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「凄まじい剣気だな!」
自分の構えを見て軽い感想などを返すシオンに苛つきを覚えるダルローだったが、目の前の少年が見た目程、容易い存在ではないことは解ったので、その苛つきを頭から追い払った。
少年の構え、剣筋、足運びは、ダルロー達にも承知の王国剣術の基礎であり、だから尚更に部下二名が容易く斬られたことに理解が追いついていなかった。
ただこれは、認識のズレだけなのである。
人は何かにつけ間というものに囚われているものである。それは慣れ親しんだものほど顕著に出てしまう。
確かにシオンの剣は、ダルロー達にとって周知のものであり慣れ親しんだものでもある。それ故、シオンの身長、歩幅などからその間を読むことなど容易いことである。
だが、十代半ばの少年が魔術を使えるなどとはつゆにも思わなかったダルローの手下は、剣を受けようとしてからの急な加速に拍子が合わずに、その身で受ける事となったのだった。
もし、シオンの動きを横から見ていたのならば、結果は違ったのかも知れなかったが、それはもはや後の祭りである。
「小僧、もはや手加減はせぬ!
我が剣をその身に受けるがいい!!」
「へぇー、手加減してくれてたんだ!
そりゃ知らなかったぜ!!」
「その様な煽りにいつまでも乗るか!」
そう言って振り下ろされたダルローの一撃は、確かに王国一の名に相応しい迫力であったが、シオンはその剣をバックステップで躱すと直ぐさま、ダルローのもとへと飛び込み、剣を薙いだ。
ダルローもシオンの横薙ぎの剣を容易く躱し、距離を取ると笑い始めた。
「先程からの落ち着きの無い足踏み…なるほど、小僧、貴様魔術が使えたのか!」
ギュウチとの最後の授業から三日が過ぎた頃より、シオンはいくつかの魔術の検証を行なっていた。
ギュウチにもストックは三回までと言われていた為、四日目以降を勿体ないと感じていたシオンは、ストックを検証に利用していたのだ。
それは身体に対する強化魔術の有効条件とは何か?という疑問が湧いたからだった。
森へ行ったあの日、魔獣を制したギュウチは、魔術を二回使ったと言っていた。
それは、魔獣を殴りつけた時と攻撃を躱して蹴り上げた時だと言っていた。
ギュウチのアクションは、殴る、躱す、蹴ると三つであり、魔術二回では数が合わないことにシオンは気付いたのだ。
考えられる原因は、当然ながら脚の強化にあると踏んで、色々と試した結果、行き着いたの先が“足踏み法”だった。
シオンは検証の結果により、一つの魔術が切れるのはアクションの終了であると気付いたのだ。
その結果、拳打や蹴りの様に何かに当てることで終わるアクションは、当てることでアクションの終了判定となり、強化もそこで御仕舞となるが、移動においてはその限りではないことを見つけたのだ。
この事実は、各流派においては周知の事実だったのかも知れないが、独学のギュウチは気付いていなかった様でシオンにその説明はなかった。
「ええ、正解ですね。
そうと知ったら引きますか?」
「引く? プッ、やはり小僧だな、世を知らぬ様だ!」
そう言ったダルローの脚も一瞬、光を帯びた。そしてダルローは、その足を左右に摺り足で振り始めた。
(あっちの方がカッコいい!)
シオンは、その場で腿上げ運動をしている自分を省みて赤面した。
それを隙とみたか、ダルローが先程までとはまるで違う速度で斬りつけてきた。
間一髪、その斬撃を避けたシオンだったが、その一撃で自分との力の差を思い知った。が、そんな事を考える間も与えないとばかりに続けざまにダルローは剣を振るってきた。
始めの一、二撃は避けることができたシオンだったが、あまりの連続攻撃に剣で受けるしかなくなり、状況は一転して追い込まれ始めてしまった。
「なんだ小僧!その程度の剣技でよく大口が叩けたな!!」
基礎しか習っていないシオンが、王国最強に剣で敵うはずがなかった。
また足運びも、自力の差か、足踏みと摺り足の差なのか、速度的にも負け始めていた。
「小僧、ここまでだな!
貴様を斬ったのは王国最強騎士、ダルロー様だ!!
さらばだ小僧!!!」
「シオン! もう逃げてー!!」
キャスの目にもシオンとダルローの差は分かりすぎる程に見えていた。
剣技も速度も負けているシオンは、今はまだなんとか耐えているが、破綻は時間の問題だった。
ただ今ならば、その足でここから逃走すればダルローの狙いは私なのでシオンを追うことは無いと思ったのだ。
ただそれはすなわち、私の死が前提だったが、それでもシオンが目の前で斬られる姿など見たくなかったのだ。
「フフ、遅いわ!
今更逃げたところでお前を追って斬った後、あの二人も地獄に送ってやるわ!!」
シオンはもはや、ダルローの連撃を受けるだけで精一杯で双方に言葉を返す余裕は無かった。
「ダルロー、お願い!
その子は関係無いでしょ!!
私はどうなってもいいからもう止めて!!!」
「遅いと言っている!
腕も無いのにしゃしゃり出て、散々馬鹿にした言動をしたんだからな!!
一緒に送ってやるんだ、喜べ、嬉しいだろうが!」
すでにシオンの腕や肩、脇腹には避けきれなかった細かな傷ができていた。
その傷のどこも血が滲む程度でおさまっていたが、誰の目にも終わりは近いと感じさせた。
「キャス、心配かけてゴメン!
でもまだ大丈夫… “三”!!」
シオンの脚が再び光った。




