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「カルシス、そろそろ追いつく頃じゃない?」



「そうですね、我らより六日先行しているとはいえ、奴らは百人以上で移動していますから、そろそろケツが見えるかと思います」



 カルシスの汚い表現にミンティアが眉をしかめるが、キャスは気にした様子もなく一つ頷くとルークを呼んだ。



「ルーク、悪いけど少し先行して様子を見てきてもらえる?」



 まだ新人ともいえるルークは、キャスからの直接の指示にのぼせ上がったのか、返事もそこそこに馬に鞭を入れて走り去った。



「まったく、いつまで経っても落ち着きがないな!」



 礼のなっていない騎士見習いにカルシスが苦虫を噛み潰したような顔をして言った。



「まぁ、急ぎですから多目に見ましょう」



 貴方も大概ですけどねと思いながら、ミンティアが執り成しの言葉を発した。


 肝心のキャスは心此処にあらずといった感じで、その後も二言三言やり合う二人に注意を向けることは無かった。







 ルークは思っていたよりも早く戻ってきた。



「キャスリン様に拝謁致します」



 ルークが伴ってきた騎士が颯爽と馬から下りると、キャスの足元に跪いた。



「立ちなさい、過度の礼は必要ないわ。有事なのでしょう?」



 公爵領の邸で見かけたことのある中年騎士の旅装は、かなり汚れにまみれ、道中が一筋縄ではいってないことが見て取れた。



「ご明察!

 王都を脱した我らにやはり追っ手がかかりまして、プラス隊長の策でなんとか躱しながら領都を目指していましたが、だいぶ方角がズレました。

 そこで私が偵察がてら出たんですが、どうも部隊が接敵してしまったようでどう戻ろうかと悩んでいましたらそちらの若者が…」



「はい、軽装の騎士らしき人が、王都軍らしき集団を伺っていましたので声をかけさせて頂きました」



 ハキハキと答えるルークにカルシスは頭を抱えんばかりであったが、結果が良き方向だったので一先ず飲み込んだ。



「そう、それは良かったわ。でもね判断はもう少し慎重にね」



「そうだぞルーク、今回は良いが敵の敵は味方とは限らないんだからな。さして知らぬ者と相騎乗など…」



 キャスばかりかミンティアにも小言を言われたルークはシュンとして下を向いた。



「いやいやお嬢様、この若者は見どころがありますぞ、声のかけ方も堂に入ったものでしたし、それこそ馬の扱いは私より上手い具合でしたぞ」



 思わぬ同行騎士の応援に上気した顔をあげたルークを見て皆が笑った。



「話を戻しましょう。

 それでプラス達の状況は?」



 キャスの問いかけに、フネンと名乗った騎士が状況報告を始めた。



「王都を百二十二名で出発した我々は、プラス隊長の命令で隊を五つに分けました。

 文官、メイド、ポーターに護衛を付けた隊を四つと騎士だけの隊という具合にです。

 騎士隊で殿を務め、他の隊は先行させました。

 二日後に最初の接敵があり、我ら四十名に対し、敵は百五十名はいましたな」



「さ、三倍…」



 絶望的な兵数差にミンティアが息をのんだ。



「そこはそれ、プラス隊長は変幻自在、隊を分けたり合流させたりで敵を翻弄、二昼夜で追っ手の半分は消え失せましたな」



 フネンがなんてことはないとばかりにミンティアに向かって胸を叩いた。



「ふん、流石はプラスだが、敵に騎兵はいなかったのか?」



 活躍への嫉妬心なのか、僅かな苛立ちを隠そうともせず、カルシスが尋ねた。



「はい、どうも敵も大っぴらに追うのは不味いと思っているのか、伝令兵らしき数騎以外は見当たりませんでした」



「ほう、それは好都合だな。

 お嬢、プラスの隊は精鋭、我らの騎馬で攪乱すれば倍程度の歩兵を蹂躙するのは容易かと」



 カルシスは腰の剣を抜き、刃を日に当ててその鋭さを確認してから満足気に鞘に戻した。



 キャスは顎を擦りながら少し考えてカルシスを見た。



「カルシス、今後の指揮はあなたに任せます。

 友軍を救うべく、存分に振るいなさい!」



「は、謹んでお受け致します」



 カルシスはそう言って直ぐ様跪き、キャスの命令を騎士の礼をもって受けた。



「ルーク、フネンに予備の馬を!

 ミンティアはキャスリン様の護衛を!

 フネンの誘導でプラスとの合流を目指しつつ、状況によっては一当てするぞ!」



 カルシスは立ち上がると、各員にテキパキと指示を出した。


 程なく準備は整い、騎馬が走り出した。



「お嬢の位置はルークに捕捉させながら行きますが、あまり戦場に近づかないでください。

 では!」



 カルシスはそう言って馬の腹を蹴り、最後尾を追って行った。


 戦闘に参加するつもりだったキャスは、出鼻を挫かれた思いでミンティアをみたが、ミンティアはいけませんとばかりに首を横に振るだけだった。







「フフッ、プラスの奴、ピンチじゃねーか!」



 カルシス達が陣取るなだらかな丘からは、友軍を包囲せんと部隊を動かす敵兵が見えた。



「あれは王都軍ではなく、宰相のトマル侯爵の軍ですね」



「ほう、詳しいなルーク、だが本当か?」



「はい、エスト領では紋章官の下にいましたから…」



「なんだ、文官だったのか?」



「えぇ、まぁ… ですからキャスリン様の同行に志願したのです」



「なるほどな、まぁいい機会だ!

 本物の騎士の戦いを見せてやるぞ!

 このまま突撃、敵陣を割ってプラスと合流するぞ!」



 ルークは、颯爽と走り出したカルシスを追いながら、本物の騎士の戦いといっても騎士は僅か二名、見習い一人、後は傭兵じゃないかと思ったが、カルシスを追うのに精一杯であくまで心の中で思うに止めた。




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