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蒼炎の刃  作者: 夏目
18/19

炎の記憶

雷の騒動から一夜が明け、柳田町は慌ただしさを増していた。


「学園近くの山の小屋が燃えているぞ!」


「急いで消火活動を!」



燃え盛る炎が、夕暮れの空をさらに赤く染めている。


学園の教師や町の大人たちが、バケツリレーや放水で火を抑え込もうとしていた。


その中には──先生の姿もあった。


「くそっ、思ったより火の勢いが強いな……」


先生は水を含ませた布で口元を覆いながら、燃え広がる山を睨んだ。


──炎。


赤く揺らめく炎を見つめた瞬間、先生の胸の奥で何かが弾けた。


脳裏に、どこか懐かしい情景が浮かぶ。


──剣を振るう、自分の姿。


剣に纏う紅蓮の炎。


戦場に響く轟音。


剣を振るうたびに、魔物のようなモノが焼かれ、斬られていく。


(……これは、俺の記憶か?)


理解が追いつかない。


しかし、それは確かに先生の一部だった。


そして、戦場の記憶の中に、いつも隣にいた存在があった。


──長い黒髪を風に靡かせる青年。


雷を纏い、刃を振るう姿。


「……コウ」


呟いた瞬間、心の奥底で何かが確かに繋がった気がした。


──俺は、コウを知っている?


なぜ忘れていたのか、それさえも分からない。


だが、確信だけはあった。


(俺は、かつて……剣を持ち…戦っていた)


先生の手が、無意識に拳を握りしめる。


その時だった。


──「見つけたぞ、夏葉瀬コウ」


新たな使者が、現れた。


──────────


黒い装束を纏った男が、山火事の混乱に紛れ、学園の方向へ向かっていた。


「…!アイツはこの前の…」


先生の目が鋭くなる。


(このままでは、コウが襲われる)


─だが、コウに戦わせるわけにはいかない。


先生の胸の奥に、妙な感情が渦巻いた。


(……俺は、コウにここにいてほしい)


ただ、それだけの思いだった。


だから──


「コウに手を出させるわけにはいかないな」


先生は足元に落ちていた長く太い枝を拾い上げた。


「……お前の相手は、俺だ」


─────────────


「貴様は……?」


追っ手の男が眉をひそめる。


「俺は、柳田学園の教師だ」


先生は枝を肩に担ぎながら、一歩前へ踏み出す。


次の瞬間──


──空気が変わった。


使者が一瞬怯む。


その隙に、先生は枝を振り下ろした。


「なっ……!?」


枝を握る感触が、あまりにも馴染んでいた。


まるで、かつての剣を握っているかのように。


──昔、大剣を振りかざし、皆を守っていた。


それを、今、確かに思い出した。


「お前が何者かは知らんが、俺が相手になってやる」


「ぐ……っ!」


使者が鋭く短剣を振るうが、先生は迷いなく受け流す。


「俺の生徒を狙うなら──容赦はしない」


枝を大きく振るう。


その瞬間、枝が炎を纏ったように赤く輝いた。


──それは、まるでかつての炎の剣のようだった。


「……なにっ……!?」


追っ手の男の表情が、恐怖に染まる。


──ズバァッ!!


先生の一撃が、男を吹き飛ばした。


「ぐっ……!!」


男の体が宙を舞い、地面に転がる。


先生の勝利だった。


───────────


先生は倒れた追っ手を見下ろす。


「……これで終わりだ」


だが、このままではいずれまた新たな敵が来る。


コウがここにいる限り、何度でも。


先生はふと、ある決断をした。


──相打ちだったと偽装する。


コイツとコウが戦い、互いに傷を負って消えたことにすれば、コイツらもすぐに動けなくなる。


先生は地面に戦いの跡を残し、使者の身体に傷をつけ、''戦いの痕跡''を作り上げた。


(これで、しばらくは大丈夫だろう)


コウがこの学園に留まるために。


──コウには、平穏な学園生活を送って欲しい。


先生はそう決意し、静かに炎を見つめた。


「しばらく、騒ぎは起きないだろう」


その夜、先生は家へ戻った。


居間でコウがテレビをまじまじと見ていた。


人の気配に気づいたのか、コウの視線がテレビから先生へと移る。


「……」


コウが先生を一瞥し、口を開く


「何かあった?」


「いや、なにも。」


先生は淡々と答えた。


「……ただ、しばらく、騒ぎは起きないだろう」


コウはじっと先生を見つめたが、それ以上は何も聞かなかった。


ただ、静かに頷く。


(……これでいい)


先生はコウの後ろ姿を見ながら、再び心に誓う。


──俺は、この生活を守りたい。


たとえ、自分が何者であったとしても。

閲覧ありがとうございました。

誤字脱字等ありましたらすみません。

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