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「俺はさっき、頭でシミュレート…いや頭で計算したが、多分魔力のストックは、お前が思っているより“一”少ない筈だぞ?」



「シミュ…なんですか?」



「メンドクセーから簡単に言うと、圧縮比が二分の一だとするだろ?

 “四”入る器としたらいくつ入るよ?」



「えっ?“八”ですよね?」



「と思うだろ?

 だが入る数は“七”なんだよ」



「な、なぜですか?」



「前にも言っただろ?

 魔力の最低はあくまで“一”であって端数はねぇーんだよ、忘れちまったのか?」



 シオンは慌てて指折り数えた。



「あっ!」



「そうだよ、最後の一日は“0.5”分の隙間しか空いてねぇーんだから、あくまで魔力が魔袋の中で溜まる以上、どこまでいっても“一”にはならねーんだよ!」



 シオンは返す言葉がなかった。



「魔力においては“0.5”は存在しねぇ、だからカウントより一回分少なくなって、魔袋を空にしちまったんだよ!

 ザマァねーな、シオンさんよ!」



 シオンは震えていた。


 確かにギュウチの説はシオンとしても納得できるものであり、実際その通りだと思われた。


 だが、ギュウチの人を小馬鹿にした言い方が無性に腹立しかった。


 元々、ギュウチは周囲の者を小馬鹿にした態度を取ることが多かったが、それでもシオンは年齢も上、生命を助けられた事、何より教わる側として気にしない様にしていた。


 だが、ここに至ってまで誂うようなその言動に、余命幾ばくもない身のシオンも我慢の限界を感じていた。


 そう、シオンは怒りに震えていたのだ。



「ギュウチさん、用が済んだのならもう行ってもいいですか?

 俺には時間も少ないもので…」



 シオンは、それでも震える手を強く握りしめ、ともすれば引きつりそうになる顔で笑顔を作り、言葉を選んでそう言った。


 それが師ともいえる相手への精一杯の敬意だった。



「おう、そうだったなシオンちゃんよぉ〜

 よし、俺が直々に送ってやろう!」



(まだ誂うか!)



「いえ、結構です。

 決まった行き先がある訳では無いですし、御手を煩わせるのは…」



 シオンはそれでも丁寧さを心がけて返事をかえした。



「あん?

 送ってやるって言ってんだろ?

 師弟みたいなもんなんだから遠慮してんじゃねーよ!」



(この人は何を言ってるんだろう?

 俺はこの山の頂上を目指してるんだぞ?)



「いえ、これから俺が向かうのは…」



 言いかけたシオンを衝撃と共に凄まじい痛みが襲った。



「だからぁ〜、送ってやるって言ってんだろ?!」



 シオンは目の前が眩み、身体全体が痺れて動かせなかったが、それが発作ではなくギュウチに蹴り飛ばされたからだと分かった。



「ギュウチさん…な、何を…」



「あん? テメェも鈍いなぁ〜、さっきから言ってんだろ?

 俺がオメェを黄泉の国とやらに送ってやんだよ!」



 ギュウチは嗜虐的な笑みを浮かべながらシオンに近づくと、立ち上がろうと伸ばしたシオンの手を容赦なく踏みつけた。



「グワッァ!

 な、なんでこんな事を…」



 シオンは整わない息を抑えようと胸元を握りしめながら言った。



「あん?

 テメェが気に食わないからに決まってんだろ! このくそガキがぁ!

 オレはよ〜、こっちの世界なら有だなと思ってテメェがすり寄ってくる前からお嬢を狙ってたんだよ!

 それを横から出てきて邪魔しやがって!」



「で、でも、それは…」



「でももクソもねぇーんだよ!

 時間を掛けてようやっと近づいたのによぉー、「シオンに魔術を教えたのはあなたね!」なんて言われて今じゃ目も合わせてくれねーわ!

 テメェのせいだろーが!」



 そう言って、やっと上半身を起こしたシオンに蹴りを入れた。



「ングッ!

 で、でもキャスを、キャスを守るように言ったのはギュウチさんじゃないですか!」



「あん? 誰が活躍しろって言ったよ!

 テメェは無惨にヤラれちまえば良かったんだよ!」



 ギュウチは言いながらシオンの頬を引っ叩いた。



「ククッ、シオンさんよー、ザマァねーなぁ!

 手も足も出ねーかぁ?」



「アンタみたいな人にキャスが振り向くわけないだろう!」



 シオンはギュウチの余りの言動に、先程までの師も同然という思いは無くなり怒鳴り返していた。



「あん?

 今更、好意なんて期待してねーわ!

 テメェをここで血祭りにあげて、テメェの死体をお嬢に見せつけて、失意のお嬢を可愛がってからトンズラさせてもらうわ!」



「く、狂ってる!」



「あん?

 こっちの世界には、たいした法もねーんだから、力の有る者はやりたいホーダイでいいんだろうがっ!

 上手くやりゃぁ公爵家の繫がりにもなれると思ってたのに謀反だのなんだの…

 お嬢も、もう身体くらいしか価値ねーだろ!」



 ギュウチはニヤニヤ笑いながらシオンに近づいた。



「キャスを侮辱するな!」



「ほう…まだ睨む元気があるとはなっ!」



 シオンは殴られても、それでもギュウチを睨むのを止めなかった。



「いたいた、あっちの世界にもお前みたいなのいたよ、弱っちークセに頑張ちまってよぉ〜、ウゼぇんだよ!」



「さっきから、あっちだのこっちだの何を言ってんだよ!」



 ここでギュウチに殺されては、キャスの身にも危険がせまると知ったシオンは、最低でもなんとか脱出をしなければならないと先程から無理を承知で魔力を使おうとしていたが、当然ながら何の反応も無かった。



「テメェごときに一々説明してられっか!

 そろそろ嬲るのも飽きたな…

 あれ待てよ、コイツの死体なんて運ぶのメンドクセーなぁ…

 あ、そうだ!首だ!首だけでいいや!テメェもそう思うだろ?」



 ギュウチは何処から出したか、手に長剣を持ち、腕や足があらぬ方向に向いているシオンの前に立つと手にある剣を振り上げた。



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