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「おい、お前ら!」



 ロウとスゥは、松明を掲げた男たちに行く手を阻まれていた。



「とにかく一度、草庵に戻るべきだろうな…」



「そうですね…」



 阻まれたとて気にもせず、歩みを続ける二人に、返って男たちがたじろいた。



「て、テメら! わかってんだぞ、奴らと何か話をしてやがってただろう、

 グワッ、い、痛てぇ!!」



 男の一人が、横を抜けようとするスゥの肩を掴もうとしたが、目にも止まらぬ早さで動いたロウの手に絡め取られた。



「貴様、何をする! 離しやがれ!!」



 二人を囲んでいた男たちが一斉に剣を抜くと同時にがなり声をあげた。



「テメぇら、奴らの仲間だな…

 素直に何を話していたか吐かねぇとブッ殺すぞ!」



 男の台詞に、ロウは冷笑を浮かべ、掴んでいた男を突き放すと一つ溜め息を吐いた。



「我らは江湖を流れる鏡草、道を開けてもらえんかな?」



 ロウの口上は、武門、宗門、侠客や丐幇などの渡世の者なら通じる符丁であったが、この男たちには通用しないようで、却って男たちはいきり立った。



「何を分けのわからんことをグダグダと…」



「おう、どうしたどうした!」



 更に同じ様な(なり)の男たちが現れ、二人の師弟(ロウとスゥ)を取り囲む男たちは二十を超える数となっていた。


 新たに集まった男どもを見て、ロウは眉を顰めた。


 新たに集まった男たちは、衣服のはだけた女、暴力による怪我をおった農夫、首に縄を掛けられた子供などを引き連れていたのだ。



「なんだソイツらは? また俺たちの獲物か?」



「隊… 頭! コイツらはシュガの奴らの元を訪ねていたみたいで!」



「ほう? なら連れていって吐かせるか…

 まぁ、違がけりゃちがったで売っ払えばいいだろう!」



 頭と呼ばれた男は、そう言って下卑た笑い声をあげた。



「一つ聞くが、お前たちが連れているのは何処の者達だ?」



 大勢の荒くれ者に囲まれながら顔色一つ変えないロウの質問を不気味に感じながらも、囲んでいた男の一人が近くの女の髪を掴み、ロウに見せつけるようにして言った。



「あぁ? コイツらは近くの村で手に入れた臨時収入ってやつだよ!

 テメェらみてーな、ジジィとガキじゃ大した額にもならねーだろうが、コイツらとまとめて奴隷商にでも売ってやんよ!」



「なるほど、貴様らは盗賊の類ということだな…」



 そうロウが言ったと思いきや、女の髪を掴んでいた男の手が宙高くに舞った。


 男は、宙高く舞う手首(それ)を目で追い、一拍おいて自身の手と気付くや叫び声をあげた。



「グワッァァァー!」



「「「て、テメェ!!」」」



 それを成したのがロウと気付くや、男たちは一斉に武器をとってロウに襲いかかった。


 男たちの剣が、槍が、刀が、斧が、次々とロウに迫ったが、その全てがロウに掠ることもなく空を切った。


 ロウは殺到する男たちを掻い潜り、頭と呼ばれた男のもとに向かって突き進んだ。


 ロウの通った後には、血飛沫と武器を握った手が幾つも地に転がっていった。


 頭と呼ばれた男も、流石にその異常な光景に恐れをなしていたが、まだ残る十数人の部下を叱咤してロウに当てようとしていた。



「ジジィ、これを見ろ!」



 ロウが声の方を向くと、男たちの中の一人がスゥに向かって剣を振り上げているところであった。



「はぁ〜」



 スゥとてされるがままでいるわけもなく、溜め息を一つ吐くと、手にした杖で男の鳩尾を打ち、手首を極めて男を投げ打った。


 ロウは転がされた男を見てニヤリとすると、頭の男に向き直った。



「き、貴様ら、我ら国軍に逆らうとは、叛逆者だな!」



 頭の男は突如、国軍を名乗るや喚き散らした。



「国軍? 旗幟も示さず夜半に襲いかかる者共が国軍であるものか!

 大方、国賊のたぐいであろう…

 無辜の民を泣かすような者共を見逃しては白掌山派の名折れ…

 潔く、首を差し出せ!」



「白掌山派!貴様、「万里閃光」の…」



 頭の男の首は、言葉を最後まで発することなく、宙を舞って転がった。



「フン!」



 ロウが剣を鞘に戻して辺りを見渡すと、中々に壮絶な状況となっていた。


 賊共に捕らえられていた、力なき者達が賊達と乱闘を拡げていたのだった。


 胸のはだけた女も、額に血の跡の残る男も、痩せこけた老人も、あまつさえスゥの半分ほどの背の子供も、ロウが落とさせた賊共の武器を手に手に賊に襲いかかっていたのである。


 ロウから距離を取り、無傷であった賊たちも、反抗を始めた村人達に、槍で突かれ、剣、斧で殴られて、蹲り動かなくなる者も多数であった。


 村人達の眼差しには憎悪の炎が見て取れて、兵士()らの此度の暴挙のほかにも日頃の圧政が元にあると感じられるものであった。



「道士様、お助けくださりありがとう御座いました」



 年若の女に支えられた、長老と思わしき老人がロウのもとにやって来た。



「ご老人、此度は災難であったな…

 こ奴らは国軍とか言ってたが、そうなのか?」



「いえ、どうかは知りませんが、儂らにとっては、いきなり村を襲ってきた賊でございますから…」



「そうか、困ったことになるようならば避難先を考えるが…」



「いえいえ、そこまでには及びません。

 朝までには全てを埋めて、村に帰るだけですから…」



「うむ、分かった。

 では、我らも急ぎの用がある故、後はお任せする。

 スゥ、行くぞ!」



 顔面を蒼白にして事の成り行きを見ていたスゥであったが、ロウの呼びかけに我を取り戻すと、慌ててロウに駆け寄ってきた。


 ロウも村人の強かさを改めて感じ、僅かに震えるスゥの肩に優しく手を置いた。



(国軍と民がこれでは、この国は長くは持たないのかもしれないな…)



「さぁスゥよ、シオンを探しに行こうではないか…」



 スゥは、ロウの言葉に小さく頷くと、ロウに付いてこの血塗られた地を後にした。





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