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 部屋が静寂を取り戻す中、シオンが一人ぼんやりとしているとドアがノックされた。


「一人でいたい時程、来客があるな」と小声で独りごちながら入室を促すと、この屋敷の主、街の領主が入ってきた。


 もともと街の孤児院で育ったシオンにとって領主のエスト子爵とは、孤児院への援助を惜しむことなく行なってくれていたこともあり敬愛すべき領主であった。


 今も、自分の屋敷にいる一庶民でしかないシオンに対して、自らの足をもって訪ねるだけでなく、ノックをして入室を待つなど、貴族をよく知らないシオンでも、あまり聞かない対応だということは分かっており、尚の事、子爵への尊敬の念が深まるのであった。



「シオン君といったね?

 私の家の者達が、失礼な態度をとったみたいで済まなかった」



 子爵は、頭を下げることこそ無かったが、はっきりと謝罪の言葉を口にした。



「い、いえ、失礼だなんてとんでもない!こちらこそ御迷惑をかけまして皆様に申し訳ない気持ちです」



 シオンは(やはりまたその話か…)と思いながらも、子爵のあまりに丁寧な応対に恐縮しながら返事をかえした。



「そうか、そう言ってもらえると助かるな…」



 笑顔でそう言う子爵につられて、シオンも笑顔をかえそうとしたが、その後に続いた子爵の言葉に、かえそうとした笑顔を引っ込めせざる負えなかった。



「正直に言うと、君の扱いに皆が困っているのだ…」



 言い淀むこともなく、ハッキリと「困っている」と言った子爵だったが、そんな子爵にシオンは不思議と嫌な感情が生まれることなかった。


 それどころか、頭の靄が晴れるような感覚になり、スッキリとした気分だった。



「はい、私も気付いてはいました。

 ただ、状況を誰からも聞かされていなかったので甘えてしまいました。

 すみません…」



「そうか、聞かされてなかったのか…

 そうだよな、ましてや体も不自由なのだから無理もないことだ」



 シオンの言葉に、子爵は数度頷くと言葉を続けた。



「君はキャスリンの立場を知っているね?」



「貴族令嬢で生命を狙われているのは知っています」



「君はその程度の知識しかないにもかかわらず…

 …私から話すのもどうかと思うが、君には知る権利があると思うから話させてもらうが、キャスリン様は、シュガ公爵家の令嬢であらせられる」



「シュガ公爵家?」



「うむ、シュガ公爵家は国の北に領地を持つ大貴族だ。

 家祖は、我らの国の建国王の兄君であり、建国時に公爵となり「北の蛮族に対する防波堤になる」と言って自ら領地を北部に持ったのだ…」



 続くエスト子爵の話によると、この国は三人の兄弟によって建国されたということだった。


 シオンは初めて聞く建国史に興奮を抑えられず少年らしく聞き入った。


 建国王ポルトに比べて、その兄であるアトスは戦神と呼ばれるほどの武力を誇った所謂武人だったが、内政や人民を慰撫するといった方面はからっきしであった。


 アトス自身、その短所を十分に理解しており、建国の際に王にはポルトがなるべきと言って自分を慕う軍を連れて北部に行ってしまった。


 王となったポルトは、アトスの行動を追認し、更に公爵に封じた。


 これに収まらなかったのが、王の双子の弟・ラミスだった。


 ポルト王はアトスと同時にラミスも公爵に封じたが、ラミスはこれに反発、一触即発の危機となった。


 ポルトとラミスの能力には実際、目に見えての差は無くラミスからすれば弟だから選ばれなかったと感じたのだろう。


 だが、アトスは生まれ持っての性格が、陽気な気質のポルトを推した。


 前王朝の圧政に立ち上がり、建国まで辿り着いたからこそ、国民の不安を除くためにもポルトの方がより向いているとアトスは考えたのだ。


 二対一の状況に不利を悟ったラミスが折れる形で国政はスタートした。


 その際、王家の姓・シュガレストに憚って、アトスとラミスは姓を変え、アトスはシュガ、ラミスはレストを姓とした。


 しかしその後、三代目の王が暗愚であったこともあり、レスト公爵家が反乱を起こした。


 レストの乱と呼ばれた戦いのその結末は、シュガ公爵家の介入もあり、王家も過失を認め、王の隠居で幕を閉じると思われた。


 が、戦後の調査でレスト公爵家に他国との同盟の事実が発覚し、王の隠居とレスト公爵家の取り潰しという両成敗となったのだった。


 四代目の王は、表向きはシュガ公爵家に感謝を表明していたが、内心は未だ兄格気質で中央政界に発言力を持っている公爵家にこの時、危惧を覚えた。


 これより、シュガ公爵家の力を削ぐことが王家の申送り事項となっていたが、歴代の王家と公爵家が表向きぶつかる事はなかった。


 現王は、三代目以来の暗君と噂があがるほどの愚王であったが、王家の課題である公爵家の取り潰しこそが、歴代王を超える事と熱心に取り組んだ。


 しかし、現公爵に付け込む隙がないとみると王は力でゴリ押す方法で潰しに掛かった。


 だがその結果、その手法を危惧した貴族達をも巻き込むこととなり、いたるところで疑心暗鬼による対立が生まれた。


「このままでは内戦になる」と危惧した公爵が王との会談を望んだ。


 王も会談を快諾したことにより、貴族達も混迷が治まると喜んだのも束の間、王はその会談の場で公爵を暗殺、自らが討ち取ったと誇らしげに発表したのだ。


 暗殺された公爵が、キャスの祖父にあたる人物で、一緒に王都に行っていたキャスの父も幽閉され、王は他の公爵家の者にも出頭命令を出した。


 先に公爵の暗殺を発表してからの出頭命令に当然ながら公爵家は反発したが、父であり夫である新公爵が幽閉されていることもあり、キャスの兄と母は王都に向かってしまった。



「キャスリン様の家族は、誰も安否が不明でな…

 領軍も新たな公爵を救うと言って、すでに領内で出撃の準備が整っているそうだ。

 その旗頭として唯一、安否の確認が取れているキャスリン様へ領への帰還依頼が来ているのだが…

 一月経ってもキャスリン様は戻ろうとしない…

 その理由の一端が君だと聞いてな…」



 シオンは、なんとなく知っていたことが、予想を超えた大きな問題と知り唖然としたが、そんなシオンにエスト子爵は「キャスリン様の説得を頼む」とだけ言って部屋を出ていった。




いつもご愛読ありがとうございます。


真に勝手ながら8月の12・15日の更新は休ませて頂きます。

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