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 丘陵地を越えて更に進むこと、それまでの歩みと同じ時間ほどで岩壁についた。


 壁に背をやり、辺りを見渡せば、壁伝いの探索時に一度通っているはずのせいか、なんとなく見覚えがある気がした。


 が、同じ様な風景が続いていることもあり、シオンはその確信を持てなかった。


 この横断の途中、坂を登り、休憩を挟み、またそれなりに観察しながらの移動だったが、掛かった時間はお茶を沸かして飲み干す程の時間だと思われた。


 シオンは前回の壁沿いの移動での時間と比べることで、この谷底の形が分かるかも知れないと考えたが、直ぐに止めた。


 分かったところでどうにもならないという考えが打ち消したのだった。


 シオンにはそれよりも考えなければならないことがあった。


 それははっきりとした違和感、木々の並びの事だった。


 もう一度思い返せば、等間隔できちんと揃って生えているのは果樹だけなのである。


 この谷底には果樹以外の木も、もちろんはえているのだが、それらの木は特に並んでいるという印象は無く、果樹のみが正に並んで生えているのである。


 人の手を介さずにそんなことがありえるのだろうか?


 シオンはこの問題の裏に誰かの思惑を感じずにはいられなかった。


 シオンが洞窟からこの地に足を踏み入れた時、既にこの地に人が存在している形跡は見つからなかった。


 たわわな実がついた果樹を収穫にくる様子も伺えず、数々の落ちて腐ったであろう後も見受けられた。


 なのに果樹には明らかに過去、手入れがされていた気配がある。


 では、その人はどこから来てどこに消えたのだろう?


 それを解くことが、この谷底からの脱出につながると思うと仇や疎かにはできないとシオンは考えていたのだった。


 この探索に野営の準備などしていなかったシオンだったが、もう少しこの辺りの調査に力を入れようと思い、拠点へ帰るのを止めた。


 まずはできるだけ高台から見渡す方がいいだろうと、横断時に通った高台まで戻ったが、やや日が暮れ始めたので、この日の調査はそれまでとして寝床の準備を始めた。



「朝、陽が昇ったらまずは周囲の観察だな… どのくらい見通せるかな…

 そうだ! 木に登るのがいいかも知れない! 循環法で魔力を眼に回せば遠くまで見渡せるかも!」



 焚き火を弄りながら、独り言の止まらないシオンであったが、それが寂しさからだという自覚はなく、そのまま暫くして眠りについた。





 炭化した薪の燻りにより一条だけ煙が立ち上る頃、シオンは目覚めた。


 相変わらずか、地熱の影響で寒さを感じずに眠ることはできたが、拠点よりは高台の為か、時折頬を撫でる風には冷たさがあった。


 街育ちのシオンは木登りの経験など皆無だったが、循環法のおかげか難なくスルスルと登ることができた。


 そこそこ高さのある木を選んで登ったせいか、木の上の方の枝が風に煽られて揺れていた。


 もちろんシオンは、その枝先まで行くことは考えてなかったが、シオンの登った高さでも十分に辺りを見渡せた。


 木の上から見る全景により、この谷は涙の様な形であることがわかった。


 その先端部には拠点の先の池があり、今、自分のいる丘は涙の肩口、左右に広がり始めた中心のような所であった。


 そしてこう上から見ると、やはり果樹の並びが均等であり自然発生ではないことが確信できた。


 視力をあげて遠くまで見渡していると、おかしな場所を発見した。


 涙の形の袋状の中心地に、そこだけ円形に木のない場所が見えたのだ。


 その円形も遠目には真円に見え、とても自然のものとは思えなかった。


 シオンは何かがあるはずと、木を降りるとその場所に向かった。





 手入れの入っていない林の中は、下草などが伸び放題で歩きにくさはあるのだが、外界と隔絶された土地の限界か、木々の密集度はそこまでではない。


 そんな林の木々を抜けて、件の場所に着いたシオンが見たものは、一軒の小屋だった。


 いや、小屋だった… 小屋だと思われる、朽ちてから相当の年月が経った建築物だった。


 かろうじて残っている数本の柱と壁に燃えたような跡がないことから純粋に年月により朽ちたものだろうと思われたが、それが幾年月をかけたかなどはシオンが知る由もなかった。



「すみません、どなたかいますか?」



 当の昔に主人を失ってあるであろう事は承知で、儀礼的に声をかけてシオンは小屋の敷地に入った。


 想像以上というか、想像通りというか、敷地の中には何も無かった。


 残った柱にもたれ掛かるように梁だったものが落ちた跡と屋根だったと思われる藁のような草、同じ様な草と土を混ぜて作ったのであろう壁の残骸、それらは人の香りを求めていたシオンの期待を壊すだけの建造物だった。


 シオンの期待をどん底に落とすものはまだあった。


 土間に散らばる藁などを端に寄せ、残留物を探していて食器らしき物を見つけたのだ。


 だがその食器らは、全て手作りと思われる木製のものであり、敷地内をどれだけ探しても陶器の物も鉄器の物も出てこなかったのだ。


 そのことから察するに、この小屋の主はシオンと同じく、何らかの為に予期せずこの谷に迷い込んだ人物である可能性が高いと思われたのだった。


 それでも本当の絶望はまだだとシオンは自分を奮い立たせた。


 なぜなら、この敷地内に一つとして遺骨や繊維の切れ端などが見当たらなかったからだ。


 この小屋の主がこの場所で亡くなったのでないならば、それは脱出方法があるということに相違ないからだ。


 この時のシオンは、単に未探検地域で死んだことなど、一切想定せずにそう考えることにしていた。


 それよりもシオンは次の疑問を考えていた。


 その疑問は、この主はなぜこの場所に小屋を建てたかという事だった。


 なぜなら食料調達や水利の面で、シオンが拠点にしている辺りの方が、はるかに便利なのである。


 果樹はこの辺りにも多く見られるが、仮に当時、池に魚がいなかったとしても水場の近くの方が、圧倒的に利便性が高いであろう。


 シオンはその疑問の答えを探したくなり、この廃屋を更に探索してみた。


 そして土間に乱雑する小屋だった物の名残を片付けていて発見した。


 そう、地下室らしき入り口を。





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