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「シオン、追手よ…」



 月明かりの無い闇夜の中をシオンとスゥは親峰を登っていた。


 敵と思われる男を中峰に追いやったシオン達は、草庵のある人峰からエストの街を目指すべく親峰を越えようと急いでいた。



(早すぎる!)



 スゥの言葉を疑う訳ではないが、あの男が中峰の伽藍まで行ったとしたら、この追走は早すぎると感じていた。



「このままだと回り込まれてしまうかも…」



 顔を寄せ、小声で話すスゥにシオンはドギマギしたが、普段ならばやらないようなその仕草に事の重大さを感じずにはいられなかった。



「最悪!…多分渡牛?も解放されてる」



 地面に手をついて索敵をしていたスゥが、敵が二手に分かれたことを察知したようでそう言った。



「えっ、ギュウチも…?

 じゃあ中峰から引き返し、草庵でギュウチを解放してから追ってきてるって事?」



「そうだと思うわ、どうしよう…」



 草庵では闇を利用してギュウチを倒したスゥだったが、闇夜とはいえ星などの明かりがある屋外では部屋の中ほどの優位性は無いと考えていた。



「ギュウチ一人でも敵わない可能性のほうが高いのに、あの男が追ってくるなら逃げるしかないな…

 回り込まれる前になんとかしないと…」



「多分だけど、回り込もうとしているのが渡牛だと思うわ…」



 シオンはスゥの予測をすんなりと受け入れた。


 なぜなら白掌山はスゥにとって長年暮らす場所であり、更にスゥは自分より索敵なども腕が立つこと、そして何より闇夜がスゥには不利にならない事が理由だったが、それ以上にシオンの素直な性格故でもあった。



「スゥ、挟まれる前に手を打とう」



「うん、でもどうしよう?」



 シオンに一つの考えが浮かんだ。



「スゥだけ先行して抜け出てくれないか?」



「え?! どういうこと?」



「うん、ここまで来るのにもスゥに導いてもらってきただろ?

 スゥ一人なら絶対に回り込まれる前に抜けられると思うんだ」



「でもそうしたら、シオンが挟まれてしまうじゃない!」



「そうなんだけど、見方によっては僕とスゥで挟む形にもなるんだから、牽制にはなるんじゃないかな?」



「牽制?」



「ああ。それにスゥには折をみて街の方へ退いてほしいんだ。」



「私だけ退くの? どうして?!」



「うん。理由は二つ有って、一つは朝になってしまえばスゥの優位が減ってしまうだろ?

 それと前に回ろうとしているのがギュウチなら、僕等が二手に分かれたら僕よりスゥを追う可能性が高いと思うんだ。

 だからその分、スゥが危険になるかも知れないから少しでも優位のうちに動くべきだと思う」



「確かにね…」



「それにロウ先生だって、街を拠点にしている可能性があるから先生と合流できれば…」



「ええ、判ったわ…

 シオンの言う通りだもんね、私が先行して撹乱しながら退くわ、でも絶対シオンも無理はしないでね…」



「僕は裏をかいて草庵に戻れないか、やってみるよ。とてもじゃないけど戦う自信はないし、少し動かないでいて隙を見つけるよ」



「その方が助かるチャンスがあるのね?」



「まぁ二人がスゥを追う展開もまずいから裾野の森で痕跡を着けて回って時間を稼ぐけどね」



「解った。でも本当に無理はしないでね、絶対だよ!」



「分かってるって、スゥも気をつけてね」



「うん、なるべく早く師匠を探して戻るからね!」



「ああ、頼んだ。さぁもう行って!」



 シオンはそう言って何度も振り返るスゥを見送ったが、無理をしない約束を守る気はなかった。





 シオンは森に入ると、いたるところで小枝を折ったり、背のある草を踏みつけたりした。


 シオンは後ろからせまるプレッシャーを感じていたが、予想通り、前を塞がれた雰囲気は無かった。



(スゥ、そろそろ街に向かってくれよ…)



 シオンは木々の隙間から見える星を見て時刻を割り出していた。


 街に入れず草原で朝を迎えてしまえば、スゥが逃げ切れる可能性が下がってしまうだろうから、それだけが心配であった。






 斜面から見る地平線が明るみを帯びてきた頃、シオンは、人峰に戻って来ていた。


 そこかしこに感じる強者のオーラを避けながら、慎重に慎重を重ねての移動だったので、天の日はまもなく中天に差し掛かるようだったが、草庵はもうすぐそこであった。


 恐る恐る草庵の裏の柵を越え、水車小屋に取り付くと、扉が壊されていた。


 が、小屋の中を覗くと特に荒らされた形跡や壊された物は無かった。


 それを見て、なるほど敵も慌てていたのだなと思うとともに、上手く逃げれた事を喜んだ。


 もちろんスゥの事は心配だったが、この山はスゥにとっての庭、ましてや山に騒がしさが起きなかったこともあって、上手く逃げてくれたのだろうと思っていた。


 草庵の余りの静けさにシオンもやっと気を弛めることができた。


 ただ、シオンは安らぎながらも次の行動をどうするのか決めなければならなかった。


 この草庵でロウとスゥを待つ選択は、危険なのは解っていたが、今から街を目指せば敵の尻を突いてしまう可能性もあると考えた。


 中峰の伽藍へ行くという手もあるが、草庵の様子が判らなければ、何時まで籠もる必要があるのかも分からなくなってしまう。


 シオンは迷いながら草庵の母屋の戸をくぐった。



「ハハハハッ、漸く戻ってきたか!」



 部屋のテーブルに例の男が座っていた。





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