灯る光
昼休み。
学園の図書室には、静かな空気が流れていた。
ページをめくる音だけが響く。
コウは、山積みになった本の間で、一冊の古びた資料をじっと見つめていた。
(……何か手がかりはないか)
廃教会の扉。5つの鍵穴。悟が作った場所。
この学園のどこかに、その手がかりが残っているかもしれない。
そう考え、ここ数日、昼休みは図書室に入り浸るようになっていた。
しかし──
「ねえ、コウ」
ふと、隣の席から千織の声がした。
「千織?」
「最近ずっとここにいるよね?」
「……そうか?」
「そうだよ。私たちの昼休みの時間、ずっと本とにらめっこしてるんだから」
「別にいいだろ」
「……うーん」
千織は、少し考えるように視線を落とした。
そして、ぽつりと呟く。
「……ちょっと、心配なんだよね」
「心配?」
「うん。コウ、何かに追われるみたいに……ずっと何かを探してる」
「……」
コウは答えなかった。
「私たちには、話せないこと?」
「……別に、話せないわけじゃない」
「じゃあ、話してくれる?」
「……」
コウは静かに本を閉じた。
「……まだ、確かめたいことがあるだけだ」
千織はじっとコウを見つめたあと、ふっと微笑んだ。
「そっか。でもね、あんまり無理しないでよ」
「……分かっている」
千織は少し安心したように頷いたが、それでもまだ気にしているようだった。
放課後、学園の廊下で、千織、翔、セイラ、そして、ケン4人が集まっていた。
「で、コウのことなんですけど…ケン先輩、なにか知りませんか?…」
セイラがケンに問いかける
「·····昼休みは図書室で、放課後は公民館の資料室にこもってるみたいだな」
ケンが腕を組んで言う。
「ずっと何かを調べてるみたいだけど、何を調べてるのか全然教えてくれないし……」
「うん……なんか悩んでるのは分かるんだけど、本人が言わない限り、どうしたらいいのか……」
千織が小さくため息をついた。
「こうなったら、一番コウに近い人に聞くしかない!」
翔が拳を握る。
「それって……」
「そう、先生!」
そう言って、翔は真っ先に理科準備室へと向かった。
「たのもー!!」
翔が勢いよく理科準備室の扉を開ける
「先生、ちょっといいですか!」
「……なんだ?」
理科準備室で書類を整理していた先生が顔を上げると、翔たちがずらりと並んでいた。
「コウのことなんですけど……最近、ずっと何かを調べてて、全然周りを気にしないんです」
「昼休みも放課後も、ずっと本ばっかり読んでて……なんか、私たちを避けてるような気もするんです」
千織の言葉に、先生は少し考え込むように顎に手を当てた。
(……そうか)
コウが何を調べているのか、先生にはなんとなく察しがついていた。
「……それで、俺にどうしろと?」
「一緒に住んでるなら、何か知ってるんじゃないですか?」
翔が単刀直入に言う。
「……」
先生はしばらく沈黙した後、静かに答えた。
「コウが話すまでは、俺からは何も言わない」
「えっ……」
「だが、気にかけておく」
「先生……」
先生の言葉に、4人はそれ以上何も言えなくなった。
彼はコウのことを決して無関心にしているわけではない。
ただ、コウ自身が話すまでは、無理に問い詰めるつもりもないのだろう。
「……分かりました」
千織は小さく頷いた。
「でも、私たちにもできることがあると思うんです」
「例えば?」
「……気分転換、です」
──────────
「コウ! 今日の放課後、海行こう!」
「……は?」
突然、千織がそう言い出した。
「最近、ちょっと難しい顔しすぎ! だから、気分転換しよう!」
「……いや、俺は別に……」
「ダメ! こういうのは勢いが大事!」
「そうそう! たまには遊ばないと!」
セイラが笑顔で頷く。
「花火も用意してあるぜ!」
翔が袋を掲げる。
「……俺もいるぞ」
ケンが淡々と言う。
「……」
コウはしばらく彼らの顔を見ていたが、ふっと息を吐いた。
「……分かった」
──そして、その日の夕暮れ。
コウは海岸で、小さな手持ち花火を見つめていた。
「なぁ、コウ。こういうの、やったことあるか?」
翔がニヤニヤしながら聞く。
「ない」
「マジか!? じゃあ、今日が初めてか!」
「じゃあ、これあげる!」
千織が、火のついた花火をコウに渡す。
「……?」
「ただ持ってるだけでいいよ。ほら、綺麗でしょ?」
コウは静かに火を見つめた。
小さな炎が揺れ、夜の闇を照らしている。
──この光は、何かに似ている気がした。
戦火ではなく、剣の炎でもなく。
ただ、静かに燃える、暖かな光。
(……花火)
「……悪くないな」
コウが小さく呟くと、千織たちは嬉しそうに微笑んだ。
「でしょ?」
「じゃあ、線香花火対決しようぜ!」
「ええ!? 絶対負けない!」
賑やかな声が響く中、コウはただ花火の光を見つめていた。
──知り合って、まだ日は浅い。
それでも、彼らは自分を心配し、こうして誘ってくれた。
「……ありがとう」
小さく呟いた言葉は、花火の火花と共に夜空に消えていった。
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