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私がシオンという少年と初めて会ったのは、まだこの部屋へ越してきて荷物の紐も解き終わらない頃だった。
建付けの悪い戸を開ける様なカタカタという音が外から聞こえ、何の気無しに窓を開けてみた先に彼は居た。
『レディの部屋を覗くなんて!』と抗議を込めて窓を勢いよく閉めたが、窓ガラスが大きく揺れてビックリしてしまった。
ビックリといえば隣家との距離の近さだった。
この街には元々、上級貴族が滞在するための邸宅は無かったし、あまり目立つわけにはいかない事情から選んだ家だったので仕方のない事なのかもしれないが…
仕方がないといえば、シオンも故意に覗いていたわけではなく、窓を開けたタイミングが偶然に合ってしまっただけと後から知って、シオンにもガラスにも悪い事をしたなと思った。
次にシオンを見かけたのは街の中だった。
あまりにも退屈なので、護衛のカルシス等に無理を言って街の市場を見学しに行った時の事だった。
あ、『アイツだ!』と目で追っていると、突然近くで喧騒が起こった。
喧騒は近づいてくるようで、私達一行にも緊張が走ったが、更に騒ぎが近づくにつれ、盗っ人を追い立てる人々の声だと知れた。
カルシスの指示で急遽その場を離れる事にしたが、『アイツは?』と目をやると、アイツはしゃがみ込んで何かを拾い、それを逃げる男に投擲したようだった。
投擲物は、逃げる男の足に当たったようで、それが切っ掛けで男は勢いよく転んだ。
アイツに目を戻せば、なぜだか場所を移して、倒れ込んだ盗っ人を取り囲む人々を離れた場所から見ているようだった。
私はカルシスに促されてその場を後にするために歩き始めたが、何か心にモヤモヤした物が残った。
歩きながら考えていたが、心のモヤモヤの原因は、手を出しながら名乗り出ることもしないアイツの態度にあると結論付けた。
私のいた貴族社会では『事に絡めば分け前を貰う』が当たり前であり、その交渉術も貴族の資質の一つとされていた。
だから手柄を立てながら、あっさりと手を引いたシオンにイラッとしたのだ。
なので一言忠告をしてやったが、当の本人はポカンとしていて、それが尚も腹ただしかった。
泣き止まない幼子に私は困っていた。
幼子は迷子のようで、気づいたら手を握られていた。
その小さな手を振りほどくほど冷たい貴族にはなりたくないと私は思っていたが、幼子の面倒など見たことないので、途方に暮れていた。
そんな時にシオンを見かけたので、すぐに巻き込んだのだが、シオンは幼子の扱いに長けていて、すぐに色々聞き出して無事に親元に返すことができた。
この件が、私のシオンに対する評価を大きく変えて、好印象を持つ結果となった。
シオンは、年相応の少年らしく剣に憧れを持っていた。
もう少しこの少年を知りたいと思っていた私は、シオンをカルシスに紹介し、一緒に剣の練習をすることにした。
悔しいことにシオンは、剣の才能があったようで、カルシスも役目上、基礎しか教えられないことを残念がるほどだった。
私の剣に対する向き合い方に不満のあったカルシスに唆されて、シオンと手合わせをしたが、すぐに勝てなくなった。
もちろん悔しかったが、この頃にはすっかり仲良くなっていたので強くなったシオンが何故か誇らしくもあった。
ある日、街の噂で近くの森の話を聞いた。
別に噂を信じたわけじゃなかったが、退屈を紛らすためにシオンを誘って行ってみた。
後に、その事を私は後悔した。
森で恐ろしい魔獣に出会った。シオンは、怯える私を先に逃がすとその場に残った。
私は走った。その日の魔力はすでに使っていたので自分の素の足の不甲斐なさに泣きたくなった。
もしあの時、ギュウチに会えなかったら取り返しのつかない事になっていたと思うと今でもゾッとする出来事だった。
無事?に戻ったシオンは何日も寝込んだが、命に別状はなかった。
訓練に復帰したシオンは、みるみるうちに更に腕をあげて、私では立ち打ちできなくなった。
その事件でシオンは、ナイフを失ったらしく、みたことないほど落ち込んでいた。
私はその姿に申し訳がなくて、サプライズで剣をプレゼントしようと、カルシスに色々アドバイスをしてもらった。
何日もかかり、出来上がった剣をシオンと取りにいったが、なぜか気恥ずかしくて素直にプレゼントと言えず変な感じになってしまった。
後日、カルシスとの鍛練を経て、シオンは素直に剣を腰に携えるようになってくれたので嬉しかったのだが…
カルシス、余計なこと言ってないでしょうね?
シオンはいつでも純粋だった。何事にも真面目に取り組む姿は眩しかった。
今も『助けて』と言えば、無下にはしないだろう…
でもそれは言えない…
私の敵は多分、この国の王だから…
絶対にシオンを巻き込んではいけない…




