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『これで良かったのだろうか?』



 シオンは、一人残された部屋で自問していた。


 二人が(キャス&ミンティア)去った後、シオンは左手で自分の右手首を掴んだ。敵を斬った感触が手に蘇り震えが止まらなかったのだ。


 二人が居た場所、向かう場所は、生命のやり取りが日常的に存在する世界だったのだ。


 孤児院で育ったシオンだったが、先生方は優しく、仲間は同じ様な境遇の者ばかりで喧嘩さえ滅多に起きることはなかった。


 病院の手伝いをしていた際も、薬草の採集や先生が調合した薬の配達が主で、血を見る機会などほとんど無い生活だった。


 思えばキャスには初めから護衛がついていたのだ。


 それはキャスが何者かに狙われる可能性がある人物ということに他ならない。


 出会ってからまだ半年と少し、キャスの初めの印象は良くないと言えば、まだ穏やかな表現なくらいにシオンにとっては嫌な相手であった。


 でも付き合いが深まることで知ったキャスは、生きるということの意味を自分の中にしっかり持った少女であり、だからこそ時に他人に厳しいのだと気付いた。


 シオンは、答えの出ない自問と様々な想いに悩み疲れ、身体をベッドに投げ出した。


 ベッドに寝転び身体を伸ばすと腰に付けたままだった剣が音をたてた。


 シオンは、ベッドの縁に腰掛けて剣を抜いた。


 思えばこの剣もキャスが贈ってくれたものだった。


 それに憧れていた剣士の入口に立てたのもキャスのおかげだった。


 大貴族の騎士団長であるカルシスにも期待される程に腕を上げられたのもキャスの紹介のおかげだった。


 更には魔力も…





 シオンは勢いよくベッドから飛び起きた。


 答えはとっくに出ていたのだ。


 キャスから剣を受け取った時に、何を誓ったのか…?


 ギュウチに魔力圧縮を教わった時に何を約束したのか…?


 すべてはキャスを守るためと誓ったはずではなかったのか?


 シオンは今一度、剣を抜き、刃を確かめると納刀し、鞘を腰に差して部屋をでた。


 その顔は決意を持った男の顔だった。






 シオンは走った。


 領主館へ続く道は、普段ならばこの時間は真っ暗闇であるが、皮肉なことにキャスの屋敷を燃やす炎が、シオンの視界を明らかにしてくれていた。



『見えた!』



 領主館の正門のある通りに、躍り出たシオンの瞳はキャスの姿を捉えたが、状況はかなり不味いようであった。


 護衛のミンティアは傷を負ったのか地に伏し、庇う様に立つキャスの前には剣を構えた男と三人の黒ずくめの装束の者がいた。


 気丈にも男達を睨みつけるキャスに剣を構える男が言った。



「フフフ、時間稼ぎにもなりませんでしたな、もっとも稼いだところで結果は変わりませんが…」



 男の声は、この場を支配する者は自分だと言わんばかりの自信に満ち溢れていた。



「いや、そうでもないさ!」



 こちらに振り向いた男の形相は人ならざぬ者の様に歪み、水を差すものは何者であろうとも許さんとばかりの鋭い眼光でシオンへ怒鳴った。



「貴様、何者だ!」



 男の眼差しには、怒り、侮り、殺気などいくつもの感情が見て取れたが、シオンは不思議と怖さは感じなかった。



「シオン、気を付けて!そいつはカルシスよりも強いわ!」



 剣を構えるシオンの前に立つ、カルシスよりもいくつか若そうな男は、いかにも強者の雰囲気を漂わせていた。



「小僧、何のつもりだ!

 見れば騎士でも冒険者でもないそこらの子供だろうが!

 公爵令嬢ともあろう方が、この様な者を頼りにされるのか?」



「フフフ…おっさん、夜更けに得体のしれない奴らが女性を襲ってる…この街の男なら誰でも介入するわ、この変態どもめ!」



「シオン…」



 普段の姿から想像できないシオンの罵声にキャスはビックリしていたが、そこはシオンとて孤児院育ちであり、悪意をぶつけてくる奴らとの言い争いなどはキャスの住まう貴族の世界よりも経験があった。



「こ、この無礼者が!」



 ほんのちょっとの煽りで怒り狂う目の前の男に若干引き気味のシオンであったが、隊長らしきその男の激昂具合に他の黒ずくめの者も動揺が有ったのか、僅かに男達の陣形に綻びがみえた。



「“二”!」



 シオンは、目にも止まらぬ早業で、男達の一人を倒した。


 敵の男達は隊長格(ダルロー)を含め四人で、一足飛びで互いをフォローできる間合いで菱形に布陣していたが、興奮した隊長格が興奮して半歩前に出たのを見逃さなかったのだ。



「貴様っ!」



 シオンが倒したのは向かって左にいた男だったが、異変に気付いたダルローは、すぐさま振り向きざまに剣を薙いだ。


 シオンは、半歩の差でその一撃を躱すと、その勢いのまま、後方に陣取っていた二人目の男も一刀で倒した。


 ダルロー以外の黒ずくめは、剣の腕自体は然程でもなく、シオンの腕でも十分に通用した。



「させるかっ!」



 最後の黒ずくめに斬りかかろうとしたシオンだったが、背中に凄まじい剣風を感じたので、避けるべく横へと回転しながら、キャス達を背に庇う位置で剣を構え直した。



「やってくれたな小僧!」



 ダルローは完全に怒りの頂点にいるようだったが、流石は王国の筆頭騎士、怒りながらも戦闘に対する冷静さは取り戻した様であった。



「あんたの部下? てんで大した事ないな! あんたがさっきから小僧と呼んでる奴に手も足も出ずに負けてんだからな!」



 軽く笑みを浮かべながら更にダルローを煽ろうとしたシオンだったが、ダルローは今度はそれに乗ることもなく、剣を構え直した。



『凄まじい剣気!』



 ミンティアを支えるキャスも、ダルローの剣気を浴びて思わず震えた。





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