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 ホコリを吸わないように瓦礫を掻き分けていたシオンは、なぜか屋根材であったであろう藁が固まっている場所をみつけた。


 敷地内には同じような藁や端材が至る所に散在していたが、その藁の固まりだけが不自然にそこに集まっていた。


 少しだけ服の汚れを気にしながら藁の固まりを抱えて退けるとその理由が分かった。


 藁の固まりの下には、地下室らしき入り口があったのだった。


 藁は、風か何かの影響で、その窪みに溜まっていたようであった。


 シオンは奥の見えない、その穴の入り口を調査した。


 どうもこの穴自体は自然窟のようであり、この小屋はこの穴ありきで建てられたもののようであった。


 穴の壁は、シオンが暫く彷徨っていた洞窟と同じ材質の岩肌であり、今、突然崩れるということはなさそうであった。


 下に降りる足元だけは、階段状に作られた形跡があり、小屋の住人が長く住んでいたであろうことが察せられた。


 シオンは手慣れた手付きで灯りを作ると、足を滑らさないようにだけ気をつけながら穴の中に降りていった。


 降りてみると天井は手を伸ばせば届くほどの高さしかなかったが、窟内は外以上に暖かく、適度な湿気もあり快適であった。


 ゆっくり進んでみると、湿度の原因が分かった。


 壁に迫り出した岩の突起の部分にコンコンと水が湧いていた。


 よく見れば、湧き水の周りの岩肌を削った跡があり、洗面台のように作ったのが見受けられた。


 溢れた水が流れ落ちる溝も掘られており、時間をかけて作られた力作だとシオンは感じた。


 更に進むと、いくつかの小部屋の様になっている場所に出た。


 一つ一つ中を覗き込むが、最奥の小部屋に灯りを向けてシオンは息を飲み込んだ。


 ベッドとしていたのだろうか、台の上に屋根材と同じ藁が敷き詰められていた。


 が、台の脚が折れており、その傾きの為、藁は片側に積み上がっていた。


 そして積み上がった藁の中からは白骨が見えていたのだった。


 シオンは答えを知ってしまった。


 この小屋の主、果樹を整えた人物は、この楽園から出ることは叶わず、今、シオンの目の前で永遠の眠りについているのだった。


 シオンは天を仰ぎ、泣いた。


 それからどうしたのか覚えていなかったが、気が付いたら満点の星空のもと、草原に寝転んでいた。


 寝転ぶ背中にさえ、地熱にほんのりと温められることに少し嫌気を感じながらも、そのまま眠りについた。





 翌朝、少し冷静さを取り戻したシオンは、家主を埋葬することにした。


 もし、この先人がこの谷に存在していなければ、洞窟を出て谷に入っても自分は食料も得られず、遅かれ早かれ、死んでいただろう。


 かの御仁が、果樹を手入れして育ててくれていたからこそ、曲がりなりにも今も自分は生きていられると思い直したのだった。


 慎重に藁を退けていけば、いくつもの遺骨を見つけることができた。


 どれだけの年数をこの遺骨は過ごしたのか、腐敗臭などは一切せず、日頃人骨などみない暮らしであったシオンには実際本当の人骨なのかさえ分からないほどであった。


 藁を袋状に編んで、一つ一つ丁寧に遺骨を包んだ。


 シオンの中では、あの高台に葬るのが良いだろうと思い、落とさないように慎重に運んだ。


 一際大きな木の根本に遺骨を埋めてから墓石代わりに小屋にあった重石を置いた。


 何の為に作ったかは分からなかったが、碌な道具の無かったであろう家主の努力の跡が見えるこの重石が、なんとなく適していると思ったのだった。


 埋葬を終えたシオンは、小屋に戻った。


 シオンは藁を束ねて適当な廃材に巻きつけて箒を作った。件の地下室を掃除しようと思ったのだ。


 地下の小部屋は、三部屋あった。


 とはいえ、遺骨のあった部屋以外は使った形跡はなく、ただの洞窟だと言われれば、そうとしか見えない空間だった。


 突如、けたたましい音が地下室の外から響いてきた。


 慌てて外に出ると、音は大きな雨粒が、廃材の木材を叩く音だった。


 谷で遭遇する大雨にシオンは恐れをなしていた。


 どこかに避難することを考えて、ふと気付いた。


 過去に何度も雨など降っているはずなのに地下室が水浸しになった形跡が無かったのだ。


 それは崩れた屋根とは関係ないようで、排水準備が行き届いていると思われた。


 という訳でシオンは、避難先を地下室へと決めて静かに戻った。


 何も無いよりはと、入り口の前に板を立てかけた。


 雨音は思ったよりも長い時間続いた。


 手持ち無沙汰に掃除を始めると、壊れたベッドの下に鉄製の箱が置いてあった。


 箱の蓋を開けると、中には本が三冊入っていた。


 ペラペラとめくって、シオンは不思議なことに気付いた。


 最初に取った本は、何人かの書き手がいたのか、一冊の中で四度、筆跡が変わった。


 どちらにせよ字を読むのが得意ではないシオンは、興味を失いかけていた。


 もう一冊もペラペラとめくった後、直ぐに手放し、最後の一冊を開いた。


 最後の一冊は、前の二冊と明らかに違った。


 筆跡は一人のものと見受けられたが、書いていた道具が悪かったのか、文字は細かったり太かったりと読みづらかった。


 暫くその三冊を読み進めたシオンは、この本が何なのか分かった。


 その本は、家主の日記のようであった。



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