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断章
テーブルの上にはワイングラスとデカンタが置かれている。
岩志木幻弥はデカンタを傾け、グラスに赤い液体を注ぐ。そしてグラスを手にし、軽く回転させながら、まずはその香りを楽しんだ。
「へえ、これは……」
うっとりとした顔でつぶやく。普段から口にしているものとは違い、香りにツヤがあった。しばらくその香りを楽しむ。
次にゆっくりと一口含む。その味わいの豊かさに幻弥は思わず破顔する。
「実においしい」
そしてワイングラスを目の上にかかげ、夢見るような表情になる。
その様子を見ていた白衣の男はかすかに顔をしかめた。
岩志木幻弥があの顔を見せたときは決まって厄介な要求をすることが分かっていたからだ。
案の定、幻弥は言った。
「この子の血液を直接飲みたい」
白衣の男は小さく吐息をついたあと、手元のマイクのスイッチをオンにして言った。
「分かった。手配する。二週間待ってくれ」
「楽しみにしているよ」
モニター越しに岩志木幻弥が軽くウィンクをした。