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 どうにも上手くいかずに、書の絵に従って剣を振るうのを止めてしまったシオンだったが、夜に部屋に戻ると無聊の慰めに書を読み返す日々を送っていた。


 とはいえ、相変わらず文は読めずに挿絵を追っているだけなのだが、やはり剣を持つ絵のところはじっくりと見るのであった。



「あれ、ロウ先生に似ているなあ…」



 実は最近、挿絵を見る度にモヤモヤしていたのだが、その原因の答えが天啓のように閃いた。



「こっちの型もだ!」



 改めて剣のページを見返すと、半分くらいの絵がロウの振るう剣の型に酷似していた。



「全部同じってわけでもないのか…」



 ベッドに寝転び、ロウの動きを意識して空手のまま剣を振る真似をしてみる。



「不思議だ…カルシスさんに教わった動きよりなんか動きやすい!

 ロウ先生には何も教わっていないのに…」



 興の乗ったシオンはベッドから降りて、絵にある足捌きも加え剣を振るが、ロウの動きを真似れば真似るほど上手く振るえている気がした。


 それでも数カ所は上手くいかずに詰まってしまうのだが何度も繰り返し、茶を飲み干すほどの時間を経て眠ることにした。






「予想通りだとすると…

 おお!やっぱりそうか!!」



 シオンは朝を迎えると、早速とばかりに剣を持ち、いつも鍛錬の場にしている開けた草原に来ていた。


 昨晩、寝転びながらと土間で剣を振った際は、ロウを意識しての型をなぞることに重きを置いていたが、今、この鍛錬場では循環法を駆使し、魔力の流れを意識して剣を振ってみていたのだ。


 剣を突く動作、切り払う動作などと循環法の流れとを上手く合わせると、自分の腕とは思えない速さ、重厚さを持って剣を振るうことができた。



「この速度、威力…

 軽くギュウチの圧縮撃を超えている、いやカルシスさん、もしかしてロウ先生より…」



 シオンの振るう「書の剣術」は、循環法と合わさった場合に莫大なパワーとスピードがもたらされていた。


 また不思議なことに、書の型通りに剣を振るっていると、どれだけの時間を費やそうとも肉体的疲労を感じることが無かったのである。


 シオンは一日中、剣を振るうことを止めなかった。


 長年、憧れていた剣術というものに初めてまともに向き合える時間だったからだ。


 縁あって、基礎は学べた。暴力の跋扈するこの世の中において、それだけでも多くの人々よりは恵まれているのだろう。


 だが少年の心は、自ら剣を振るい、悪を断つ、そんな存在に憧れるものである。


 その筆頭ともいえるロウの側にあって、ただ見ているしかなかっただけの自分が、その事とてどれだけ恵まれていようと虚しかったのである。


 書は書であり、師とはなり得ない。書がシオンの間違いを指摘することは無い。シオンもそれを肝に銘じて、書を何度も見返し、何度も繰り返し剣を振るうのだった。







(でも、何故この技たちはこれほどロウ先生の技に似ているのだろう…)



 シオンは夜、ベッドの上でそんな事を考えていた。



(ロウ先生の白掌山派は、「三雌雄」の一人、キッド卿が開祖だよな…

 それに対してこの書は、「四雌雄の書」とある…

 もしかして「三雌雄」に対抗して「四大悪辣」のような悪い奴らが書いたのか?…)



 百年以上前の出来事など知る由もないシオンは、つたにもならない考えを繰り返していた。



(あの骨の人もやはり悪人なのだろうか…

 日記にはたしかに不穏なことも書いてあったが…)



 書にある技の中には、書にある技を破る技さえも描かれていた。


 それはすなわち、ロウをも倒せる技ということであり、その為にシオンの心にこのまま書の剣術を会得しても良いのか、との葛藤が生まれたのだった。





 シオンの姿は、以前の拠点近くの池にあった。


 数日前には「書の剣」に対する葛藤に随分と悩まされたものだったが、結局は自分がその剣をどう振るうかに掛かっていると割り切ったのだった。


 一旦、割り切ってしまえば、焦がれていた剣術の事、シオンは完璧を期するために、書の絵と池に写る自分の姿を比べるために野営をしてまで何度も型を繰り返すのだった。






 シオンが野営を始めてから早一月ほど経った。


 途中、食料の調達やら何やら何度かは拠点に戻ることもあったが、その多くの時間は剣をひたすらに振ることに費やした。


 ただでさえ思っていた以上のパワーとスピードで剣を振れていると思っていたシオンだったが、書の絵の通りに上手くなぞれたときは、更に凄まじいほどの威力を感じられた。


 ただ、その域に達することができるのは、未だに五回に一回程度の割合だった。


 以前、カルシスに基礎を教わった時も、ひたすらの反復練習の末に剣理に至ったと認められた事を思い出し、頂きを目指し練習を重ねるのだった。





 夜、シオンは焚き火を明かりに書を読み返していた。


 野宿は地下室に比べると、眠りやすい環境とは言えなかったが、焚き火などを潤沢に焚くことで、こうやって遅くまで色々な時間を過ごせることはメリットとも言えた。


 この日は珍しく、剣の絵をなぞるのでは無く、他の絵を追いかけて見ていた。


 多分、絵は呼吸法やら循環法の様な魔力の動かし方を描いたものだと思うのだが、いかんせん絵に動きがなく、ほぼ全ての絵が結跏趺坐のポーズをしているだけなので、文の読めないシオンには面白いものではなかったので今まで避けていたのだ。


 それでもページを捲り、まもなく最後のページになる頃、一枚の不思議な絵を見つけた。


 その絵は、同じように結跏趺坐をしているのだが、身体の周りをオーラの様なものが包み、そのオーラは胸の前で合わせた手の中に握られた剣をも包み込んでいたのだった。




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