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「待ちなさい!」



 今まさにシオンの頭上に剣を振り下ろそうとしていたギュウチは、何者かと声に振り向いた。


 そこに立っていたのは、シオンと同じくらいの歳の痩せた少女だった。


 この辺りの山岳民族なのか、街の者とは違う装いの白い衣装を身に纏い、手には杖を携えていた。



「あん? なんだテメェ? 引っ込んでろ小娘がっ!」



 ギュウチは、生意気な小僧を斬り殺すという楽しみを途中で止められた事に腹が立ち、少女を怒鳴りつけた。



「ここは聖域よ、ここでの殺生は誰であれ許さないわ!」



 ギュウチの怒りなど知った事ではないとばかりに少女も強く言い返した。



「許さないだと?

 誰に物を言ってるのか、わかってないようだな…」



 ギュウチは、またしても嗜虐的な笑みを浮かべ、少女の方へ向き直った。



「お嬢さん、逃げて!」



 シオンは片手ながらギュウチの腰あたりに抱きつき、少女に逃げるように言った。



「邪魔してんじゃねーよ!」



 ギュウチは、シオンの腕を簡単に振り払うと、地に伏したシオンの背を二度、三度と踏みつけた。



「止めなさい!」



 少女は叫びながら、手に持つ杖でギュウチの胸を目掛けて突きを繰り出した。


 その突きをギュウチはうまく躱したが、見た目に見合わないその鋭さに内心舌を巻いた。



「やるじゃねーか小娘! 手を出す以上、わかってんだろーな!」



 ギュウチは剣を少女に向けて構えた。



「サーキット…」



 少女が何かを呟くと、少女の全身が淡い光に包まれた。



「ほう、魔術か…

 だが、珍しくもない!」



 ギュウチも剣を持つ手を光らせて少女に斬り掛かった。



「あ、危ない!」



 シオンは息も絶え絶えながら少女に注意を促した。



「平気よ!」



 少女はシオンにそう返事をすると、ギュウチの剣を軽やかに避けて、杖の一打を繰り出した。



「重てぇーな!」



 そこはギュウチも然る者、返す剣で少女の一打を跳ね返そうとしたが、思いの外の重い一打に逸らすのが手一杯で、思わず叫んでいた。



「ふふ、口程にもない…

 手を引くなら追わないわよ?」



 キャスに危険が及ぶことを考えたシオンは、できればここでギュウチを逃さないでほしいと思ったが、ギュウチの実力を知る身としては、とても言い出せなかった。



「ケッ、調子に乗りやがって!

 同時発動なんて珍しくもねーんだよ!」



 ギュウチの脚も光を帯び、その勢いで再び少女に斬り掛かった。


 初めはよく耐えていた少女だったが、地力の差か、徐々に押し込まれる展開が増えてきた。


 少女の杖術は中々の業前であったが、如何せん歳か性差か熟練度なのか、力の差を超えるには至らず必死に剣を捌くも、額に髪が貼り付くほどに汗まみれとなっていった。



「そこのあなた、早く逃げなさい!

 私も持たないかもしれないわ!」



「クク、今更、逃がすわけないだろう!」



 初めてもらす少女の弱気な言を聞いて、ギュウチは今まで以上に嗜虐的な笑みを浮かべた。



(ふん、どこの小娘か知らんが、相手の方が先に魔術の発動をかけてる以上、俺様の負けはないな!)



 均衡は突然破られた。


 力を込めたギュウチの一太刀を少女は逸らしそこね、杖でまともに受けてしまったのだ。


 少女の杖は、三分の一ほど切り取られ、切っ先を失った刺突では威力が足り無くなったのは誰の目にも明白だった。


 ここぞとばかりにギュウチも大振りの一撃で止めをはかったが、今度は少女の杖に軽く阻まれた。


 なんと不思議なことにギュウチの方が先に魔術が解けたのだ。



「何っ! 貴様何をした!」



「あら、此処が何処だか忘れたの?」



 先に魔術解除となったことに納得のいかないギュウチは、少女に場所を聞かれ気が付いた。



「小娘、貴様、白掌山派かっ!」



「ここは白掌山よ! 答えるまでもないでしょう!」



 少女もギュウチの動揺をみて、ここぞとばかりに杖を棒の様にして打ち掛ける。


 形勢逆転、剣の技量自体は然程では無いギュウチは、少女の攻勢に防戦一方となった。



(頼む、そのまま其奴を倒してくれ!)



 シオンはキャスの事を思い、他人任せながら心で祈った。



「ケッ、その程度か?白掌山派!」



 少女の攻勢も束の間、ギュウチが叫ぶと共に、剣を持つ手が再び光り輝き、横薙ぎ一閃、剣は少女を襲った。その余りの威力に少女は吹き飛ばされて地面を転がり地に伏せ動かなくなってしまった。



「ハァハァ、その程度か?白掌山派」



 ギュウチは肩で息をしながら剣を引っさげて少女の元に向かおうとした。



 あっという間の逆転劇にシオンは為す術もなかったが、少女の危機と思い、手元に転がっていた石をギュウチ目掛けて投げようとしたが、腕は折れているのか激痛が走り、石は手からこぼれ落ちただけだった。


 しかしギュウチは、その音に敏感に反応し、シオンの方へ振り向いた。



「そういやぁ、お前…

 手癖が悪くて石礫が得意だったな…

 そんなに好きならこれをやるよ!」



 ギュウチは漬物石大の石を拾うとシオン目掛けて投げつけた。


 シオンに避ける術もなく、折れているとおもわれる脚に直撃、シオンは悲鳴をあげた。



「や、止めなさい… この山で無法は許さないわ!」



 シオンの叫び声が聞こえたか、少女は膝立ちとなって、半分程の長さになってしまった杖を構えた。


 が、その身体は震えていた。





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