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「シオン、本当に大丈夫なの?

 まだ出て行かなくてもいいのよ?」



「ルーナ先生、僕なら大丈夫です。

 アパートも借りられましたし、仕事も見つかりました」



「しっかりしてるのね…でも、困ったことがあったら相談に来なさいね。ここは貴方の育った家なのだから」



「はい、ありがとうございます。必ず成功して寄付しにきますね」



「ふふふ、ありがとう。無理しないでがんばりなさい」



「はい、もう行きます。ルーナ先生も元気で!」



 僕は、そう言って10年過ごした孤児院をあとにした。


 城塞都市エトスは、シュガレスト王国の西部中心都市で、その大きさは王国内で3番目の都市である。


 都市の北、西は山に囲まれ、南は大森林が広がる。

 中でも西にそびえる白掌山は霊峰と名が高く、民間信仰の対象となっている。


 人口は、約8千人であり、主な産業は商業と林業であり、北の山で鉱石の採掘がおこなわれているので、その取引の為、東にのびる街道を商隊が行き交う姿が毎日の様に見られる。


 裕福な街ではあるが、この街に限らず孤児院に住まう者は、国の決まりにより15歳になると、出なければならない。


 シオンは、12歳になってまだ3ヶ月であり、出ていかなければならない年齢ではなかったが、昨年の夏に近隣の地で発生した蝗害により、街にも多くの孤児が流れてきた。

 飲まず食わずで歩いて来たのか、服を擦り切らせ、体は痩せこけた自分より幼い子が数名、孤児院の門を叩いたときに出ていくことを決めた。


 孤児院に併設された病院の介護職員でもあるルーナを手伝い、街を走り回るシオンを、街の人も好意的に見ていた。


 その結果、シオンの決断を街の人も後押しすべく、その好意によってアパートと職場を手配してくれたのだ。




 数刻後、シオンの姿は、孤児院からは多少の距離があるものの、大通りからは一本裏の路地沿いという中々の好立地に建つアパートにあった。


 シュガレスト王国の建築技術は、いぜんから他の国より発展しており、シオンの部屋も3階建てのアパートの、3階の1室だった。


 部屋はよく清掃されていて築年数ほどの古さを感じさせなかった。一間ではあったが、下着の替えくらいしか持たないシオンには、十分広く感じた。


 部屋を入ると扉の横に大きな瓶が置いてあり、瓶の口の高さの少し上の壁に、蛇口と硬貨を入れる様な切れ込みがあった。


 穴のサイズは大鉄貨が通るサイズで、後に聞いた話では、大鉄貨1枚を穴に入れると蛇口から水が出て、瓶を満たすとの事だった。但し、間違えて他の硬貨を入れても「水は出ないし、返しもしないよ」とのことだった。


 大鉄貨1枚とは、庶民向けの食堂で昼食が食べられる価格である。設置の瓶のサイズは水浴びでもしなければ2日は保つ量なので、3階まで運ばなくてもいい利便性を考えれば高い値段とはいえないが、1階の井戸を使えばタダなのでシオンはなるべく使わないと心の中で決めた。


 ちなみに、大鉄貨以外の硬貨とは、下から石貨・大石貨・銅貨・大銅貨・鉄貨・銀貨大銀貨・金貨・大金貨となり、大鉄貨1枚は鉄貨5枚と同等、大鉄貨2枚は銀貨1枚と同等である。


 初めて蛇口を使った時に、鉄貨を5枚入れたが水は出ず、アパートの管理人に先程の言葉(返しはしないよ)を頂戴してからは、尚のこと使いたくなくなった。




 シオンが、ベッドと壁付けのテーブルだけの部屋に入り、空気の入れ替えの為に窓をあけると隣の建物が見えた。


 隣の建物は、流石は大通りに面した1等地に建つだけあって、装飾も華美な石造りの5階建ての建物であった。


 その威容に圧倒されていると、目の前の部屋と思しき窓が開き、同じ年頃の女の子が顔を出した。


 女の子は、シオンと目が合うと、一瞬固まり、すぐに気を取り直したかと思うと、慌てたように窓を閉じた。その窓は閉じた衝撃か、ガラスがしばらく揺れていた。


 シオンは、(なんだよ!)と思いながらも、板だけの窓を閉めて、日用品を買いに行くべく、孤児院を出ると決めた日から今日まで貯めた給金と、ルーナから貰った気持ちばかりの餞別をポケットに入れて部屋を出た。


 それが、キャスとの最初の出会いだった。



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