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「私は反対するわ!!」



 勢いよく開いた執務室の入り口から声が掛かった。


 室内の皆が振り向き、声の主の姿に気を取られた瞬間、疾風の如き速さで二つの影が室内を駆け巡った。



「もう一度言うわ 私が反対するわ!!」



「キ、キャスリン様…」



 入り口に立つ人物が誰なのか気が付いた老家令がその名を呼んだ。



「久しぶりね、ビアル、元気そうでなによりだわ」



「キャスリン様…」



 思いがけないキャスリンの帰還に公爵派の面々は涙を流さんばかりに喜色を浮かべた。



「キャスリン…貴様、今頃!」



「キャスリン? 誰にものを言っているのかしら、すっかり王家に染まって公爵家の決まりを忘れたのかしら? 叔父様」



「ウックっ…」



 シュガ公爵家は、建国の経緯によりいくつかの特例を持つ家である。


 爵位継承もその一つであり、公爵不在の場合は継承者が直系の者の場合に限り、一位の者が暫定的に公爵を名乗ることが許されており、その決定については王家でも口出しはできないとされているのである。


 二位以下の直系親族からの異議のみにより覆すことができるのだが、キャスの父は正規の公爵だったのでガスト男爵は直系とはみなされず、異議をあげる権利をもたないのである。


 ガストは苦虫を噛み潰したような表情で子飼いの部下に合図を送った。



「ガストの旦那、よく見てくれや、既に引き際なんだわ…」



 言われてガストは気がついたが、部下達がイクス達に突きつけていた剣は、ことごとく鍔の先で折られていた。


 とはいえ荒事をろくに知らないガストは、短くても刃物は刃物などと思っていたため、あらかじめ決めておいた総攻撃の合図を出したのだった。



「旦那… 止めましょうや」



 リーダー格の追放騎士は、ガストの合図を無視して折れた剣を捨てるとともに両手を開いて肩ほどまで上げて、顎でキャスリンのほうを見るようにガストに促した。


 ガストがキャスリンのほうへ向くと、キャスリンの左右には剣を構える騎士が立ち、その一人はカルシスだった。


 カルシスともう一人の騎士であるプラスは、先ほどのキャスリンの入室の際、稲妻の様な速さで室内へと飛び込み、ガスト派が突きつけていた剣の全てを折り、キャスリンの左右に戻っていたのだった。


 リーダー格の追放騎士は、元公爵家の者だけあって、カルシスの恐ろしさやブラスの巧みさを十二分に知っていたのだった。


 ガストとてカルシスの恐ろしさは十分知っており、その姿を見て分が悪いことを悟った。



「いいか貴様ら! このままでは公爵家は終わるからな! こんな小娘の尻馬に乗って馬鹿をみても知らんからな!」



 部下に促され真っ赤な顔をしながら、ガストは叫び声を上げながら執務室から退出しようとした。



「待ちなさいガスト男爵!

 フッ、男爵風情が公爵への暴言…まぁ多目に見ましょう…

 いいことを教えてあげる、貴方の言う通り公爵家はお終いよ、ここに宣言するわ!

 王家との建国来の誓約により、王国からの独立を宣言します!

 あなたの大好きなシュガレスト王への伝言よ、文句があるなら戦場で相見えましょう!」



 キャスリンの宣言に室内の公爵家の者から大きな歓声があがった。


 ここ数年来の王家からの横暴な態度に誰もが辟易していたのだ。


 ガストは言い返したかったが、言い返す言葉も見つからず、ただただ悔しさをあらわにしながら部屋から逃げるように出て行った。



「こりゃ、着く方を間違えたか?…」



 歓喜の声あげ腕を突き上げて騒ぐ、公爵家の人々の興奮を見て追放騎士は独りごちた。







 雲一つない晴天の中、テラスに進み出たキャスリンは、眼下に集まった群衆を見廻した。


 執務室での宣言から数日、民衆の支持を得られるのか不安な日を過ごしたキャスリンだったが、今日この日、集まった群衆の顔は明るく、歓喜を浮かべ、中には左の肩を剥き出しにして大きく手を振る者もあった。



「みんなー、私に付いてきてくれる〜?!」



「「「「「応っ!」」」」」



 キャスリンの呼びかけに、公爵邸の前に集まった群衆の全てが諾の意を示し、いつまでもキャスリンの名を呼ぶ歓声が鳴り止まなかった。



「キャスリン様、良かったですな…」



 キャスリンが喜びの中にも一抹の不安を感じているのを察したのであろうカルシスが、キャスリンの肩を支える様にエスコートをしてテラスからの退出を手伝ってくれた。


 キャスリンが去った後も歓声は続き、それは日が沈む頃まで続いていた。








 この日、キャスリン=シュガはシュガレスト王国からの独立とシュガ公国の樹立を宣言した。



 この報は、瞬く間にシュガレスト王国中を駆け巡った。


 各地での反応は様々であったが、概ね公国樹立への拒絶反応は起きなかった。


 それは偏に王の徳の無さの表れだというのが世間の大半の声であった。





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