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「た、隊長! て、敵陣に動きありです!」



 天幕の中、簡易テーブルの上に地図を広げ眺めていたプラスの前に、敵陣を監視していた兵が転がり込んできた。



「どうした? 落ち着いて報告しろ!」



 プラスは嫌な予感を感じつつも冷静を装い、監視兵に声をかけた。



「そ、それが敵陣に数騎の騎馬が合流したようで…」



「いつもの伝令兵じゃないのか?」



 嫌な予感はあたると思いながらもプラスはそう聞かずにはいられなかった。



「はい! それが…どうもそうじゃないようで…一度に数騎が合流…」



「た、隊長! 敵陣に動きが!」



 会話を遮るように飛び込んできた二人目の監視兵にプラスは眉を顰めたが、いよいよ始まる戦闘の為に報告を聞くことが優先と、叱責したくなる気持ちを抑え、顎で促した。



「失礼しました。

 ですが、敵陣を監視していたところ、敵陣に突如騒ぎが起き、怒号と悲鳴が段々とこちらに近づくやあっという間に大混乱になったようです!」



「何っ? どういうことだ?!」



「それが私にも…」



「た、隊長!」



 三人目の監視兵が飛び込んできたが、プラスももはや色々なものを通り越して冷静に報告をする様にだけ促した。



「先程、カルシス騎士が着陣しました」



「なにっ? カルシス?!」



 プラスは監視兵の口から出た居るはずのない意外な人物の名に驚き、大声で聞き直した。



「ああ、いかにもカルシスだ!

 久しぶりだなプラス」



 天幕の中に差し込む光をバックに立っている男は確かにプラスの苦手な熱い男・カルシスだった。



「カルシス、よく来たなと言いたいところだが、こんな所で何をしているんだ?」



「ずいぶんな挨拶だな… 計略好きのプラスさんが、敵に噛みつかれて困っているというから見学をしにきたってとこだ」



「ウッグ…」



 個人の武が際立つカルシスに対して、確かにプラスは計略を使うことが多いが、それは普段、騎士を率いるカルシスと兵を率いるプラスの兵種の違いに過ぎなかった。


 実は、以前に模擬戦でプラスにコテンパンにやられた経験のあるカルシスは、プラスの実力を認めながらも心の奥では主を失うという大失態を許せなかったのである。


 もっともカルシスが護衛についていたとしても、今回の王のやりようは余りに悪辣であり、防ぐことは出来なかったであろう…


 つまりこれはじゃれ合いである。



「お前の方こそキャスリン様はどうしたんだ?」



「ふん、こんな男臭い集まりのもとに案内できるかっ、ちゃんと控えてもらっているわ!」



 カルシスの台詞に憤った伝令兵達だったが、自分らの身体の臭いを嗅ぎ合い、納得して黙った。



「まぁ軽口はそれぐらいとして、我らは騎馬が五名だ、指揮はお前の方が達者だ。

 我らを人数に加えて構わんからサッサと包囲を破る策を起てろ!」



 カルシスの意外な言葉に、プラスは「ほぉ~」と返し、兵に指示を出すべく天幕から出ようとした。



「おう、それからここにくる時に敵陣を見てきたが、隊長みたいな奴がいたからついでに討ってきたぞ!」



「お前かぁ!」(あんたかぁ!)



 プラスも監視兵も騒ぎの原因が分かってスッキリしたとかしないとか…







「なんだ!敵はもう少しで総崩れじゃないか…まぁいい、カルシス隊長の全軍騎馬突撃を追って突撃!」



 敵陣は、将を討たれた影響をもろに受け、騒ぎはおさまらず浮足立っていた。


 プラスは特別な策より、力技の騎馬突撃による突破力で敵は崩れるとみて全軍にそう指示した。


 カルシスは当然ながら、カルシスに従う若者の馬を操る技量の優なるをみてやはりカルシスも一廉の将なのだなと改めて思った。



「勝ったな…」



 騎馬突撃、特にカルシスが向かう先は敵陣が真っ二つに割れるように逃げまどっていた。


 更にカルシスが通った後には蹄にかけられた敵兵か、叫びながら蹲る兵で溢れた。


 それを追いついた自軍の兵が蹂躙し、もはや茶を飲み干すほどの時間を待たずして決着がつくという状況であった。



「プラス隊長…」



 プラスは呼ばれて振り向くと、慌ててその場に跪いた。



「隊長、その様な姿勢では話もできませんわ」



「いえ、キャスリン様…

 某は不甲斐なくもテナドール様の護衛も全うできずにおめおめと…」



「それは貴方のせいではないわ…

 私達は王都から貴方達を追ってきたの、王の噂は十二分に聞いたわ…」



「い、いえ…それでも私は…」



 王都での不甲斐なさを思い出したか、プラスの目には涙が浮かんでいた。


 実際のところプラスは、公爵夫人とテナドールの死を知ると、護衛隊全軍に武装解除を指示し、一見、王に赴くかの如く行動であった。


 しかしその実、兵数を誤魔化したり重要な武器を隠したりと奮闘し、やっとの思いで全軍の王都脱出を成したのだった。


 王都でその事を知ったキャスはプラスに優しい声をかけた。



「貴方の忠誠を疑ったことなどありません。

 私はこれより公爵領二戻り、旗を掲げるつもりです。貴方はその力をかしてくれますか?」



「私は、いつまでも公爵家に忠誠を誓うということを誓っています。

 ですので非才ながらこのプラス、キャスリン様に忠誠を誓います」



「ありがとう、まずはともに公爵領を目指しましょう

 プラス、これからの戦い、貴方に期待してますよ」



 プラスは、自分の年齢の半分にもみたない少女に信頼と期待のこもった目で見つめられ、必ず勝利を捧げると改めて心の中で誓うのだった。




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