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 シオンはその日、空気の熱さと外の喧騒に目が覚めた。


 だがそこに、いつも優しくシオンを起こすドアの隙間からの日の光は無かった。


 朝の準備をするアパートの住民等の声も無く、まだ夜中なのだと知った。


 熱気と喧騒は、木で作られた窓側からきていたのでシオンはキャスが夜中にまた何か変なことを始めたなと思った。


 流石に近所迷惑であり、シオンも朝は早いので一言くらい抗議をしようと窓を開けた。



 キャスの家が燃えていた。





 シオンは剣を取るとアパートの階段を急ぎ駆け降りた。


 キャスの家の正面に回ると、玄関先に黒ずくめの男が数人、火を消しにきた街の警備隊と向き合っていた。


 更には男達の足下に傷を負ったキャスの護衛が一人倒れていて動く様子がなかった。


 火は一階を横へ燃え広がった様でまだ二階より上には到達しておらず、窓からは煙が昇るだけだったが、男達と警備隊は牽制し合って膠着しており、時折、何かの爆ぜる音が辺りに響いていた。


 野次馬が出始めた為、警備隊はそちらにも気を取られていて、とても男達を排除して消火ができる状態ではなかった。


 そんな警備隊の様子に男達は笑みを浮かべながら燃える家を眺める始末だった。


 その時、窓のひとつから何かが降ってきた。


 それは黒塗りの短剣で、男達はその短剣を拾うと、その中の一人が剣を抜いて燃える家の中へ入って行った。


 嫌な予感を感じたシオンは、急いで自分の部屋へ戻った。




 放火は正面から何か薬品を使っておこなわれたのだろう。


 シオンのアパートと面している側は煙の出ている窓は有っても火はほとんど見えず、部屋の奥の方で揺らいでいるのが分かる程度であった。


 部屋へ戻ったシオンはベッドの板を剥がして、窓を開けてキャスの家のガラス窓へと渡した。


 シオンはこの時、不思議と恐怖は感じず、その橋を身軽に渡ると窓を突き破ってキャスの部屋に飛び込んだ。



「やぁ、キャス!

 やっぱり俺がお兄さんじゃない?」



「シ、シオン!」



 寝込みを襲われたのか、寝巻きの上に皮の防具というおかしな格好でキャスは震える手で剣を握っていた。


 部屋のドアの前では、キャスの護衛が戦っていたが、相手は二人いて、牽制に翻弄されていたのか、いくつかの手傷を負っていて明らかに不利な様子だった。



「一人受けます!」



 シオンは、そう言ってみたもののドアの前では並び立つスペースは無く、賊も知ってか廊下の左右に陣取り、無理攻めをしてこず部屋へ綴じ込めることを優先しているかのようだった。



「さっきからこいつ等、火が回るのを待ってるのよ!」



 護衛一人という数的不利ながら持ち堪えられていたのには賊の側に意図があったようだった。


 賊の方でもシオンの参入は意外であり、多少の動揺が見られたものの、基本姿勢は変えない様であった。


 床板の隙間から黒い煙が立ち上り、時間の猶予が無くなっていく中、シオンは迷っていた。


 シオンが渡ってきた板は健在だが、果たしてキャスは一人で渡れるだろうか?自分がアシストすれば渡れるだろうが、そうなれば賊側にしても突入してくる恐れがあるだろう。


 護衛を見捨てる選択をすればいけるかもしれないが、キャスはその判断を良しとするだろうか?


 足下から上がる熱気の中でシオンは迷っていた。



「キャス、ゴメン! “一”!」



 シオンはそう言うと、一、二歩バックステップをして助走をつけてドアの横の壁を思い切り蹴った。



「「「「なに!」」」」



 シオンが蹴った壁は瓦礫となりながら吹き飛び、その尋常ではない有り様に、その場にいた者たちが唖然とする中、崩れた壁から飛び出したシオンが賊の一人を斬った。



「小僧!」



 激昂したもう一人の賊が、賊を斬って体制の崩れたシオンをめがけて凶刃を振るおうとした。



「どこを見ている!」



 キャスの護衛もすぐに動き、その賊の背中を断ち割った。


 賊は二人とも地に伏した。



「シオン…?」



「よし、早く逃げよう!」



 何か言いたそうな表情でしゃがみ込むキャスの手を取ろうとしたシオンだったが、その手を取ることに躊躇した。


 自分の手が穢れてしまったと感じたのだ。


 シオンの気持ちを知ってか、キャスはしっかりシオンの手を握って立ち上がった。



「ありがとうシオン、もう大丈夫。

 ミンティア、もう行きましょう」



 賊の死体を調べていた護衛がキャスに呼ばれて戻ってきた。



「火が結構まわり始めてる、急ぎましょう」



 シオン、キャス、護衛の順で板を渡り、三人はシオンの部屋へと脱出した。



「これからどうする?

 逃げたのに気付かれたら、この辺りまで捜索に来るかもしれないぞ」



「一応、カルシスには領主館に保護してもらえと言われてるわ。

 ミンティア、そうだったわよね?!」



「はい、お嬢様」



「(お嬢様って隠す気ゼロか!)分かりました。それならすぐに移動しましょう!」



「いいえシオン、あなたはここまでよ…

 関係ないあなたをこれ以上巻き込めないわ…」



 そう言ったキャスの眼差しは、いつになく真剣であった。





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