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(こ、恐い…)



 圧倒的な質量とは、ただそこに存在するだけで暴力なのだと突きつけられた。


 シオンは先程から脚に力を込めて震えを止めようとしていたのだが、力を込めれば込めるほど脚は云うことを聞かず却って震えは増すばかりだった。


 シオンとて、ここに来るまでに巻き起こった轟音や咆哮から何らかの生物と遭遇することは見当がついていた。


 がしかし、まさかそれが三メートルを超える魔獣だったとは予想外であったのだ。


 しかも、目の前の魔獣は知性があるのか、いきなり飛び掛かる様なまねはせず、じっくりとシオンを観察しているようであった。


 シオンも相手の攻撃の起こりを捉えるべく目を凝らしているのだが、魔獣特有の全てが紅く染まった瞳からは何も読み取ることはできなかった。


 それは偶然だった。脚の震えがピークを迎え、思わず膝が崩れたシオンだったが、その為に下がった頭の上を魔獣の爪が横薙いでいったのだ。


 直ぐに後ろに転がって距離を取ったシオンだったが、風圧を受けた上半身が脚とも違う痺れに捕らわれ次の動きが遅れた。


 またしても偶然だった。魔獣の爪がシオンの横数センチに振り下ろされた。


 その場所こそ、シオンが今まさに移動しようとしていた先であり、痺れのない普段のシオンであったのならば直撃を受け、身体を切り裂かれていただろう。


 シオンは気付いてしまった。


 知性を感じていたはずなのに、ただ繰り返される咆哮と力任せの攻撃により魔獣を侮り始めたシオンだったが、今の攻撃はまさしくシオンの行動を先読みした攻撃であったことに気付いたのだ。


 が、その事が却ってシオンの心を落ち着かせた。


 野生のまま、本能のままに暴れられるより、知性をもとに動く魔獣の方が、付け入る隙を見つけられるのではと思ったのだ。


 シオンのその考えは概ね合っていた。


 魔獣の攻撃は、どこか理に適った動きであり、さらには魔獣の武器は爪や牙だけであり、攻撃が直線的で変化技が入ることも無かったので、上手い具合に捌け始められたのだった。


 ゆとりがシオンの呼吸を本来の状態に取り戻させ、呼吸の安定が回路循環法を加速させ、その力が剣の動きをまるで舞うかの如く振るわせた。


 シオンは「書」の剣を意識しながら存分に剣を舞わせた。


 魔獣の斬撃を剣で反らし、崩れた姿勢の裏を取って斬りつける。


 元々、手負いであったとはいえ、シオンの剣が次々と魔獣に傷をつけ、その度に辺りに血が飛び散った。


 剣と爪の攻防は、いつ終わるやも知れなかったが、確実に剣が終わりへと導いていくようであった。


 線香が燃え尽きるほどの時間を経て、大量の出血の為か、膝をついたのは魔獣が先であった。


 シオンは此処ぞとばかりに一番力を込められる上段からの振り下ろしを狙い、振りかぶった。


 だが、シオンは失念していた。


 なまじ長い時間、二足歩行による前足の爪での攻撃を魔獣が繰り返していたので、膝をついた姿に勝機を見てしまったのだ。


 しかし、魔獣はやはり魔獣であり、膝を付く、即ち四つん這いこそが通常の姿だったのだ。


 振りかぶったシオンを襲う、突然の頭突きのような体当たりに、シオンの身体は吹き飛ばされて巨木を激しく揺らすこととなった。


 余りの衝撃に視点も合わずに蹲ったシオンであったが、魔獣の方も力なく激しい呼吸を繰り返し、蹲っていた。


 幸いにも魔獣との距離の近さと、自ら飛ぶことで衝撃の緩和を狙ったシオンの目論見により、なんとか最悪の事態だけは避けることができたのだが、胸は苦しく呼吸は整わず、今にも発作を起こす寸前であった。


 そんなシオンを憎らしくも魔獣はじっくりと観察しているようであった。


 その実、魔獣の方も体力の限界が近かったのだが、その深紅の目は何も語らなかった。



(い、息を…整えなくちゃ…)



 息を整えようとするたびに胸に痺れを伴う痛みが走ったが、この場で欠乏症の発作が起きれば終わりだとシオンは耐えた。



(立ち上がるんだ!)



 シオンは、ともすれば崩れそうになる身体に気合いを入れて魔獣を睨みつけながら立ち上がった。


 その威圧的態度が良くなかったのか、魔獣もシオンへ向き直るやいなや、大きな咆哮をあげた。



「ぐわっつ?!」



 シオンが腕を押さえながら転がった。



(な、なんだっ!)



 シオンには何が起きたのか分からなかったが、咆哮と共に何かしらの物理的な衝撃を受けた。


 熊型の魔獣に竜のようなブレス攻撃があるなど聞いたことが無かった。


 竜とて伝承にあるだけで見たことがある者など皆無である。


 とにかく魔獣に離れた距離を攻撃する手段があることは新たな脅威だった。


 シオンは痛む腕をどうにかしたかったが、魔獣から目を離すわけにもいかず、剣身に身体を隠しながら動けずにいた。


 魔獣は再び咆哮をあげたが、今度の咆哮には攻撃は含まれていなかった。


 が、咆哮に身を硬くしたシオンに魔獣が飛び掛かった。


 フェイントにもなったその咆哮と体当たりによりシオンの剣は吹き飛ばされ、その身に伸し掛かられてしまった。


 辛くも、その爪や牙の攻撃は避けられたが、逃げることは叶わず、シオンの生命は風前の灯火となったのだった。





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