青の絆
澄み渡る空に、応援の声が響き渡る。
──体育祭、本番。
色とりどりのチームカラーがグラウンドを彩り、生徒たちの熱気が空気を震わせる。
「おーし! 気合入れていくぞ!」
翔の声が響き渡り、各チームが円陣を組んで気勢を上げる。
コウは青チームの集合場所で、千織やケンと並んで立っていた。
「いよいよ始まるね!」
千織がわくわくした表情で言う。
「体育祭……こういうのって、ワクワクするものなのか?」
「当たり前でしょ! クラスとか学年関係なく協力して、一緒に戦うんだよ? こういうのって、なんかいいじゃん!」
「……へぇ」
コウには、まだ完全には理解できなかった。
だが、千織の楽しそうな表情を見ていると、悪くない気がした。
「…先輩は?」
コウが隣のケンに問いかけると、彼は腕を組んで小さく笑う。
「勝つ。ただそれだけだ」
「……単純」
「今まで沢山練習してきたんだ。勝たなきゃ意味がない」
その言葉に、コウの胸の奥がわずかに揺れる。
(……意味か)
昔は、戦いなんて王の私欲にまみれたもので、その私欲を満たす為に優秀な戦士が死んでいく意味の無いものだと思っていた。
だが、こうして競い合うことの中にも、何か通じるものがあるのかもしれない。
「よーし! 午前の部、最初の競技は綱引きです! 各チーム、スタート位置についてください!」
アナウンスが響き渡り、歓声が上がる。
「よっしゃ、いくぞ!」
「青チーム、勝つぞー!」
コウは千織、ケンと共に、綱引きの位置へと向かっていった。
────────
綱引き
「位置について──始めっ!」
笛の音と同時に、四つのチームが一斉に綱を引く。
「うおおおお!!」
「踏ん張れ!」
コウは綱を握ると、瞬時に力を込めた。
(……軽い)
自分の握力と脚力が、まるで別次元にあるような感覚。
隣ではケンが同じように無駄のない動きで綱を引き、千織も全力で踏ん張っている。
「が、頑張れ……っ!」
「千織、もう少し後ろに重心を置けるか?」
「うん……っ!」
千織の足元が安定すると、青チームの綱がじりじりと後方へと引かれていく。
(……戦場の陣形と似ているな)
力を入れるポイント、息を合わせるタイミング。
それを理解した瞬間、コウの動きが一段階変わった。
(………今だ)
一気に力を込める。
ケンも瞬時に呼応し、千織も懸命に食らいつく。
次の瞬間──
「青チームの勝利!」
「よっしゃ!」
歓声が響く中
千織が嬉しそうに飛び跳ね、ケンは満足そうに拳を握りしめていた。
コウはゆっくりと息を吐いた。
「やったね、コウ!」
そう言いながらハイタッチ!と言わんばかりにコウに向けて手を出している。
「ん」
コウは千織とに手を重ねた。
千織とケンと並んで勝利を噛みしめる。
──少しずつ、この二人との距離が縮まっている気がした。
借り物競争
「さあ! 次の競技は借り人競争! どんなお題を引くかは運次第!」
アナウンスと共に、借り物競争が始まった。
「うわっ、これ何!?『源太先生と腕相撲で勝った人』って!?」
「誰だよ、こんなふざけたお題入れたの!」
「サングラスかけてる人ー!!」
生徒たちの笑い声が飛び交いながら、次々と走り出していく。
そして──コウの番が回ってきた。
(……まあ、何が来てもやるだけだ)
──『一番高い身長の人』
(…一番高い身長の人、ね)
会場で一番身長の高い人物を探し、一緒に走るだけ。だが、この広大なグラウンドで、一体誰が一番背が高いのか。
(…背の高い奴なんて、沢山いてわかんねぇな)
このまま見つけられなかったら、チームの足を引っ張る──。
焦燥が胸の奥でざわつく中、コウの視線は、周囲を見渡す中で一人の人物に引きつけられた。
(あっ…)
気づけば、足が動いていた。
「コウ? どこ行くの!?」
千織の声が背後から聞こえる。
だが、コウは答えず、ある人物の元へ走った。
「先生!」
呼びかけると、先生は少し驚いたように目を向けた。
「どうした?」
コウは息を整え、お題の書いてある紙を先生に見せる。
「…先生って身長高い部類に入るだろ?」
先生は一瞬目を見開いたが、すぐにコウの見せてきた紙を見て、内容を察した。
確かに先生はこの中で1番背が高いといえるだろう。
「それはそうだな。」
先生は納得したように笑うと、コウの手を取り、一緒に走り出す。
他の選手もお題に書かれている人やものを借りて走っている。
けれど、コウと先生には及ばない。
「背の高い人は足が早い。」何となくわかった気がする。
「ゴール!」
審判の声と共に、コウと先生はゴールラインを超える。
「おぉ!コウが1位だ!」
翔が歓声を上げる。
「先生なら間違いなく一番高い人に入るよね〜」
千織は納得しながら拍手を送っている。
生徒たちの笑いが溢れる中、先生はコウの方を振り返り、Vサインをする。
コウはなんだかそれが可笑しくて笑った。
…なんだかそれが懐かしくて、少し寂しくなった。
────────
「お昼休憩に入りまーす! 午後の競技も頑張ってください!」
放送委員のアナウンスが響き、午前の部が終了した。
「やっとお弁当だぁ!!」
「もうお腹ペコペコだよ〜」
セイラと千織の声に翔も、「腹減って倒れそ〜!」と言う。
そんな中──
「…おい、夏葉瀬!」
名前を呼ばれ振り返ると、そこには担任の尾崎が立っていた。
どうやら青チームの中で負傷者が出たらしく、その子の代わりにリレーを走って欲しい。との事だった。
「急に悪いな。その子、リレーのアンカーなんだ。お前、走るの早いし適任かと思って声をかけた。」
別に走ることは苦ではないし、特に断る理由も無いため引き受けた。
「コウすごいじゃん!アンカーだよ!」
千織が興奮気味に、嬉しそうに言う。
「アンカーってことは…セイラと一緒に走るってことか?」
「そうじゃん!負けないからねぇコウ!私だって足の速さには自信あるんだからっ!」
「あぁ、知ってる。」
「引き受けてくれて助かった、夏葉瀬。…おっと、長話が過ぎたな。ほら、喋るのは飯を食ってからにしろ!」
尾崎の声に千織達は、はーいと言い家族の元へ走る。
コウは人気のない場所を求め、歩き始めた。
そんな中、コウはふと、先生の方を見た。
先生は何も言わず、ただ静かに立っている。
コウは少し考えた後、ゆっくりと足を反対方向に向けた。
閲覧ありがとうございました。
誤字脱字等ありましたらすみません。