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蒼炎の刃  作者: 夏目
16/17

目覚めの雷

──体育祭翌日


土曜日の夕方だというのに学園は賑やかだった。


生徒たちは打ち上げとして、学園に泊まるイベントを開いていた。


「体育祭が無事終了したことを祝して!かんぱーい!」


翔の掛け声で、ジュースの缶がぶつかり合う。


「いやー、体育祭楽しかったね!」


「うん! すごく盛り上がったし!」


「それにしても、最後のリレーはすごかったよな」


翔がコウを見ながら言う。


「お前、どんなトレーニングしてんだよ」


「別に何もしてねぇよ」


コウはジュースの缶を口に運びながら淡々と答える。


「まぁ、コウらしいよね」


セイラがクスクス笑う。


千織も微笑みながら続ける。


「でも、本当にありがとう。コウのおかげで、青チームが優勝できたよ」


「…別に、俺は何もしてない」


「もう、またそれ!」


笑い声が飛び交う中、コウは静かにその空間を眺めていた。


──悪くない。


少しずつ、この学園での日常が馴染んできている気がした。


────────


騒ぎが落ち着いた頃、コウは外の空気を吸おうと学園の外へ出た。


人気のない校庭を抜け、部室棟の方へと歩く。


空には満月が浮かび、静かな夜風が吹いていた。


(…少し散歩でもするか)


コウは足を進める。


しかし、その瞬間だった。


──カツン。


異質な足音が響く。


「……誰だ」


警戒しながら辺りを見回すと、月明かりの下に黒い影が立っていた。


「見つけたぞ……''メイリア''…否、今は夏葉瀬コウと言ったか」


禍々しい気配を纏った男が、そこにいた。


──「我が主の命により、お前を始末しに来た」


────────


「……主?」


コウは眉をひそめた。


「…お前の主は、俺を知っているのか」


「当然だ。我が主はすべてを見通している」


使者の声は低く、冷たい。


「貴様は、神に仇なす存在。ゆえに、この地で消えるべきだ」


次の瞬間、空気が震えた。


使者の手がかすかに動く。


その瞬間──


──刹那、コウの肩が裂けた。


「っ……!」


遅れて、痛みが襲う。


何が起こったのか、見えなかった。


(速い……!)


だが、それだけではない。


コウは、自分の体が思うように動かないことに気づく。


(……呪いのせいか)


かつて世界を震わせた力は、失われている。


使者は容赦なく追撃を仕掛けてくる。


「くっ……!」


コウは必死に身をかわすが、避けきれない。


腹に衝撃が走る。


地面に叩きつけられ、呼吸が詰まる。


(このままだと……)


じりじりと追い詰められていく中、ふと視界の隅にあるものが映った。


──剣道部の部室。


扉の向こうに、竹刀が何本か置いてあるのが見えた。


(……あれなら)


コウは迷わず部室の中へ飛び込む。


使者もそれを追うように足を踏み入れる。


「逃げ場はない」


コウはゆっくりと竹刀へと手を伸ばす。


(今の俺は、刀を振るえるのだろうか)


迷いが脳裏をよぎる。


(……今は考えている暇はない)


やるしかない。


刀の柄を握る。


──その瞬間、世界が揺れた。



────────


「……!」


コウの髪が、風に舞う。


次第に長くなり、腰まで伸びていく。


刀が、雷を纏う。


部室の空気が一変する。


「これは……!」


使者が僅かに後ずさる。


コウの目が、雷光のように鋭く光る。


(思い出せない……だが、確かにこの感覚を知っている)


竹刀を構える。


一歩踏み出す。


──雷鳴が、轟いた。


───────


「……っ!」


その光景を、先生は見ていた。


学園の門の近くにいた先生は、異様な気配を感じてここまで来た。


そして、目の前に広がる光景──


雷を纏った刀を振るうコウの姿。


先生は、言葉を失った。


「……」


俺はこの姿を、知っている。


かつて、戦場で共に並び立ったときの姿。


だが、自分はそんな記憶を持っていないはずだった。


(……俺は、知っているのか?)


胸の奥に、説明のつかない感覚が広がっていく。


────────


コウはそんな先生の視線には気づいていなかった。


刀に雷を纏い、神の使者と対峙する彼は──


ただ、戦いに集中していた。


──すべては、次の刹那に決まる。

閲覧ありがとうございました。

誤字脱字等ありましたらすみません。

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