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「シオン、すげーじゃねーか! やっぱ、お前にはセンスがあるぜ…」
指の合間からこぼれ落ちていく砂粒を見つめていたシオンに、ギュウチの言葉は届いていない様だった。
シオンは、手から流れていく砂の最後の一粒まで見届けようと目を離さないでいたが、正に最後の数粒が風に吹かれて行こうとする時に、突如、視界がブラックアウトして気が付いたら膝が地に着いていた。
「シオン、大丈夫だ、ゆっくり呼吸しろ」
ギュウチの言う通りに、四つん這いの体勢のまま、ゆっくりと呼吸を整えた。
一度だけ乗ったことのある馬車で味わった、何とも言えない胸のむかつきに似た何かは、呼吸を重ねるごとに薄れていった。
「落ち着いた様だな… あ、いい、そのまま座ったままで聞け!」
ギュウチは、立ち上がろうとしたシオンを片手で制した。
シオンは、無様な姿を晒したくなかったが、どうにもふらつきが止まらず、立つのを諦めた。
「何が起きたって顔してんな?
今、お前はな、魔力が枯渇寸前ってとこだ
気持ち悪さはすぐ治まると思うが…
魔術を使う者が、まぁ誰もが通る道って奴だな!」
「魔術を使う度に、こんなことになるんですか?
だとしたら僕には使い切れない感じですが…」
シオンは、いまだ残る胸の気持ち悪さに尋ねずにはいられなかった。
「うーん、人それぞれとしか言いようがないが、それで魔術が使えないという話しはきいたことがないから結局慣れだな。
まぁ、圧縮法を使う俺達には関係無くなる話だぞ?
圧縮分をどう使うか、自分で判断すれば枯渇は起きないからな!」
ギュウチの説明を聞いているうちに、シオンの体調は回復した。先程までの変調は鳴りを潜め、後遺症的なものも感じなかった。
「三雌雄の話は知ってたよな?
三雌雄といいながら四人ともだが、歴史を研究している奴等は、四人の力こそが今で言う魔術だと言っている。
まぁ、そうなんだろう、今ある魔術の流派は、どれも三雌雄が開祖だと言って憚らないからな…」
シオンは、ギュウチが突然、物語の話を始めたのを不思議に思ったが、ギュウチが話を続けたので、腰を折ることになるとためらい、質問を飲み込んだ。
「さっきも言ったが、大抵の人間が保有する魔力で出来るのは、身体の一箇所を強化することだけだ。
使い切っても一晩で、満タンまで回復するから、それを一と定義する。
魔術の発動には、この一が必ず必要で、足りなければ発動しないし、一を二つに割って使うこともできない。
つまり普通の人は、右手と左手を同時に強化できないんだ。
だが、英雄達の言い伝えでは、英雄達はそれぞれ身体の複数箇所を同時強化をしているフシがある。
四人が同じ方法かは分からないが、方法があるはずと思い、俺も圧縮法に行き着いたのさ」
今まで魔術と無縁だったシオンにとって、ギュウチの話は初めて聞くことばかりだった。
「今日は魔力を使っちまったから、もう魔力は空だろ?圧縮の方法だけ先に説明するけど、シオン、絶対最初は一人でやるなよ?
お前は何でも天才肌でこなしてるが、魔力操作は簡単に考えていいものじゃないからな!
振りじゃないぞ!やるなよ?絶対にやるなよ?!」
シオンにとってギュウチの使う言葉は、時々、聞き慣れない言葉が混ざるが、真剣さは伝わったのでしっかりと頷いておいた。
「分かりゃいいんだ
まぁ、圧縮法自体は実に簡単なもんだ
言っちまうと、魔力をそう意識するだけなんだわ!」
「えぇ?!」
シオンは、ギュウチが余りに軽く告げた言葉に思わず声が出た。
「あん? だってそうだろ?
元々、目に見えるわけでもねーし、腑分けしたってそんな器官は無いんだろ?
結局、魔術なんてものはいかにイメージをふくらませるかが問題なんだよ!」
「で、でも、もう少し取っ掛かりを…」
「ーんだよ!めんどくせーなー
いいか?よく聞けよ!
魔袋を桶だと思え、んで洗濯モンを漬け置きするみたいに上から押さえながら押すだけだ。
まぁ、明日の朝には満タンになるだろうから、次回までに袋のサイズと中の魔力を確実に認識できるようになっとけ!
もうそろそろ歩けんだろ?
今日はここまでだ、おりゃ帰るからな!」
「ありがとうございました!」
シオンは、慌てて立ち上がり挨拶をしたが、ギュウチは振り向きもせず広場を出ていった。
シオンはギュウチの後を追わず、一呼吸おいてから帰ることにした。
「どこ行ってたのよ?」
部屋に戻ったシオンが、空気の入れ替えに窓を開けると、向かいの窓からふくれっ面のキャスが顔を出していた。
「少し、走ってきた」
「走る? 何それ? 変なの…
まぁいいわ、明日ちょっと時間を頂戴ね」
キャスは、それだけ言うと、窓を閉じてカーテンを引いた。
シオンは昼に、理不尽キャスを可愛く思ったのは気のせいだったなと、閉じられた窓を暫く見ていた。




