廃教会の扉
──再び戻ってきた日常。
コウは、そんな日々を噛み締めながらも、違和感を拭えずにいた。
(なぜ、俺は……失ったはずの力を使えた?)
雷を竹刀に纏い、振るったあの瞬間。
かつてのように、身体が勝手に動いた。
──いや、違う。
「あの力は、一時的に戻っただけだ」
今のコウには、あの力はもうない。
学園の穏やかな時間の中、コウは何度も自分の手を握りしめた。
(力を使った時、何か……感じなかったか?)
記憶を辿る。
──そして、思い出す。
あの時。
雷が迸る刹那、あの廃教会のあたりが、一瞬光っていた。
(……あそこに、何かあるのか?)
答えを求めるように、コウは授業が終わるとすぐに学園を出た。
向かう先は、廃教会
──────────
夕陽が傾き始める頃、コウは街外れの廃教会へと足を踏み入れた。
静寂が支配する空間。
かつて、ここで雨を凌いだ時と変わらない、古びた空気。
「……」
ふと、誰かの視線を感じた。
振り返ると、廊下の奥から一人の初老の男性がこちらを見ていた。
「……君は、ここの信者かね?」
「いえ、違います」
「では、何の用で?」
男性は深い皺の刻まれた顔に穏やかな微笑を浮かべていた。
「……少し、知りたいことがあって」
「ほう」
男性は静かに頷くと、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。
「私はこの教会の管理を任されている柳沢だ。何か知りたいことがあれば、答えよう」
コウは一瞬迷ったが、思い切って問いかけた。
「この教会は……一体、誰が作ったんですか?」
「……君は、なぜそれを知りたい?」
「何となく、気になっただけだです」
男性はしばらくコウを見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「この教会は……遥か昔、ある青年が作ったものだ」
コウの胸の奥で、何かが軋む音がした。
「……青年?」
「そうだ。彼の名は悟」
その瞬間、コウの意識が遠のいた。
──悟。
──五刃の中で、最も若い少年。
──コウに弟子入りし、共に剣を振るった日々。
(……悟が?)
コウは、終焉戦争の最中、何者かに心臓を貫かれたところまでは覚えていた。
だが、その後、悟がどうなったのかを知らなかった。
「その青年は、どんな人だったんですか?」
コウの問いに、男性は静かに答えた。
「彼は、この世界の者ではなかった」
「……」
「にわかには信じがたい話だ」
男性は独り言のように呟いた。
その後、微笑み悟と教会について話し始めた。
「──遥か昔、まだ私が小さい頃の話だ」
「当時、町おこしの一環で、町の人々が古びた旧教会を建て直そうとしていたんだ」
「下手したら何十年、何百年も手入れがされていないんじゃないかと言うくらい廃れていてね」
「何も無い、廃墟のようだった。──ただ、一つだけ不思議なものがあったんだよ」
「不思議なもの…?」
「扉だよ。大きなね。」
「この教会の扉が開かれた時、彼は傷ついた身体で現れたんだ。」
扉が開かれた時……?
男性はあそこだよ。と、扉の方に視線を送る。
コウはつられるように、教会の奥へと視線を向ける。
すると、そこには──
古びた、巨大な扉があった。
その扉には、5つの鍵穴が刻まれていた。
「……これは?」
「私にも分からない。だが、悟さんはこの扉をとても大切にしていたよ」
「……」
コウはじっと扉を見つめる。
(鍵穴が、5つ……)
直感が告げていた。
この扉は、ただの扉ではない。
何かが隠されている。
──────終焉の五刃
コウ、センセイ、千代、ケイ、悟──。
この5人と、何か関係があるのではないか?
「……そういえば、君の名前はなんと言うんだい?」
初老の男性が問いかける。
コウは静かに口を開いた。
「俺の名前は、夏葉瀬 コウ」
その名を聞いた瞬間、男性の目が僅かに見開かれた。
「……そうか」
「……?」
「……いや、何でもない」
何かを知っているような反応。
だが、男性はそれ以上語らなかった。
コウは再び扉を見つめる。
(この扉……何かを呼んでいるような気がする)
悟が作った教会。
この扉と繋がる何か。
(力の由来は分からなかったが……)
きっと、この扉が関係している。
そう確信した時、背後のステンドグラスに映る夕陽が、血のように赤く染まっていた。
コウは、再びこの扉に向き合うことを決意し、静かにその場を後にした。
閲覧ありがとうございました。
誤字脱字等ありましたらすみません。




