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(しまった!寝ていたか?!)
オレンの意識は馬蹄の響きにより起こされた。
眠ったつもりは無かったが、ただ暗闇を見つめるだけの時間が、いつの間にかオレンの意識を不確かなものにしていた。
直ぐ様、刀を握り直すと近づく馬蹄を目で追ってみた。
馬二頭が目の前を駆けていくのを見送って、暫く後続があるか、また闇を見つめた。
馬上の賊は一人は刀、一人は槍を携えていたが、
裏門とて村人も複数人で守っているのだ、後続の確認をしてから向かっても十分間に合うだろうとオレンは思った。
この考えは半分正しく、半分甘かった。
湯が湧くほどの時間を経て、後続の無いのを確認したオレンは、仕掛けを使って柵の外へと飛び出し、裏門へ急いだ。
賊とて全ての者が馬に乗れる訳では無い。
馬を与えられる身分の者は、賊の中でも腕の立つ者に違いなかったのだ。
門の前では村人が必死の抵抗をしていたが、如何せん腰が引けている様であった。
まだ柵が破られたわけでも門が破壊されたわけでもないが、馬を巧みに操る賊二人に村人達は翻弄されて地の利を活かせていなかった。
刀の賊が柵ギリギリに馬を走らせ刀を振り回し、それが囮と気付かず、柵一杯に近付いて槍を突き出す村人を、槍の賊が急襲して突くという攻撃にまんまとはまり、怪我人を出した様であった。
オレンは直ぐにでも飛び出して加勢しようと思ったが、柵の外からでは二人に対し独りと、良い的になるだけであり、仕掛けから柵の中に戻っても刀では柵越しに戦うのもつらいと思い、二の足を踏んでいた。
先程の槍の賊により傷を受けた仲間を下がらせようと助けに入った村人が、再びの槍使いの急襲により、またしても傷を負ったようであった、
オレンは態と殺さずに傷を負わせるに留める槍使いの思惑に気づき、戦慄した。
案の定、刀の賊も素早く馬から降り、柵を越えるべく足を掛けた。
村人の一人が気づき、落とす為に柵に寄ろうとするが、そこにまた馬蹄と共に槍使いの馬が迫り、村人は柵から退かざる負えなかった。
こうなってはオレンも飛び出さずにはいられなかった。
「俺が槍使いを押さえる!お前らは早くそいつを落とせ!」
オレンの声を聞いて村人が賊を柵から落とすべく近づくが、近づいてくるのは槍使いも一緒であった。
「コノヤロー、どこから沸いて出た!」
オレン目掛けて馬上から容赦のない突きが繰り出された。
オレンは馬の足に引っ掛けられない様に、斜め前に転がり、突き出された槍を避けた。
が、槍使いは直ぐに反転し、馬を走らせオレンを狙って槍を構えた。
当初、オレンは村人が柵に貼り付いた賊を落とすまでの時間を稼げばいいと考えたのだが、それが悪手とすぐに悟った。
柵から落とされたくらいでは大して怪我をすることは無いであろうことに考えが至った。
そうなると柵の外で刀使いと槍使い、どちらもオレン独りで対峙することになるのである。
是が非でも刀使いが此方にくる前に槍使いをどうにかしなければならないと気付いたのだった。
「死にさらせぇ!」
雄叫びをあげた槍使いの槍が胸に迫るのを刀で弾くと、カンから伝授されたもう一つの技、切り札ともいえる飛刀の技を繰り出した。
(浅いっ!)
一気二刀で繰り出した飛刀は、一つは槍使いの肩を掠るにとどまったが、投げたオレンの目も追えてなかったもう一刀が馬の尻に刺さった。
「うわわっっ!」
突然の肩の痛みと、馬の暴れるが重なり、さしもの乗馬上手であった槍使いもバランスを崩し落馬した。
トドメとばかりに駆け寄り、振りかぶった一刀で斬りつけたオレンだったが、すんでの所でその一刀は弾かれた。
オレンの一刀を止めたもの、それは恐れていた刀使いの賊だった。
「ほぉ、貴様も刀使いか…
ならばこの「四方八刀」のテツの妙技を受けてみろ!」
相手の名乗りを聞いて、オレンは以前にビンに言われたことを思い出していた。
……「オレン兄さんの刀術は、相手が二つ名持ちのような人でもなければもう負けないわね!」……
江湖のしきたりなど、然程知らないオレンからすれば、二つ名があるから何ほどのものかという思いが強かった。
カンに伝授された刀法はそれだけ優れたものに感じていたし、今も正に戦えているのがその証拠だと思っていた。
がしかし、その驕りが間違ったものだとすぐに思い知らされた。
始めの数手こそは、大して力も感じず、返す刀で刀使いの賊を仰け反らせることもしばしばだったが、十数手を打ち合っても決着がつくことはなく、かえって敵の捌きにも余裕が見られるほどになった。
悔しさ交じりに更に果敢にオレンも攻めるが、二十手を超える頃には攻守逆転攻め込まれ、ただ受けにまわるだけになっていた。
「ふん、やるかと思えば、落下の痛みが引けば大したことのない無い奴じゃねーか!」
刀使いの動きが悪かったのは柵から落ちた後遺症のためであり、身体を動かすほどに普段の動きを取り戻していたのだった。
(しまった!)
確実に刀使いの切り下ろしの一刀を避けたはずのオレンの脇腹から鮮血が飛び散った。
オレンが振り向けば、槍使いが血糊を振り落とすところであった。
「ふん、うまく避けやがったな!」
槍使いの言葉に、ただの偶然ではあったがオレンはニヤリと笑みを浮かべ平静を装った。
しかし、訓練により打撲の経験はあったが、掠り傷とはいえ槍に傷つけられたのが初めてのオレンは、本人の自覚の有無にかかわらず、身体が硬直していくのであった。
いつも閲覧ありがとうございます。
申し訳ありませんが、暫くの間不定期更新となります。
完結させるつもりはありますのでこれからもよろしくお願いします。




