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 シオンは、気味の悪さを我慢して、もう一度死体(それ)を検めた。



(コイツ、ギュウチの…)



 予想はしていたが、死体(それ)は先日、執拗に追い回されて殺されかけた、ギュウチの兄貴分の間王とやらのものだった。


 吐き気を抑えながら身体死体(それ)をまさぐると、頭には陥没があり、出血の後や手足の数か所の骨折の様子から、激流に流されての結果のようであった。


 汚れてしまった手をどうにかしたいと、水場に戻ろうとして、シオンは何かを蹴った。


 その感触から石や岩の類ではないと思い、恐る恐るながらも蹴ったものを探した。


 割とすぐに見つかったそれは、間王のものと思われる道具入れであった。


 その中身を確認したシオンは、喜色を浮かべた。


 今、一番手に入れたかったもの、一対の着火道具があったのだ。


 早速、擦り合わせると、確かに火花が飛び、一瞬だけ辺りを照らして、シオンを喜ばせた。


 が、洞窟の中は湿度が高く、これまで触れてきた感触も岩や石ばかりで、肝心の薪になるものが無かった。


 それでも、火が、灯りが、欲しかったシオンは、本当は触りたくも無かったが、間王の亡骸に目を付けた。


 シオンより、数日前からここにある死体(それ)の纏う服はすでに乾いていたので、繊維をほどけば着火もしやすいのでは?と思ったのだ。


 シオンは早速、間王の服を剥いだ。


 この時だけは、ここが暗闇であることに感謝した。


 手早くとはいかなかったが、剥いだ衣服の中で触った感じが一番乾燥していそうな生地を裂いて、火花を散らしてみた。


 これで火が付くと思ったシオンであったが、そう簡単ではなかった。


 火花は飛んでも火が付くことが無かったのだ。


 それでも諦められないシオンは、布を揉んだり、裂け目を細かくしたり、色々と工夫を重ねた。



「や、やった!」



 何度目の挑戦だっただろうか?細かく解し、糸の塊と化したそれに、飛んだ火花が燃え移ったのだ。


 シオンは思わず叫んだが、喜びを共有してくれる者はおらず、ただシオンの声が洞窟に木霊するだけだった。





 松明を作り終えたシオンは、目に回していた循環魔力を止めて松明に火を着けたが、思わず目を背けた。


 炎が照らした間王の亡骸は、裸であることもあり、想像よりも凄惨な状態であったのだ。


 まかり間違えれば、自分の姿だったと思うと、陰鬱な気分になったが、それでも気を奮い立たせ、剥いだ服や道具入れを持ち、まずは身を綺麗にと、水場に戻ることにした。


 道中、松明のおかげもあり、すぐに川の音が聞こえてきた。


 暗闇を手探りで進んできたので、だいぶ距離を移動したつもりのシオンだったが、何のことはなく、湯が沸く間もないほどの距離で川に戻っていた。


 そんな事で気落ちもしていられないと、手などを洗いながら辺りを見回したが、洞窟を流れるこの川は、今シオンの居るこの空間の天井だけが高いのであり、上流も下流も岩の中から出て消えていた。


 対岸も岩肌しかなく、ここが実に行き止まりであることが解っただけであった。


 シオンは通りたくなかったが、仕方なく来た道を戻り、間王の亡骸を跨いで、道を進んだ。


 歩き始めるとすぐにシオンはこの洞窟が自然窟であると気を引き締めた。


 川から死体(あれ)までが、曲がりはあっても一本道だったので、何かのための坑道の可能性を思っていたのだが、それ以降は、至る所に鍾乳石が垂れ下がり、迫り上がり、作られた道というものが、存在しなかったのだ。


 それでも何本か、大きめの境を選んで進んでみたが、幾度試してもハズレを引いて行き止まった。


 この行動により空腹を感じ始めたシオンは、自分の恐ろしい感情に戦慄した。


 開始場所に戻る度に、あれほど嫌悪を感じていた間王の亡骸に、違う感情が出始めたのだ。


 それから数度を経て、このままでは不味いと、シオンは間王の亡骸を川に流すことにした。


 せめてもと、遺髪束ねて袋にしまい、川まで引きずり入れると、やはり水に勢いがあるのか、一瞬、天井に引っ掛かりながらも流され消えていった。


 シオンが担いだ時、すでに死体(それ)は匂いを発していたが、その事を気にする以上に持ち上げた腕の感触などから違うことを想像した自分が怖かった。


 どうにか尊厳を守ったシオンは、不退転の決意で前に進むことにした。


 空腹もそうだが、新たな燃やす材料が無い以上、移動は必須だったのだ。


 目の前の川を見れば、このまま流されていけば道が見えるのでは?との誘惑に駆られたが、キャスやスゥ、新たに村の人を思い、命を賭ける場所ではないと踏み止まり、水を鱈腹飲んでから立ち上がった。









 あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか、何度も行っては引き返しを重ね、ようやっと絞れた道なき道をシオンは進んでいた。


 道中、蝙蝠や蛇はおろか、虫さえ見かけなかったシオンの心は折れてしまう寸前であった。


 すでに間王から剥いだ衣服は燃やし尽くし、自分の服も上は、村を出る時に借りた革鎧を素肌に、下もズボンの膝の辺りまでを切り取って使った。


 それでも心が保たれたのは、一つはヒカリゴケ?を幾つも見つけて光源とできたこと、もう一つは、寒さを感じ始めた事だった。


 まだ松明を持っていたシオンは、光る苔を見つけた時、食料にできるかもと採取して袋にしまった。


 それから幾分か進み、松明が消えた時、袋の口が光っていたのだ。


 もちろんそれは、強い光ではなかったが魔力循環で視力をあげれば、然程、不自由無く、洞窟を進むことができたのだ。


 そして、その松明が消えた時、もう一つ希望が生まれた。


 これまでかなりの範囲を歩いてきたシオンだったが、松明の炎が揺らぐことなど一度もなかったのだ。


 だが、松明は突如、掻き消された。


 そう、風によって。




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