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 響き渡る、男の気合いの咆哮が、谷間を覆う曇り空を避けて、木々で休んでいた辺りの鳥たちを飛び立たせた。


 と、ともに今まで以上に苛烈な一撃がシオンを襲った。


 男の体重の乗った飛び切り込みの体勢で放たれた、その一撃は正に電光のごとく速度で迫り、シオンは避けきれないと判断をして剣で逸らすべく合わせた。


 シオンの剣は、上手くその役目を全うし、男を横に逸らせたので、男の身体は勢いのまま回転してシオンに背を見せた。


 その背に反撃をとシオンが突きを繰り出すが、男もその回転をそのまま利用して山刀を横薙ぎに振るった。


 シオンの鉄剣と男の山刀は、凄まじい火花を散らして交差した。


 シオンの出した突きに対して、男の横薙ぎの一撃の勢い強く、今度はシオンの体勢が大きく崩された。


 その為、シオンは追撃を避けるべく丸まって地を転がり距離をとると、すぐに立ち上がって男に振り向き剣を構えたが、シオンの剣は予期せぬ状態となってしまった。


 剣が鍔元から折れ曲がってしまったのだ。


 対して、男の山刀は余程の頑丈な作りなのか、欠けた様子もなかった。


 男はニヤリと笑うと山刀を振り回しながらシオンへと歩み寄ってきた。


 後ろを確認するとそこは崖であり、覗けば谷底であろう流れの速い川が、シオンの逃げ場を塞いでいた。


 シオンにとっての唯一の救いは、男の手の光が失われていることだった。


 だが、男は特段気にすることなく、あと数歩の距離まで近づくと、山刀を振り被って勢いよく歩を進めた。


 シオンも男を待つことなく、手にあった鉄剣だったものを男に向かって投げつけると、男に向かって駆け出した。


 シオンは、男が投げつけられた剣を弾く動作に合わせて、その隙に脇を抜けるつもりであった。


 その試みは半分は成功し、半分は失敗に終わった。


 シオンの思った通りに、男は投げつけられた剣を山刀の一撃で迎撃した。


 そのため山刀の斬撃は回避できたが、肝心の脇を抜けたとき、その弾かれた剣が地で跳ねてシオンの足を傷付けたのだった。


 それは不運というしか表しようのない偶然であったが、どう繕うとシオンの脹脛は傷を負い、血が流れ出していた。



(しまった…)



 シオンの手には武器は無く、逃げようにも足に傷、というふうに追い込まれてしまった。



「手古摺らせやがって!」



 男はいよいよ、ニヤニヤ顔を隠すことなく、蹲るシオンに向き直って山刀を構えた。


 いつの間にか大粒の雨が降り出して辺りを濡らし、男の山刀を見上げるシオンの顔もいくつもの雨粒が叩いていた。


 雨粒は、男の額から頬をも伝い、顎へと流れていた。



「フフフフフ、やっとだな。

 俺は、義弟と違って嬲る趣味も無いから楽に送ってやるぞ!感謝しな!!」



「義弟? じゃあ、あんたが「家庭不和」なのかい?」



「はん、お前のような小僧にもその名を知られているとは俺も有名になったな!」



「あぁ知ってるさ、「万里閃光」の名を上げたって有名さ!」



「な… こ、小僧、舐めた口をききやがって!」



 男・間王は、シオンの言葉に激怒し、シオンを両断しようと山刀を高々と掲げ上げた。


 シオンは、ここにきても動ずることなく間王を見上げ、睨みつけていた。



「死ね…」



 間王の掲げた山刀が煌めき、シオンに振り下ろされようとした時、凄まじい音と共に近くの木が破裂した。


 山刀の煌めきは、落雷によるものだったのだ。



「ヌグゥァーーーッ!」



 木っ端をはらんだ衝撃が二人を襲ったが、蹲るシオンに比べ、間王のあらゆる箇所に木片が当たり、削り、刺さった。


 間王の額から流れていた粒は深紅に染まり、身体からは何やら煙が立ち、幽鬼のようだった様は、今や幽鬼そのものであった。


 シオンは、この期に立ち上がろうとしたが、電圧障害を受けたか、身体が痺れて動けなかった。



「ま、間王?!」



 間王の余りの不気味な立ち姿に、シオンは思わず声をかけたが、間王も微動だにせず、立ち尽くすばかりであった。


 そこに再び、轟音が鳴り響いた。


 が、今度の凄まじき轟音は、落雷の音とは違い、断続的ながらも木霊を交えて近づいて来ていた。


 間王を見上げる視界の奥に、黒い何ものかが波の様に迫ってきていた。




(マ、マズイ! 鉄砲水かっ!)




 二人が激闘を繰り広げていたこの地は、木々が途切れ、下草も短く、所々剥げてさえいる、山間の隙間の様な地であった。


 もし大空を舞う鳥の様に、上空からこの地をみれば、その危険に気付けたのかも知れないが、地にある二人にそれを問うのは酷な話であった。


 近づくにつれ、辺りのものを飲み込むその波は、まるで御伽話に聴く怪物の様で、流石にシオンの心も恐怖に包まれた。


 ようやっと動かせるようになった両の手で、必死に太腿を叩くが、脚の感覚は起きないままであった。


 シオンは迫りくる黒い波を見た。


 不思議なことに、シオンの目には全てがスローモーションの様に見えた。


 波が飲み込む石、木片、草、その他、どんな小さな物もはっきりと見えていた。


 更に目の前で、間王が固まったまま飲み込まれていった。


 そして最後に、泡立つ黒い波を見…




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