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「隊長、出発の準備が整いました!」



 エストの街で子爵に紹介して頂き、新兵として加わった青年が呼びに来た。


 子爵配下の騎士爵の甥だとかで、騎士の真似事は一応全て叩き込んであると聞いていたが、確かに道中、問題なく勤めてくれていて助かっていた。



(そんな近くまで馬から降りなかったら埃が立つだろう…)



 先頃失った、剣術好きの少年の代わりを得たようでカルシスも目をかけていたが、如何せん騎士への本採用にはまだ時間が掛かりそうであった。



「キャスリン様の用意もできたのか?」



「はい、隊長を呼びにいけと…」



「わかった、すぐに追うから、お前は先に持ち場に戻れ!」



「はっ!」



 青年は馬を走らせてから器用に飛び乗ると馬車の護衛に向かった。



「馬術はまずまずなんだが、言葉や振る舞いがな…

 まぁ、隊でも間違いではないか…」



 独り、高台から街道を見張りつつ、馬車が出るのを眺めていたカルシスだったが、馬車が無事に走り出すのと、遠目にも追手の姿が無いのを確認して自分も騎乗した。


 ルークという名の青年に、シオンの面影をふいに思い出したカルシスは、昨日、滞在した町で受け取ったエストからの情報について沈思していた。


 子爵が自ら書いたであろう手紙によると、先頃まで同僚として剣を並べていたギュウチに裏の顔があったという事だった。


 確かに我々騎士とは違う雰囲気の男であったが、同行していた半年以上の期間、キャスリン様の護衛としては申し分ない働きをしていた。


 その全てが擬態であり、なんとその正体は彼の悪名高き「四大悪辣」の一人、「花散らし」の渡牛だというではないか!


 公爵付きの騎士であるカルシス達にとって、市井の一犯罪者の取り締まりは、管轄的には仕事では無いのだが、「花散らし」や「家庭不和」については下級貴族にも被害が及ぶこともあり、危険人物としての情報は持ち合わせていた。


 が、まさかその様な輩が、キャスリンお嬢様の護衛に紛れ込んでいたなど、情報元が情報元でなければ一笑に付し、取り合わないところであった。


 が、子爵を通して伝えてきた相手は、公爵家でも無視することはできない相手であった。


 王国民にとって、いや、この大陸に住む全ての人にとって、白掌山派の開祖、キット卿は伝説の人物であり、その弟子達も数々の物語に出てくる、おとぎ話の主人公達なのである。


 王政の外にある、ある種の権威の象徴が、その情報の出処だというのだ。


 子爵の人柄を知らなければ、公爵家に対して罪人を嗾ける罠か?と疑うところであるが、子爵からの機密処理された封筒が全てが事実であることを告げているのであった。



「お嬢様には言えないな…」



 手紙には一言二言、シオンという少年の名が出てきていた。


 が、文章からは無事であるのか、残念ながら…なのかを読み取ることはできなかった。


 それが、お嬢様に報告を…と思うカルシスを躊躇させていた。


 シオンの中途半端な情報が、キャスリンに及ぼす影響を、子供の頃からキャスリンを知るカルシスにも計りし得なかったのだった。



(シオン、無事なら嬉しいが…)









「カルシス、何か心配事? それとも隠し事?」



 馬車に追いつき、馬を寄せたカルシスに早速のように馬車の中から声が掛けられた。



「いえ、雨の心配をしていただけですお嬢様…」



「そう、ならいいのだけれど…

 そうそう、それはいいとして「お嬢様」は止めて」



「はっ、そうでしたキャスリン様!」



「……貴方にそう畏まれても…

 まぁいいわ、とにかく何かあるなら隠さないで頂戴ね、私をそれこそ何も知らない「お嬢様」のままにしないでね…」



 そう言ってキャスリンは会話を終わらせた。



「はい分かっております…」



 カルシスは小声でつぶやくと、並走を解いてキャスリンの乗る馬車から馬を離した。



(シオンの件もあるが、ギュウチの件も言えない… どうすればいいんだ…)



 カルシスは、馬の走るままに任せて、またしても思案に暮れるのであった。






「隊長…」



 さりげなく馬を寄せてきたルークに小声で呼びかけられた。



「分かっている…」



 一人考え事をしている様子に気付いていないと思われたのか、注意を促された事に生意気なと、思うと同時に護衛としての力量を見直さなければ…とカルシスはルークの評価を上げた。



「だいぶいるな… 町までは距離もある…

 こちらに有利な場所で夜営の準備をして叩くか…」



「そうですね…

 でも閉門に間に合わなくても門の前で夜営という手もありますが…」



 街の防衛をしたことがあろうルークが、そう提案してきたが、カルシスは少し考えてから却下した。



「奴らがただの賊ならば、門からの援護も期待できるが、どこかの軍だとすると挟撃される可能性もあるからな…

 町に入れないなら近づきすぎるのも危険があるな…」



「分かりました、では俺が先行しますね」



「あぁ、頼んだ」



 そう言って馬の速度あげたルークの評価をカルシスは心の中でまた上げたのだった。







「隊長、後ろから二人来ます!」



 すっかり日が落ち、辺りが暗くなった頃、辺りの偵察をしていたルークが報告に現れた。


 一行は、町を遠目に確認できる丘の上で、立木と馬車を利用して簡易的な陣を構えていた。


 敵の想定数は二十名前後、三十はいないようだが、こちら側のキャスリンを含めた九名からすれば簡単にあしらえる相手でもなかった。


 それでも夜の間、町からの介入がなければ耐えられる人数差だと思っていた。


 どちらの勢力に組する町なのかは判らないが、白昼堂々と旅人の体をとるカルシス達を襲うことはないので朝まで耐えれば、一旦は勝ち同然なのであった。



「分かった、俺が言ってくる。

 お前はキャスリン様に報告と、迎撃の準備をしておいてくれ」



 二名ならば使者か暗殺者であろうが、カルシスは後者を警戒して、陣の近くではマズいなと、剣を携えて街道に戻り、自らも二人に向かって歩き始めた。





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