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「実は僕の病の原因は…」



 シオンは話が暗くなる事を二人に詫びてから話し始めた。


 守りたいものがあった事、自分の魔術の才能を見出してくれた人がいた事、ギュウチに魔術を教わった事、その魔術で大切な人を守る為に敵と戦った事、脅威の撃退の後に自身の魔袋が破損した事を、魔力圧縮とその強化法についてはその危険性からぼかしつつ魔力欠乏症に至った経緯を話した。



「なぜ師ともいえるギュウチと君は闘っていたんだい?」



 ロウの質問にシオンはどう答えるか迷ったが全てを話すことにした。



「アイツは師のふりをして僕を害そうとしていたのです」



「どういうことだい?」



「アイツの仕えるお嬢様と僕は親しくさせてもらっていましたので…」



「何っ?そんな事でかい?」



「はい、本人が言っていましたが、僕が邪魔で仕方無かったそうです。

 自分の障害になるからと、僕の性格を読んで事故が起きるように誘導してたそうです」



「なるほど…」



「事故が起きて僕がこんな身体になると、そのお嬢さまは責任を感じたのか、より親身に世話をしてくれました。

 でも医師の見立てでも快復の見込みは無く、お嬢さまを始め、幾人にも迷惑をかける事になったので僕は屋敷を退去したのです」



 シオンは心の中でキャスやカルシスを思っていた。



「アイツは僕の考えた技、その技のせいで欠乏症になった危険な技なので誰にも伝える気はありませんが…

 その秘密と僕の命を、自ら奪いたくて追ってきたのです」



 二人が圧縮強化法に興味を示してはと楔を打ったシオンだったが、二人は意外にもシオンの話の内容以上には興味を示さなかった。



「医師にも匙を投げられたので、僕は生を諦めています…

 せめて憧れの白掌山で最期をと思って登ってきたのですが…

 ギュウチの考えを知った以上、お嬢さまの事だけが心残りです…」



「ギュウチ…渡牛の事は街に連絡済だから対策を打つことだろう…」



「えっ!ありがとうございます…」



 ロウの言葉はシオンにとって、この数日の間、とても引っかかっていた事なのでホッとするとともに心残りがなくなり清々しい気持ちになった。



「師匠、本当に改善する方法は無いのですか?」



 今まで泣きそうな表情で話を聞いていたスゥがロウにそう尋ねた。



「普通、魔力欠乏症は一晩寝れば治るものだからな…

 慢性など儂も聞いたことがないのだ…」



 縋るような目を向けるスゥをロウは優しく諭した。



「スゥさんありがとう…

 でも多分無理だと思う…

 魔袋に穴が開いてしまってから、魔力が補充される度にそこから流出して欠乏症になっているんだ…

 知ってるか分からないけど魔袋は物理的に存在するわけじゃないから、塞ぐ手段が無いんだよ…」



「でも、そんな…」



 スゥは達観したかのようなシオンの顔を見るとその生命を惜しまざるには負えなかった。


 シオンの話から伺えた正義感、義侠心、優しさ、それらは自分もギュウチとの戦いの中で体験したのだから尚更だった。


 ロウも同じ様にシオンを惜しいと思っていた。


 シオンの生き様、死の淵に有って尚、他人を思う、その姿勢が何故か懐かしい人を連想させたのだ。



「少し考えてみよう…」



 ロウはこの難しい問題に安易な言葉を発したくは無かったが、何とかしたいという思いもあり、そう言った。



「ありがとうございます…」



 既に諦めているシオンにとって、気休めにもならないロウの言葉だったが、その気持ちに対して礼を言った。






 体調の良かったのは、その日が最後とばかりに、あれから日に数度と発作に襲われる日が続いた。


 スゥはあの日から、より献身的にシオンの世話をしていたが、シオンの体調は、発作の度に疲弊し悪くなる一方だった。


 ロウも一派に伝わる薬を煎じたり、なんとかしようとしてくれていたが、どれも一時の気休めにもならない程度に留まった。



「スゥさん…本当にありがとう…

 僕の為に君が涙を流すことは無いよ…」



 スゥは時々、シオンに背を向け、涙ぐんでいることがあった。


 自らの力の無さへの嘆きか、知り合った者の死への階段を看取る悲しみか、涙の理由はスゥ自身にも解らなかった。


 涙を流している事をシオンに知られ、あまつさえ慰められている現状にスゥの心は千々に乱れた。






 日は進み、いよいよシオンは最後を迎えるばかりになっていた。


 発作の間隔は狭まり、食事は喉を通らず、寝たきりの身体は痩せ、目は窪み、ベッドから起き上がることなく、ただただ一日を過ごした。


 それでもスゥがいつも側にいてくれたのでシオンは寂しさだけは感じずに居られた。


 その日、二度目の発作が落ち着いた頃、このところ姿を見せなかったロウがシオンのもとにやってきた。



「シオン、そのままでいいから話を聞いてくれ」



 目だけで返事をするシオンにロウは話を続けた。



「お前を救える可能性が一つだけある…

 あくまで可能性だが、今のままでは確実に数日で死を迎えるであろう…」



 ロウの可能性という言葉を聞いて、シオンよりもスゥの顔が綻んだが、続いた言葉に直ぐに曇った。



「その方法とは我ら白掌山派の秘技にある。

 しかし、我ら白掌山派は、一族の者しか一門に加えない決まりなのだ。

 それ故、お主のような義侠の者を救う為とはいえ可能性でしかない現状での技の伝承は儂とて簡単には判断が付かなかったのだ…」



「師匠…」



スゥが悲しみを帯びた声をあげた。



「まぁ待てスゥ…儂も考えたのだ…

 善人を救う可能性があるのに手離してよいのかと…

 そこでシオン、お主に一つだけ魔術を教えることにした。

 武技について一手も教えなければ弟子とも一門とも呼べないだろう…

 だから魔術だけだ…

 どうだ、それでも良ければやってみるか?」



 正直、シオンは今更何かが変わるとは思えなかったのだが、ロウの一門の決まりを超えてまでの提案と、何よりスゥの期待の込められた目に見つめられて「お願いします」と声にならないながらも返事を返した。



 ロウはシオンの口の動きを見て満足そうに頷くと言った。



「うむ、では一つの魔術を授けよう…

 その術の名は「回路循環法」という」




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