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(キャス?)



 シオンは、はっきりとはしない意識の中、誰かの小さな手が額の汗を拭ってくれているのを感じ、キャスが来てくれたと喜んだ。


 ともすれば散っていきそうな意識を留めて小さな手の主を見ようとしたが視点を合わせようにも上手くいかず、全てが夢か現実なのかも解らなくなって意識を手離した。





 どのくらいの時間が経ったのか判らないが、長い間、微睡みのような時間を過ごす中で何度か、甘味のあるものや苦いものが口の中に入ってきた。


 皮肉にも甘味よりも口に広がる苦みこそが、シオンを生へと繋ぎ止めていた。


 自覚はないのだが、顔を顰めているのであろう、苦みの後には必ず小さな手が頬や額を撫でてくれるのを感じた。


 キャスにしては小さな手に、自分の状況がより解らなくなり不安も感じていたが、自分の境遇を思い出し、今まで以上の悪いことなどそうないと高を括った。





 そうやって何日か過ごした後、シオンは視覚がはっきりとするのを感じた。


 身体を動かせば痛みを感じるので、目だけで辺りを見廻したが、寝かされていたのは明らかに知らない部屋であった。


 部屋は清潔を保たれていたが古めかしく、自分のアパートと比べても裕福さは感じられなかったが、正に清貧という言葉が相応しい雰囲気であった。


 シオンの目覚めに気付いたのか、傍らに立つ少女が誰か人を呼んだ。


 目だけで少女を見れば、着ている服装からギュウチより助けてくれた少女だと判った。


 あの小さな手は少女のものだったのかと、若干の気恥ずかしさを感じていると、部屋に白髪交じりの男性が入ってきた。


 男女の別はあるものの、男性も少女と同じ様な服を着ており、二人の繋がりを感じた。


 シオンは男性が自分を見て小さく頷くのを見て礼を、と起きようとしたが、どうにも起き上がることはできなかった。


 少女は男性が席に着くのを待ってからシオンの方へ向き直り、今日までの事を教えてくれた。


 少女の名はスゥ、男性はロウといい、ともに白掌山に住む白掌山派の師弟とのことだった。


 この草庵は、ギュウチと対峙した付近から少し登った場所にあり、普段は訪ねる者も限られた静かな場所の中、耳の良いスゥが剣戟の音を聞きつけて様子を伺いに出たとのことだった。


 シオンの手足には骨折があったが、ロウが既に継いだので時間を掛ければ元のように動かせると聞かされた。


 シオンは改めて礼を、と思ったが、やはり身体は動かなかった。


 ギュウチに話が及び、ギュウチの過去や素行を聞かされて唖然としたが、自分の命と天秤に掛け、ギュウチを取り逃がしたと聞いて、キャスの事を思い不安が過った。

 しかしそれもロウさんが近隣に注意を促すと言うのを聞いて安心した。


 だいたいの状況を教えてもらい理解したシオンだったが、久々に頭を使ったせいか、とても疲れを感じ、またスゥもそれに気付いたのか「また元気になったら話しましょう」と話を切り上げてくれた。


 シオンは微睡みの中、自分に残された時間の中で、どうこの恩を返すべきかと思いながらも、いつの間にか眠りについていた。






「スゥ、少年はどんな状況だ?」



 師匠でもあるロウの問いかけにどう答えるべきかスゥは迷った。


 というのも、骨折はまだしも、他の傷は塞がり、腫れもなく毒の心配も、もう無いにも関わらず、体力の回復が異様な程に遅かったのだ。


 かといって、少年は「これを機会に」とばかりに好意に寄生している様子ではなく、多いときには日に数度、発作的に苦しみ出し、汗は噴き出し、意識を飛ばして倒れ込むこともあったのだ。


 傷や体力低下はまだしも、発作についてはロウも心当たりがなく、本人に聞こうにも話す元気はまだ無いようで、ほとほと困っていた。







 そうこうしている間に、少年が目覚めてから三日が経っていた。



「だ、大丈夫ですか?」



 少年を寝かせている部屋にスゥが入ると調子が良いのか、少年は上半身を起こしていた。



「いつもありがとうございます。

 今日はなんだか調子がいいようです。

 あ、そうだ色々と話せそうなので出来れはロウさんを呼んで頂けますか?」



 その時、話し声を聞きつけたのか、呼ぶまでもなくロウも部屋に入ってきた。



「早速ですが、私の名前はシオン…」



 シオンは簡単な自己紹介の後、孤児院を出てから自分の身に起きた数奇な出来事を話した。


 シオンの話をロウは黙って聞いていたが、スゥは話しが進むごとに相槌とともに様々な表情を浮かべていた。


 ギュウチに魔術を教わる場面では顔を顰め、ダルローとの死闘ではハラハラとし、公邸を出るくだりでは涙を見せていた。


 一気に話したことで喉の渇きを感じたが、すぐにスゥが気付いてくれて、シオンは手渡されたお茶を飲んだ。



「言いづらいのならば聞かぬが…

 君の症状に不審な点があるのだか、心当たりはあるか?」



 シオンは迷った。ロウの指摘の答えである死病のことは、話せば場が沈むことが分かっていたので、ぼやかした所だったからだ。



「実は僕の病の原因は…」



 聞かれたのならば隠すことでもないので、シオンは自身の魔力欠乏症について話を続けた。




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