」


コウはその一瞬の"間"を見逃さなかった。


──あの男は、俺を見た。


だが、それ以上の感情は読み取れない。


(……いや、きっと気の所為だ。千代もケイも悟もセンセイも皆あの戦争で死んだ…はず。)


言いきれないのはセンセイがあの後どうなったのかコウは''知らない''からだ。


呪いのせいで記憶は朧気だが千代、ケイ、悟が戦争で無くなったことは覚えている。

ただコウが謎の神に心臓を貫かれ呪いをかけられた際、彼はまだ生きていたのだ。


もしかしたら自分と同じようにこの世界に飛ばされて記憶が無くなっている?


(……いや、千代と似た千織もケイと似たケンも他人の空似…きっとこの男も)


(……馬鹿なことを考えるのはやめろ。そんなこと、ある訳ない)


コウはそう自分に言い聞かせた。


センセイはもう、居ない。

目の前にいる男はただの"教師"、センセイでは無いのだから。


---------


「おー、すごい!」


「青色から透明に変わった……!」


実験は順調に進んでいた。


先生は試験管の中の液体を観察しながら、淡々と説明を続ける。


「これは酸化還元反応の一例だ。普段見えない変化が、こうして色で分かるようになる。……物事の本質は、目に見えるものだけじゃない」


その言葉に、コウはわずかに眉を寄せた。


(……本質、か)


戦場では、目に見えるものだけを信じていた。

だが、目に見えぬもの──裏切り、策略、信念の揺らぎ──それが戦いの行方を決めることもあった。


ふと、記憶の奥から声が響く。


──「本質を見誤るな、コウ」


それは、誰の言葉だったか。


(……センセイ?)


不意に顔を上げると、彼は窓の外を見ていた。


表情は読めない。


だが、その横顔は、戦場で共にいたあの頃と同じ──気がした。


コウは無意識に拳を握りしめる。


(俺は、何を考えている……?)


だが、答えは出ないまま、時間だけが過ぎていった。


----------


授業の終わり、片付けを終えた生徒たちが教室を後にしていく。


「先生ー、また実験やってくださいね!」


「あぁ、時間があったらな」


そんなやり取りを背に、コウも教室を出ようとした。


だが、そのとき──


「夏葉瀬、ちょっといいか」


彼の声が、静かに響いた。


千織が「先に行ってるね」と言い、他の生徒たちも教室を後にする。


コウは無言のまま、彼と向かい合った。


「……どう…したんですか?先生。」


「いや、大したことじゃない」


先生は視線を少し落とし、何かを考えているようだった。


「お前……昔、どこかで会ったことはないか?」


その問いに、コウの心臓が跳ねる。


だが、表情には出さない。


「……さあ、どうでしょう…」


「……そうか」


先生はそれ以上何も言わなかった。


静寂が満ちる。


やがて、先生はふっと微笑んだ。


「お前、なかなか面白いな」


その言葉が、妙に胸の奥に残った。


コウは短く息を吐き、静かに教室を後にする。


扉の向こうには、千織が待っていた。


「……何か話してたの?」


「……いや、大したことじゃない」


そう答えながら、コウはもう一度だけ、理科室の扉を振り返った。


彼はまだ教卓の前に立ち、窓の外を見つめていた。


その背中に、"何か"を感じながら──コウはゆっくりと歩き出した。


──この日常に、まだ馴染めなくても。


それでも、ここにいる理由を探し続ける。


それが、今の俺にできることだから。

閲覧ありがとうございました。

誤字脱字等ありましたらすみません。


化学の知識が無さすぎて「還元反応は〜」とか適当です。


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