新たな繋がり
翌日、昼休み。
1つの教室内に1年生が集められていた。理由は単純で、近々行われる体育祭の準備が本格的に始まるからだった。
最近、外からはセミの声がよく聞こえるがその声をかき消す程、教室内は賑わっていた。
「はいはい、静かにー!」
クラス委員の女子が手を叩きながら声を張ると、次第に教室内の雑音が収まっていく。
「これから体育祭の係決めをしまーす! みんな、自分がやりたい係に立候補してね」
黒板には、さまざまな係が書かれていた。競技の進行を担う運営係、選手をサポートする補助係、そして、ポスターや立て看板を作る装飾係など。
(体育祭……)
コウはぼんやりと黒板を眺めながら、心のどこかで違和感を覚えていた。
戦場を駆け、剣を振るってきた──そんな感覚はある。だが、それとはまるで異なる"学園の祭り"というものが、どうにも現実味を感じさせなかった。
「コウ、どうする?」
隣の千織が覗き込んできた。
「……どうするって?」
「係、決めるんだよ! なんでもいいから参加しないと、先生に無理やり割り振られちゃうよ?」
(……そういうものなのか)
コウは少し考えた。
「千織は?」
「私は装飾係にするつもり! セイラと一緒にね」
「セイラ?」
「ほら、あそこにいる」
千織が指差した先に、一人の少女がいた。
セイラ──同じクラスだがあまり話したことはない。茶色のふわりとした髪を肩口で結び、大きな瞳を輝かせながら話をしている。千織と仲が良いらしく、時折クスクスと笑い合っているのが見えた。
(……明るい雰囲気のやつだな)
そんなことを考えていると、ふと別の男子生徒が近くの席から話しかけてきた。
「お前、体育祭の係、もう決めた?」
コウが視線を向けると、短髪でスポーツ系の雰囲気を持つ少年が立っていた。
見ない顔なのでおそらく別のクラスのやつだろう
「俺は翔。運営係やるんだけど、まだ人数が足りてないんだ。よかったら、一緒にやらないか?」
「運営係……?」
「競技の準備とか、道具の管理とか、全体をまとめる仕事だな。体育祭を成功させるには、けっこう大事なポジションなんだよ」
翔は爽やかに笑いながら言った。
(……どうする)
この学園での生活に、まだ慣れたとは言えない。だが、何かに関わることで、この"日常"の輪郭が少しでもはっきりするかもしれない。
「……分かった。俺も運営係をやる」
「お、本当か! 助かるよ!」
翔は嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、放課後に集まることになってるから、忘れずにな!」
そう言って翔は他の生徒にも声をかけに行った。
千織がくすっと笑う。
「コウがちゃんと係活動するなんて、ちょっと意外かも」
「そうか?」
「うん。でも、いいことだと思うよ」
コウは答えず、ただ静かに窓の外を見た。
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放課後。体育館の隅に、運営係のメンバーが集まっていた。
「それじゃ、運営係の仕事を確認していくぞ!」
中心に立った翔が、紙を広げながら説明を始めた。
「まず、競技の準備。各競技に使う道具の確認とか、タイムスケジュールのチェックとかをやる。それと、当日は全体の進行をサポートすることになるから、役割分担をしっかり決めておかないとな」
コウは黙ってその説明を聞いていた。翔の話し方は分かりやすく、何より的確だった。
(ただの元気なやつかと思ったが……意外としっかりしているな)
「えーっと、じゃあ、まず競技ごとの道具の確認をやりたいんだけど、手分けしてくれるか?」
「了解!」
「任せろー」
他の運営係のメンバーが元気よく返事をする。コウはまだこの雰囲気に馴染めず、少しだけ居心地の悪さを感じていた。
「コウ、お前は俺と一緒にリレーの道具を見に行ってくれ」
翔がそう言うと、コウは頷いた。
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倉庫の前。
「バトン、ちゃんと揃ってるな……コウ、こっちのチェックリストに数を書いてくれ」
翔がバトンを並べながら言う。
コウは手渡された紙に数字を記入しながら、ふと口を開いた。
「…なぁ、お前はこういうのに慣れてるのか?」
「ん? まあな。こういうまとめ役、気づいたらやってることが多いんだよ」
翔は笑いながら言った。
「でもさ、そういうのが好きなやつがやらないと、結局うまくいかないんだよな。だから、気づいたらやってるって感じ?」
「……そういうものか」
「コウは、こういうの得意じゃない感じ?」
「……あまり経験がない」
それは本心だった。
"戦場"では、剣を振るうこと以外、何も考えたことはなかった。少なくとも、学園の行事を円滑に進めるなどという役割とは無縁だった。
「まあ、最初はそんなもんだよ。とりあえず、やってみればいいさ」
翔はそう言って、バトンをケースに戻した。
「お前、意外と真面目そうだしな」
「……そう見えるか?」
「見える。何というか、すごく冷静っていうか……剣道部のケン先輩みたいな感じ?」
「ケン……」
「知ってる? 剣道部の主将でさ、頭も切れるし、強いんだよな」
「……ああ。少しだけ話したことがある」
翔は納得したように頷いた。
「へぇ、意外と顔広いな」
コウは何も言わず、ただバトンをケースにしまう手を動かした。
翔はそんなコウを見て、ふっと笑った。
「……何だよ?」
「いや、コウってクールなやつかと思ったけど、意外とちゃんと話すんだなって」
「……?」
「ま、これから色々準備もあるし、よろしくな!」
翔はそう言って、コウの肩を軽く叩いた。
コウは小さく頷きながら、倉庫の扉を閉じる。
──こうして、"体育祭"の準備が、静かに始まった。
まだ馴染めない"日常"の中で、新たな繋がりが生まれようとしていた。
閲覧ありがとうございました。
誤字脱字等ありましたらすみません。




